訓練中の車内の様子(停電前)

東京都交通局は24日(金)終電後、都営新宿線 大島駅などで広域停電の発生を想定した列車走行訓練を実施し、その様子を報道陣に公開しました。

訓練の筋書きは次のようなものです。

「都営新宿線全線で電力会社からの給電がなくなり停電が発生、西大島駅~大島駅間を走行中の電車が停止した。乗客を安全に避難させるため、電力貯蔵設備を活用することで、電車を隣接の大島駅まで走行させ、到着後避難誘導を実施する」

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走行中に路線全線で電力会社からの給電が途絶えてしまうと、電車は架線から電力供給を受けられず止まってしまいます。停止位置が駅であればまだ良いのですが、駅間に停車した場合は歩行経路の安全確保なども必要となり、乗客を安全に避難させるのも容易ではありません。

都営新宿線では、そうした場合に備え、変電所に電力貯蔵設備を設置しています(計2か所)。イメージとしては大型の蓄電池で、回生ブレーキによって生じる電力の一部を非常用として貯蔵し、電力会社からの供給が断たれた際は、この設備から電車に給電し次駅までの走行を可能にします。

次駅走行のイメージと電力貯蔵設備(画像:東京都交通局)

今回の訓練では、駅間で停止した電車が電力貯蔵設備から電力供給を受け、大島駅まで徐行。到着後は乗客自らホームドアを手で開けて電車から脱出するという手順が確認されました。

停電後、車載のバッテリーからの供給により照明が一部点灯し、状況を確認する車内アナウンスが流れました
大島駅到着後、電車のドアは自動で開き、乗客は自らホームドアを開けて避難します

電力需給のひっ迫が懸念されるなか、こうした訓練で対応力を強化するのは、安全な輸送を確かなものとする上で意義深いことであると同時に、「都営新宿線は安心してご利用いただけます」というアピールにもつながります。なお、東京都交通局が営業区間を使用した列車走行訓練を報道機関に公開するのは今回が初めてとなります。

「車両に非常走行用バッテリー」を採用しなかった理由

昨今では東海道新幹線の「N700S」のように、非常走行用のバッテリーを車両に積むケースも見られるようになりました。なぜ都営新宿線では変電所に電力貯蔵設備を設置する方針を採用したのでしょうか?

都営新宿線は京王線と相互直通運転を行っており、京王電鉄の車両も乗り入れます。もし都営車が非常走行用のバッテリーを積んだとしても、京王車が積まなければ対策としては片手落ちになってしまいます。また蓄電池を車載型にすると、車両の重量が増えてしまうというデメリットも無視できません。

都営新宿線には京王電鉄の電車も乗り入れます。写真は京王5000系(イメージ)

地上に電力貯蔵設備を設置し、架線から走行用の電力を供給するのであれば、車両に直接手を加える必要はありません。都営新宿線への乗り入れが可能ならどんな電車にも対応可能です。とはいえ地震などで架線が切断されてしまうと機能しなくなるというデメリットもあり、そのあたりは一長一短でしょうか。

余談ですが、都営新宿線の電力貯蔵設備は、運行中の全ての電車が安全に次の駅まで移動できるよう、「19編成を駅間から駅へ走行させられる電力量」が貯蔵されているそうです。こうした安全対策は、橋梁部のある都営新宿線に優先的に導入されていますが、他の路線への展開については今後の検証結果などを踏まえた上で検討していくとのことでした。

記事:一橋正浩