時短効果と需要予測、採算が取れるラインは

羽越新幹線と奥羽新幹線の時間短縮効果。北陸から東北への移動で、関東を経由しないで済むのは心理的な時間短縮の効果も大きそうです。(資料:羽越・奥羽新幹線関係6県合同PT)

羽越新幹線による時間短縮効果は、富山―新青森間が現在の大宮乗り換え4時間28分から、直行の羽越新幹線なら3時間2分で到着でき、1時間26分の時間節約になります。遠回りや乗り換えの解消も含め、相応の整備効果が期待でます。

現在は新潟で上越新幹線から在来線特急に乗り継ぐ東京―鶴岡間は、現行3時間33分が直行新幹線なら2時間21分と、こちらも1時間超の時間短縮になります。奥羽新幹線利用の東京―秋田間や東京―山形間も、それぞれ1時間14分と46分の時間短縮です。

東京―山形間には現在もE3系「つばさ」が運行されています。今回は国の基本計画に基づく調査結果のため、奥羽新幹線は山形新幹線と別線としていますが、現実的には山形新幹線を延伸・高速化して奥羽新幹線とする可能性も高そうです。(写真:Seventh Heaven / PIXTA)

需要予測は、経済成長を高めに見込んだ2045年時点での推計で、福島―山形間が1日当たり3万2700人、山形―秋田間が同じく1万5000人などになりました。

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これらを総合して、6県合同PTは両新幹線の費用便益比(B/C)を羽越新幹線で0.53~1.21、奥羽新幹線で0.50~1.13、羽越・奥羽新幹線合計で0.47~1.08と試算しました。費用便益比は、1以上なら採算が取れます。詳細は別表に譲りますが、建設費が安価で済む単線・土構造なら十分に〝元が取れる〟計算です。

羽越・奥羽新幹線の費用便益比。単線新幹線など整備手法を工夫することで、指数が「1」を上回り、いわゆる〝元が取れる〟結果になりました。(資料:羽越・奥羽新幹線関係6県合同PT)

地元はフル規格新幹線を要望?

調査結果は、「単線・土構造でもいいので、フル規格の新幹線を整備してほしい」と暗に主張しているようです。沿線というか両新幹線の地元自治体は今後、調査結果に基づいて政府に羽越・奥羽新幹線のフル規格での早期着工を陳情するはずです。

7月4日掲載の交通政策基本計画のコラムでも触れましたが、各府省庁はこれからの夏休み、年間の最大行事(?)といえる2022年度政府予算案の編成作業を迎えます。早期着工を目指す四国、山陰、羽越・奥羽の各整備新幹線の地元自治体は、新規着工を認めてもらおうと火花を散らすことになるかも……いやいや、各新幹線の着工はまだかなり先、火花を散らすのは早過ぎますね。

PT調査3番目の羽越・奥羽新幹線を活用した地域ビジョンに触れるスペースがなくなりましたが、関係6県は観光、産業・経済、暮らし・生活、都市機能・防災の各分野で、高速鉄道を活用した地域振興に取り組みます。