群馬県長野原町。ことし春から本格稼働した八ッ場ダムに、新たなモビリティが動き出した。

水陸両用バス「八ッ場にゃがてん号」。

八ッ場ダム周遊コースを1時間20分かけ、毎日5便(午前3便+午後2便、水曜運休)運行する、最新モビリティのひとつ。

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関東が梅雨明けした8月1日の土曜日から、翌日の日曜日にかけては、多くの観光客が県外からおとずれ、この水陸両用バスを体感。SNS上などでその着水シーンなどが続々アップされている。

この八ッ場ダム水陸両用バスは、全国各地で活躍している同タイプの観光アトラクションとはちょっと違うプロジェクトが同時に走っている。

それは、水陸両用バスの自動化!

世界初の水陸両用バス自動運転をめざし、この八ッ場ダムを舞台に、実証実験が始まろうとしている。

自動運転のトレンドというと、一般的なクルマやバスを想像してしまうけど、水上となると、また違った課題やハードルがみえてくる。

たとえばクルマの世界で自動運転といえば、路面のラインやガードレール、障害物、信号などをセンサやカメラで認識(LiDARなど)し、衛星などの位置情報(GPS)もあわせて走るイメージ。

それが、水上になると、ガイドになる路面情報や障害物、信号がない上に、ダムの湖面は風やうねりで刻々と変わる。そんな水上をどう決められたルートで航行するか―――。

埼玉工業大学の自動運転AI技術にエイビットのローカル5G通信をプラス

世界初の水陸両用バス自動化をめざす、このプロジェクトの事業名は「水陸両用無人運転技術の開発~八ッ場スマートモビリティ~」。

事業代表者はITコンサルティングのITbookホールディングス。コンソーシアムメンバーは、長野原町(水陸両用車保有・湖面管理)、日本水陸両用車協会(運航)、埼玉工業大学(自動運転技術)、エイビット(ローカル5G通信)。

日本財団が展開する「無人運航船の実証実験にかかる技術開発共同プログラム」に採択された5事業のひとつで、この「水陸両用無人運転技術の開発~八ッ場スマートモビリティ~」の今年度予算は2億5000万円。そのうち2億円強を日本財団が支援し、残りをITbookが負担する。

この水陸両用バス自動化開発連合チームをみるとわかるように、自動運転技術は、埼玉工業大学 自動運転AIバスに実装されている自動運転技術「SAIKO CAR WARE」をベースに開発。

そこに、エイビットが展開するローカル5G通信などを組み合わせ、水上も陸上もオートで走れる世界をめざす。

ローカル5Gといえば、JR東日本が烏山線(栃木県)にミリ波帯を用いた自営のリニアスポットセルを構築し、列車に設置した端末を使って自営網へスムーズに無線ネットワークを切替える技術の実証実験に成功したのも記憶に新しい。

埼玉工業大学はこれまで、AI(人工知能)教育・研究にむけた生きた教材として、トヨタ プリウス ベースの自動運転実験車や、日野自動車 リエッセII ベースの自動運転AIバスを開発。

内閣府 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期「自動運転(システムとサービスの拡張)」の実証実験に、私立大学で唯一2期連続で参加している。

直近では、ことし6月に羽田空港エリア公道上で実施したSIP実証実験で、埼玉工業大学 自動運転AIバスがバス停の停車位置に誤差3ミリ以内で自動で正着させ、関係者を驚かせた。

今回もこの自動運転AIバスの高精度3次元地図、自己位置推定、環境認識、経路追従、走行計画などを活かし、「水上でも定められた道を行けることを示す」という。

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「ソナーなどの船舶用機器などとの連携なども視野に」埼玉工業大学 渡部大志教授

川原湯温泉あそびの基地 NOA で行われた発表会・体験会では、埼玉工業大学 内山俊一学長や、同大学工学部情報システム学科 渡部大志教授(埼玉工業大学自動運転技術開発センター長)も参加。渡部教授は、水陸両用バスの実車を試乗し、こう語った。

「 ルーフにつける GPSアンテナが、水上では船と同様の揺れ角度によって精度が落ちるといった心配もあった。今回、実際に水上航行を体験してみて、大きな揺れもないことを確認した」

「今後は埼工大 自動運転システムの拡張性を確認しながら、ソナーなどの船舶用機器などとの連携なども視野に入れて開発をすすめたい」(埼玉工業大学 渡部大志教授)

また、ローカル5G による遠隔操作なども試みるエイビットは、世界初の水陸両用バス自動化にむけてこう意気込む。

「カバーエリアが広く、Wi-Fi 電波にちかいサブ6帯周波数の5G電波は、水に吸収されてしまうという弱点もある。こうした課題をひとつひとつ解決しながら、進化させたい」

「おそらくローカル5Gの実証実験としては初のケース。ここ群馬県長野原町からローカル5Gによる遠隔操作の歴史が始まったといわれるように、がんばっていきたい」(エイビット)

日本列島各地の離島を結ぶ船舶の変革も視野、長野原モデルを世界へ

この八ッ場ダム水陸両用バス自動化プロジェクトは、単に観光用モビリティのオート化だけにとどまらない。

たとえば物流。日本列島には、大小さまざまな離島が数多く点在する。こうした離島にとって大事なツールが、船舶輸送。

島で暮らす人たちにとって、通勤・通学・物流のすべてを担う船舶は、いわば生命線。

この離島を結ぶ船舶のソリューションとしても、この八ッ場ダム水陸両用バス自動化プロジェクトは注目と期待が集まる。

今回の「水陸両用無人運転技術の開発~八ッ場スマートモビリティ~」事業の代表を務めるITbook 恩田饒 代表取締役会長兼CEO は、こう意気込む。

「世界初の水陸両用バス実現をめざし、新たなビジネスモデルを創造したい。離島の利便性向上などにも貢献できる可能性がある。IT や IoT を活用した地方創生のモデルケースになるはず。必ず成功へと導きたい」(ITbook 恩田饒 代表)

また、長野原町 萩原睦男 町長は、「長野原町の自動運転 水陸両用バスが世界で初めて実用化へ近づけば、“長野原モデル”として各地に広がるはず」と期待を込める。

――― 動き始めた、八ッ場ダム発 水陸両用バス自動化のトレンド。

めざすはクルマと同じ。陸上も水上もオートで動き、さらに離岸・接岸、水上障害物回避、ローカル5G などによる遠隔操作などの実現が目標。

最終的には、陸上で客を乗せ、物資を載せ、水上を航行し、桟橋(スロープ)を認識して再び上陸して目的地に着くまでを自動化するというイメージ。

そんな新たなモビリティが、日本列島各地に点在する離島で動き出す日も、そう遠くない―――。

<長野原町 水陸両用バス>
https://naganohara.com/news/amphibious-bus/

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