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2016.07.09

経済記者×名物鉄道マンが語る「鉄道ビジネス最前線」

東洋経済鉄道特集セミナー

2016年7月8日(金)東洋経済新報社ホールで東洋経済記者で『鉄道完全解明2016』編集長の大坂直樹氏が司会者となって京浜急行電鉄の飯島学氏と西武鉄道の手老善氏の三人によるトークセッションが行われた。

第一部は大坂直樹氏による「鉄道ビジネスの現状」。

東洋経済鉄道特集セミナー

2008年4月に週刊東洋経済で鉄道革命という特集をやって、当時の原油高騰や環境問題などに対する警鐘としてモーダルシフトを訴える内容だった。これが評判が良くて以降は定番企画になり臨時増刊の形にまでなって毎年発行している。また最近では東洋経済オンラインというネット・コンテンツでも「鉄道最前線」という独立したサイトの様な形にまで発展してきた。

大坂氏は自分が鉄道が好きだからということもあるが、とにかく東洋経済ならではの記事を目指していると言う。

その例として「JR中央線」住みたい沿線で断トツ人気の理由という記事が紹介された。(東洋経済オンライン/鉄道最前線/2016年7月4日(月)掲載)

不動産屋さんに取材して書いたもので通常の鉄道雑誌ではまず取り上げない東洋経済らしい切り口であると大坂氏。

続いて鉄道会社、特に私鉄の経営多角化について。大坂氏は鉄道が儲からないから多角化をやっているのではないと言う。

大手私鉄、最も少ない南海電鉄でも売り上げの7割が非鉄道事業からで、西鉄になると売り上げの95%が鉄道以外からの売り上げ。

しかし、利益という面から見ると鉄道事業からの利益が高い。鉄道各社のトータルで見ると売り上げの7割が非鉄道事業。しかし営業利益という点では実は鉄道事業からの利益が半分近いのである。売り上げの3割の鉄道事業から利益の半分を得ているということになる。

東洋経済鉄道特集セミナー

売上高営業利益率でトップクラスの東京メトロ、阪急は24~25%というひじょうに高い数値である。つまり鉄道事業はとても儲かるのだ。

しかし、この「儲かる鉄道事業」も日本の人口減少という趨勢の前には如何ともし難い。そこで鉄道各社はそれに備えた経営の多角化を進めざるを得ないのだと大坂氏は言う。

氏が注目するのは宿泊特化型ホテル(いわゆるビジネス・ホテル)への投資。すごいのは相鉄で「相鉄フレッサイン」を展開、ホテルチェーンのサン・ルートを完全に子会社化して今や客室数では日本で5番目のホテルチェーンとなった。

同様に京王電鉄も京急電鉄も宿泊特化型ホテルを増やしている。小田急も宿泊特化型ホテルに意欲があるらしい。一方で近鉄などはやや静観している。

またオフィスビルに特化している鉄道会社もある。阪急は梅田駅前の開発に取りかかっているし神戸でも始める。西武はかつての赤坂プリンスの場所にオフィスビルが完成するし、今後もオフィスビルに力をいれる。

近鉄も東京にオフィスビルを購入した。東京メトロはバリアフリーを推進する中で地上にエレベーターなどの出入り口が必要になるため、いっそオフィスビルと共生する方向を考えているという。

駅周辺再開発も盛んになりそうだ。京急とJR東日本は品川駅前、西武も品川にホテルを二つ持っているので東京オリンピック後にオフィスビル化をかんがえているのではないか。既に所沢や池袋駅の周辺再開発に着手している。

小田急は新宿西口のスバルビルを買収した。周辺には小田急のデパートを含め多くのビルがあるので大々的な再開発を考えているのではないか。

続いて京浜急行の飯島氏が紹介され、登壇。

東洋経済鉄道特集セミナー

京浜急行を三浦半島を走る地元密着型の鉄道であると紹介。平野を走る鉄道と異なり人口や利用者が限定された半島という地盤に立つ鉄道として①地域の足としての信頼確保②定住促進③沿線交流人口の増加の3つの基本方針を紹介。

国土交通省を中心とする鉄道の日実行委員会が京急に対し「高度の安定の実現」つまり電車の遅れが少ないということを評価し表彰された。そこでは人間優先の運行管理思想の徹底が評価された。

簡単に言うとコンピューターや機械に任せた運行管理ではなく社員一人一人が自主的に判断しチームとして動くシステム、実は昭和から営々と続く全ての鉄道会社がかつて行ってきた方法を今でも京急は遵守しているのだ。遅れが発生しそうになった場合でも人間だからこそ可能な判断で列車を最適運行させることで列車の遅延を最低限に抑えている。

ここで印象に残った飯島氏の言葉。「ふだん機械に任せていて、突然、非常時に操作しろと言われてもなかなか出来ない、ふだんワープロで書いている人に急に漢字を書けと言う様なものだ」。

②の定住促進に向けては昨年12月に”モーニング・ウィング号”という朝の通勤時間帯に坐って出勤できる電車を作った。ここには鉄道事業者は毎日無事にお客様を運ぶだけでは無く、「一人でも多くのお客様が沿線に住みたくなる様な鉄道に自ら変わっていかなければならない」という社員の意識付けを含めあらゆる部署の担当者がこの列車を走らせるためのパスを出しあって実現したことに大きな意味があった。

③では羽田に到着されるお客様を如何に京急沿線に誘導できるか、言い換えれば魅力ある沿線というツールを用意できるかということ。そして今正に始まろうとしている品川駅周辺再開発ではそこに新たに就労される方々に安定輸送で快適な通勤を提供することで京急沿線に住んでいただくことが責務ではないかと考えている。

19時半、西武鉄道の手老善氏が登壇。

東洋経済鉄道特集セミナー

手老氏は新卒で東急バスに入社、JR東日本企画(広告代理店)を経て西武鉄道に入社。テレビ番組タモリ倶楽部の企画や鉄道系のコアなDVDの監修などの他自ら映像にも登場するなどその活躍は多岐に渡る。

手老氏が担当する広告、日本全体では年間6兆1710億円(2015年度)その中で交通広告は3.3%の2044億円。デジタルサイネージ(ディスプレイを使った広告)が伸びている一方で列車内の紙広告、中吊りなどの退潮が著しいとのこと。

展示会などのイベント・チケットを西武鉄道が運営する駅のコンビニで受け取ることが出来るサービスと共に中吊り広告での告知をセットするような販売方法など、近年の鉄道広告について紹介された。

映画試写会なども中吊りでの告知とセットでお客様を招待する仕組み一式(事務局、個人情報管理、抽選、発送など)を一括で請け負う。

ドア上の動画媒体も池袋線急行の駅間を基準時間に番組を制作することなどで乗客が最低でも一回は見る事が出来るというサービスを提供した。

他にも池袋駅リニューアルに伴うデジタル・サイネージの新しい展開などを紹介した。

すでに20時をまわった。ようやくトーク・セッションが始まる。東洋経済記者の小佐野氏も加わる。

手老

まず、小佐野氏から「鉄道は人を惹き付けるコンテンツ」というテーマで京阪中之島駅でのホーム酒場の事例、大井川鐵道の「きかんしゃトーマス」SL運行、南海電鉄ラピートのスターウォーズ・ラッピングや機動戦士ガンダムで真っ赤にラッピングした時にスーパーシートの乗車率が10%から70%に上昇した事例、山陽新幹線の500系と新世紀エヴァンゲリオンのコラボなどが紹介された。

最後に小佐野氏から鉄道会社同士コラボの紹介で京急1000形列車の「KEIKYU YELLOW HAPPY TRAIN」と西武9000形の「RED LUCKY TRAIN」の並ぶ写真が写され、会場は京急の飯島氏、西武の手老氏を交えて笑いに包まれた。

東洋経済鉄道特集セミナー

京急飯島氏は京急は地域密着鉄道なので西武沿線の方が京急と聞いても認知率が低い、京急が羽田に繋がっていると認知してもらうには効果的だと発言。

西武鉄道の手老氏から、鉄道車両の色というのは鉄道会社のコーポレート/ブランド・イメージと密接に繋がっている、故に「RED LUCKY TRAIN」が西武池袋線を走ることで沿線に住む人が池袋からの羽田への移動手段を考える時に京急電鉄に親しみを感じるだろうという答え。

ここで大坂氏から今年3月、国の交通政策審議会の答申にあった羽田アクセス鉄道の優先順位についての問題提起。

東洋経済の小佐野記者による優先路線の分析。しかし羽田へのアクセスをかかえる京急の飯島氏から反論があった。

羽田空港に来たお客様を如何に京急路線にご案内するかが京急電鉄のテーマであって、現状の品川~羽田間の移動乗車運賃収入が経営を左右する様なものではない。実際に京浜急行が羽田アクセスについて抱えているライバルはモノレール、バスだけではなく乗用車などもある。

むしろ新たに敷かれる鉄道はその敷設・運営コストと提供する利便性を利用者から運賃という形で徴収するので、お客様の価値判断にかかっているのではないか。京浜急行としてもそれらを総合的に考慮した対応を考えていくしかない。

ここからは会場からの質疑に移った。

私鉄の経営統合はあるのか?

大坂氏の答え。大手私鉄同士は株の持ち合いなどや経営者がお互いの社外取締役などになっていて良好な関係だ。おそらく統合というのはあまり無いだろう。

駅券売機でクレジット・カードが使えないのか?

京浜急行飯島氏の答え。定期券はカードが使える。ICカード普及が拡大している現状では少額の乗車券購入にクレジット・カードを使用可能にするための投資よりも違うサービスに投資する方が重要と思われる。

・・・というところで時間切れ。トークセッションは終了した。

あっという間に終わってしまった、と言うのが率直な印象。これからいよいよ話が核心という辺りでENDマークが出てしまった気分である。オールナイト・セッションは無理にしても、ぜひもう少し続きが聞きたかった。

ところで、今回のセミナーに集まった聴衆の方々は週刊東洋経済の定期購読者が中心で特に鉄道ファンという集団ではなかったと聞いた。しかし2時間以上に渡ったセミナーだったが途中で席を立つ方もなく最後まで熱心に内容に耳を傾けていた。

おそらく「鉄道への好意」という心情は多かれ少なかれ共有されているのだろうと感じた。

そもそも国家の近代化を強力に進めた明治維新政府は資本主義のインフラとしての鉄道に重きを置いた。しかし維新政府は版籍奉還・廃藩置県などで約2400万両という莫大な借財を抱えてスタートしていたので鉄道インフラに投資できる余力がなかった。

ここで日本という当時のアジアで唯一と言って良い「近代化成功者」は民間投資というマジックを生み出すのだが、これは話が長く複雑なので省略する。

要は鉄道は近代化日本の成功を象徴するものとして100年以上に渡って日本人の心を捉えてきたのだ。昭和30年代から重篤になった旧国鉄の借金経営という問題が民営化JRを生んだが、今も旧国鉄を郷愁する鉄道ファンは多い。

日本人の心情の中にある「鉄道への好意」をこの様な側面から解析するのも興味深いと思う。

この様な新しい切り口のセミナー、今後が楽しみだ。

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