震度6弱を想定したシナリオを用意

訓練は大規模災害を想定したもので、用意されたシナリオは次のようなものでした。

「東京湾北部を震源とする震度6弱の地震が発生し、沿線各地に大きな被害が出ている。この影響により、新宿線は所沢~東村山駅間にて列車が脱線し、列車内の乗客にけが人が多数発生した模様。また沿線火災が発生し、鉄道敷地内の草花に延焼したほか、停電の影響で踏切遮断機は遮断継続中であり、ターミナル駅では帰宅困難者も発生している状況。なお当社の通信設備の使用は、一部を除き可能である」

訓練は被災状況の報告から始まり、避難誘導訓練に移りました。基地内に停車した30000系に梯子をかけ、一人一人乗客を降ろしていきます。

避難誘導訓練の様子

訓練では途中から線路の付近に火災が広がったという想定の動きに切り替わり、沿線の草花への延焼を食い止めるため消火活動を行いながら、車両片側の扉を全て開けて乗客を降ろしていきます。30000系のドア下部からレール上部までの高さは1135ミリ。地面にマットを敷き、両側で降車のサポートをします。

片側の扉を全て開放し、車両から降りるケースも想定

訓練を担当した運輸部は、降車した乗客の誘導や帰宅困難者への備蓄品配布などを想定した訓練も行いました。

帰宅困難者対応訓練も行われ、備蓄品等を配布しました
配られたのは水とカロリーメイト、体温をキープできるレスキューシート

30000系の脱線、線路・架線の復旧

訓練は大地震により車両が脱線したという想定ですので、避難誘導後は脱線復旧訓練に移行しました。担当したのは車両部です。復旧作業用の装置を使う上で邪魔になってしまうため、まずは台車側に屈曲した先頭車両のスカートを外します。

ガス切断機で実際にスカートを切断しています

スカートを撤去したら今度は2基の油圧ジャッキなどを使用し、車両の水平を保ちながら車体を上昇させ、横送りしてレール上に戻します。余談ですが、今回訓練で使用した30000系先頭車両の重量は約26トンだそう。モーター車ではないのでやや軽めです。

様々な装置を組み合わせた脱線復旧システム「ルーカス」の準備中。電車と線路の間に物が挟まった場合にも使用されるそうです
車両をレール上面まで持ち上げて写真右側にスライドさせ、位置を確認したのちレール上に戻します

続いて工務部が通り変位復旧訓練・軌道検査訓練を行いました。想定としては、地震で線路がゆがみ、線路下に敷かれるバラストも流失してしまっているという状況です。レールを戻すのは人力での作業となります。

人力で元に戻した後は破断したレールの継目板と呼ばれる部品とボルトを使用してつなぎ合わせます

写真から最近行われたJR渋谷駅の線路切換工事を思い出される方もいらっしゃるかもしれません。流出したバラストの投入やタイタンパーによるつき固めも、間近で見ると実に迫力のある作業です。

バケツリレーのような要領で陥没箇所にバラストを戻し、タイタンパ―でつき固める様子

最後は線路の状態を数値化する「トラックマスター」で検査。手元の画面に表示される数値から安全な線路に仕上がっていることが確認できれば、線路の方は電車の運行に支障のない状態に戻せたということになります。

軌道検測を人力で行う「トラックマスター」補修箇所のピンポイント測定、測定値のデータ管理も可能です

電車線不具合の復旧訓練を実施したのは電気部。基本的に電車というものはパンタグラフで架線から電気の供給を受けて走行するわけで、架線や電気設備に異常が出れば正常な運行はままなりません(念のため、最近は蓄電池を搭載して緊急時に自走する車両なども出てきています)。訓練ではトロリ線を吊るすハンガーの取り付け、歪みの測定などを行いました。

トロリ線を吊るすハンガー(写真のトングのようなもの)を取り付けています
歪みの測定をしています。写真左に見えるのは軌陸車
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