紙の記録簿に代わるタブレット端末

現場ではタブレット端末をチェック=イメージ=。東京メトロはAR(拡張現実)を活用したアプリを開発し、社員教育に活用します(資料:東京メトロ)

構造物検査の現場で威力を発揮するのが、タブレット端末。従来は記録簿(ペーパー)で要チェック個所を確認。現地では、記録簿にペンでメモ。事務所に帰った後、結果をサーバーに手作業入力する手間が必要でした。

その点、タブレットは現場での入力後、即座に結果を共有できます。現場作業ではスマートフォンも活用。タブレットとスマホには、メトロ版検査アプリが入力済みです。

ドローンでトンネル点検 操縦はマニュアルで

次なるスマート点検、要はドローンを活用した高所点検です。地下鉄のトンネルは5メートル近い高さがあり、日常は目視検査になりますが、一定の限界もある重労働です。

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地下鉄トンネルは定期的な全般検査(全検)が必要ですが、こちらも終電後に足場を組んで、始発前に取り外してと、文字通り〝時間との勝負〟です。

東京メトロは確実な点検のため、2019年度からドローンによるトンネル全検を採用しましています。足場を組んで作業員が上る従来型の検査を、ドローンに変える――というのは簡単ですが、そこには地下鉄トンネル内ならではの苦労もあります。

ドローンといえばちょうど1年前、東京オリンピック開会式での「空中ショー」を思い起こす方も多いでしょう。あれだけ見事に編隊飛行できるのはGPS制御するから。でも電波の届かない地下鉄トンネル内は、自動飛行はアウト。マニュアル操縦が必要です。

9日間でドローンパイロット養成

東京メトロが現在、力を入れるのはドローン操縦者の育成。カリキュラムは9日間で、最初の2日間はドローン関係の法規や仕組みを座学で学習、3~8日目は操縦技術を習得し、最後の9日目は実際に地下鉄トンネル内でドローンを飛行させます。

地下鉄トンネル内はさまざまなケーブル類が張り巡らされているので、万一ドローンが傷付けてしまったら一大事。そこで、現場ではドローンをカーボンファイバー製のかごに入れて飛ばします。

ドローンを活用した地下鉄トンネルのスマート点検。ドローンは〝かごの鳥状態〟で飛行。東京メトロはスマート点検について、「徒歩による点検で高所にひび割れが疑われる個所を発見した場合、その場でドローンを使って確認します」と説明します(資料:東京メトロ)

ドローン点検の効果では、業務効率化のほか、点検精度の向上による安全性アップが挙げられます。東京メトロは、ドローンの機体も改良。トンネル内で機能するセンサーを取り付け飛行を安定させるほか、機体形状を工夫してカメラへの映り込みを回避します。

BIツールやマルチモーダル分析も威力発揮

タブレットとドローンに続くのが、BIツールとマルチモーダル分析。BIはビジネス・インテリジェンスの頭文字で、簡単にいえばAI(人工知能)によるータ分析。検査では無数のデータが集まりますが、必要なデータと不必要なデータを選別して構造物の健全度を判定します。

交通でマルチモーダルといえば、鉄道とバス、タクシーなど複数の移動手段の組み合わせを意味します。しかし、施設検査のマルチモーダルは「形態」の意味。ベテラン作業員の現場での行動パターンを解析して、新人研修に生かします。

かつて鉄道の現場では、「先輩の背中を見て技を盗む」と言われたものですが、それを科学的に解析したのがマルチモーダル分析といったところでしょうか。