日立の環境戦略を説明するドーマー副社長=中央
JR東日本、トヨタ自動車と開発する燃料電池ハイブリッド鉄道車両=イメージ=

日立製作所は2021年2月25日、オンライン会見を開き、環境分野を中心とする今後10年間の事業戦略を発表した。環境負荷軽減の一つが「鉄道による強じん・スマートなグリーンモビリティ」で、国内では、JR東日本、トヨタ自動車との3社共同ブロジェクトによる燃料電池ハイブリッド試験車両「HYBARI(ヒバリ)」を2022年に導入。海外では、イギリスとイタリアで蓄電池ハイブリッド車両、イタリアで蓄電池トラム(路面電車)の導入・試験走行に乗り出す。

世界規模で環境重視の企業経営が求められる中、日立は環境特性を武器に世界市場に打って出る姿勢を示した。社内的には2030年度までに、事業所からの二酸化炭素排出量を実質ゼロにする、「日立カーボンニュートラル2030」構想を打ち出し、事業の省エネルギー化などに向けて、今後10年間で840億円規模を投資する。

社会に向けた環境重視の実践策が、「(ガソリンなどの)化石燃料に代わり、電気をエネルギーシステム全体の柱にする」の脱炭素経営。事業分野別では、メーカーや運輸・建設分野での電化を後押しする。

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特に力を入れるのが、鉄道車両メーカーとしてのグリーンモビリティ事業。海外案件では、鉄道車両で一定のシェアを持つイギリスをターゲットに、「鉄道ネットワークの最適化や先進的な課題解決技術を駆使して、高速鉄道ネットワークの形成に注力する」の方針を打ち出した。

鉄道分野のキャッチフレーズは、「鉄道よりも環境に優しい移動手段は、徒歩と自転車だけ」。具体的には、「鉄道輸送1km当たりの二酸化炭素排出量は自動車に比べて80%も少なく、持続可能な地球環境実現の鍵を握る」の環境優位性を訴え、国内外で道路交通から鉄道へのシフトを働き掛ける。

JR東日本、トヨタ自動車と共同開発する燃料電池ハイブリッド車両は、自動車で実用化が進む燃料電池で鉄道車両を動かす。試験車両はFV-E991系1編成(2両、1M1T)で、モーター車の床下に主回路用蓄電池と電力変換装置、付随車の屋根上に水素貯蔵ユニット、床下に燃料電池装置などを搭載する。最高時速100km、最大航続距離約140kmの予定。

海外で、イギリスのグレート・ウェスタン・レールウェイが運営する都市間鉄道車両への採用が決まっている蓄電池ハイブリッド鉄道車両は、電源の一部をディーゼル発電機から蓄電池に置き換え、燃料使用量の2割以上の削減を目指す。日立は2040年代後半までに、ロンドン~ペンザンス間約450km区間をディーゼルエンジンによらずに走行できる、〝蓄電池都市間鉄道車両〟の開発に取り組む。

日立製作所の2020年度の鉄道部門の売り上げ見通しは、エレベーター・エスカレーターのビルサービス部門を含めて1兆1500億円。このうち82%は海外事業収入で、軸足は完全に海外に置く。

会見で、環境戦略を担当するアリステア・ドーマー副社長は「世界は気候変動への対応に真剣に向かい合っており、日立はそうした取り組みを手助けしたい」と述べた。

文:上里夏生
(画像:日立製作所)