鉄道コラボの腕時計が出る――。

シチズンから情報を仕入れた私は、西武新宿線に揺られ、同社本社所在地である田無駅を目指していた。礼儀お作法として腕には「アナデジテンプ」装着を忘れない。

アナデジテンプとは、シチズンが1982年に発売、アナログ時計とデジタル時計、それに温度計機能もついたハイテク腕時計で、長年にわたり人気を誇るシリーズだ。ハイテク筆箱に憧れた(けれど買ってもらえなかった)小学生時代の記憶がある人を魅了してやまないと勝手に解釈しているし、実際、私は多機能感あふれるデザインに一目ぼれした経緯を持つ。

シチズン「アナデジテンプ」商品イメージ

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こうして西武新宿線沿いの通りを歩き、シチズン本社に向かえば、「まずはこちらをどうぞ」とシチズンミュージアムに案内くださった。1918年創業からの代表的な商品が時系列に並んでおり、国鉄時代に職員に支給されていた「ホーマー・エース」、それに1972年の鉄道開業100周年時に発売された限定商品も展示。ほかの商品より過剰かつ前のめりに注目した。鉄ちゃんの本能なので仕方がない。

私の時計とおそろい?

今回の鉄道コラボとは、鉄道開業150年を記念したJR東日本商品化許諾済商品を指す。

鉄道とコラボした商品は腕時計に限らず、世の中にさまざまあり、私自身、某社のキャラクターがデザインされた目覚まし時計を愛用している。ただ、コラボグッズは自宅で愛でる分にはまったく問題ないものの、鉄道が全面に押し出され過ぎているがため、お出かけ時の利用難易度が少々高めのものも少なくない。このような背景から若干身構えていた私が、企画を見て最初に発したのは「私のと同じ?」だった。そう、今回のコラボ腕時計は、身に着けてきた「アナデジテンプ」モデルだったのだ。仕込みでもなんでもなく、偶然の一致だ。

コラボモデルとして展開されるのは「1号機関車モデル」「中央線201系モデル」「山手線E235系モデル」の全3種類。一見するだけで、鉄分100%の本気度とカジュアルな使い勝手の良さが両立している様子が感じられ、老舗時計メーカーの気合、いや執念を垣間見たような気がした。

左から順に「1号機関車モデル」「中央線201系モデル」「山手線E235系モデル」

以下では、一つずつじっくり見ていこう。

動輪が時を刻む~1号機関車モデル~

「1号機関車モデル」装着イメージ。モチーフとなった「1号機関車」は日本の鉄道開業時にイギリスから輸入された蒸気機関車のうちの1両で、国鉄で活躍したのち島原鉄道へ渡った。現在は埼玉県の鉄道博物館で静態保存されている

新橋~横浜間の鉄道開業時にイギリスから輸入された蒸気機関車、1号機関車は鉄道開業150年を祝う上では欠かせない。文字板上でひと際目を引くのは動輪をイメージした秒針で、時を刻むごとに、動輪がくるくると回っていくように見える視覚的工夫が施されている。「回転」する秒針と動輪が融合しており、渾身の遊び心が見てとれた。

一方、時分針のほうはというと、「なんか見たことあるな~」なデザイン。モチーフとなったのが機関車正面の煙室扉ハンドルだと聞けば、すぐに腹落ち。確かにあのハンドル、時計の針とよく似ている。

さらに文字板上部には機関車正面に付された「1」がゴールドの輝きを放つ。このほか緩衝器やビスをモチーフにしたパーツがちりばめられ、機関車の部品が適材適所に配置されていると感じた。

時分針は煙室扉ハンドル、秒針は動輪をモチーフとしている。その他の細かいパーツにも「1号機関車」の面影が見て取れる

1号機関車といえば、シックで重厚感あふれるビジュアルだが、その上品なイメージが時計にそのまま移植されていた。

<こだわりポイント一覧>
・車両正面に輝く形式番号「1」の数字を文字板上部に配置
・煙室扉ハンドルをモチーフにした時分針
・機関車の動輪をイメージしたディスク型の秒針
・文字板の左右下部には緩衝器をモチーフにしたデザイン
・車両側面に配置された製造銘板をモチーフにした「ANA-DIGI TEMP」の銘板

こだわりぬいたオレンジバーミリオン~中央線201系モデル~

「中央線201系モデル」装着イメージ。多数製造された201系は中央線のほか、総武線や京阪神の路線などにも投入され、幅広く活躍した

続いては、1979年にデビュー、およそ30年にわたって中央線を駆け抜けた201系モデルだ。

中央線201系は鉄道ファンから根強い人気を誇った車両。それゆえ一切の妥協は許されないわけだが、文字板からはあふれんばかりのリスペクトが感じられた。まず、中央線201系といえば鮮やかなオレンジバーミリオンカラーが何よりの特徴。つまり、色味がちょっと異なるだけで「似てるけど、ちょっと違う」感じになってしまう。

「色をうまく出すために、工場と協力して、試行錯誤を重ねました。JRさんもこだわっていた部分で、うまく再現できたのではないかと思います」

さすが、情熱を注ぐべきポイントをしっかり押さえておられる。

また、先ほどの1号機関車モデルの秒針部分は車輪が回るような視覚的工夫が施されていたわけだが、中央線201系モデルは、運転台のメーターを意識したデザインで、秒針とメーターの共通項「アナログ」が上手にかみ合っている。さらに、正面上部に目玉のように2つ並んだライトも印象深いわけだが、文字板上でも2つ仲良く並んでいた。しかも夜光塗料が施されているため、暗闇では光るという。本物への追及は、デザイン面だけにとどまらず、機能面、各部品の本来の存在意義にまで及んでいるのだ。デザイナーの方、もしかして鉄ちゃん仲間?(違う、とのこと)

文字板のフォントに注目すると、ところどころに「白赤色」や「白緑色」のフォントがちりばめられている。ここで中央線201系の「顔」を思い出してほしい。ピンときた方はおそらく大正解! これらは車両に掲げられていた「編成札」をモチーフにしているもの。鉄ちゃんの喜びのツボを、どうしてここまで正確に把握されているのだろうか。

運転台のメーターを意識したアナログデザインが鉄道ファンの心をくすぐる

<こだわりポイント一覧>
・文字板上部にはヘッドライトをイメージした夜光処理
・国鉄職員に支給された腕時計「シチズン ホーマー」をモチーフにした時分表示
・運転台のメーターをモチーフにした秒表示
・文字板左右下部には編成札の白赤・白緑色をイメージした配色
・側面方向幕のフォントをモチーフにした「ANA-DIGI TEMP」の銘板

デジタルを塗色で表現~山手線E235系モデル~

「山手線E235系モデル」装着イメージ。E235系はスマートフォンを模した角ばった前面形状が特徴で、2020年より横須賀・総武快速線用の青い1000番台も投入されている

そして最後は最新鋭、山手線E235系モデルだ。

「電子レンジ」と表現されるウグイス色とブラックのドット柄グラデーションも、2016年のデビューから6年の時を経て、今やすっかりおなじみのデザイン。「このつぶつぶ、完全に現代の山手線ですね!」と喜んでいたところ、「文字板をすかすように見てください」と指示が入る。言われるまま目線の高さに上げて気づいたのは、文字板のガラス面部分に印刷が施されていることだ。

「1号機関車モデル、中央線201系モデルとは印刷手法を変え、液晶デジタル感を出しました」

なるほど、「メーター」や「編成札」のように、アナログな特徴をリスペクトした中央線201系モデルとは対照的に、山手線E235系モデルは「デジタル」な次世代感を重視しているということか。「ならばきっと秒針も」と期待を込めて見やれば、白い円が並んだウグイス色のリングが回るデザインになっていた。しかも一つだけ赤い矢印が付いている。そう、車内ドア上部のディスプレイに表示される路線図だ。そして路線図上で赤い矢印と言えば「現在の走行位置」を意味する。文字板上では「現在の時」を教えてくれる。総じてどのタイプも秒針の演出がにくい。そのモチーフが本来的に果たす役割と、秒針の存在意義がそれぞれリンクしているではないか。「高輪ゲートウェイ駅が開業して、山手線はちょうど30駅になったおかげで秒針として機能できるようになったのです」とシチズンの方。

E235系らしい液晶デジタル感を前面に押し出した。秒針(右)は路線図をイメージし、赤い矢印で現在時刻を表す(※商品サンプルのディスク秒針は一部最終仕様と異なります)

余談だが、時計といえば右回り。そして山手線で右回りといえば「外回り」を示すことになるが、さすがに鉄ちゃんすぎる発想だったので、口にするのは控えた。

<こだわりポイント一覧>
・文字板上部にはヘッドライトをイメージしたデザイン
・運転台のメーターをモチーフにした時分針(色は反転)
・山手線の路線図をイメージしたディスク型秒針
・行先表示器をイメージした「ANA-DIGI TEMP」の銘板

また、3タイプとも右下には共通して「ANA-DIGI TEMP」の銘板が配されているのだが、実はすべてフォントが異なる。1号機関車モデルは製造銘板を、中央線201系モデルは側面種別幕を、そして山手線E235系モデルは行先表示器をイメージしているのだ。

なんだかここまでくると、「明文化していない、隠れこだわりポイント」もありそうな気すらしてくる。

どこまでも列車なのに、使いやすさも抜群

ところで、今回の鉄道コラボには、なぜ「アナデジテンプ」が採用されたのだろうか。

「一般に腕時計のケースの形は丸のほうが多いですよね。でも列車、とりわけ通勤車両とマッチするのは、四角い形だと考えました」

まさに狙い的中。特に中央線201系モデルや、山手線E235系モデルは、もう完全に電車の顔にしか見えない。一方で、デザインセンスも兼ね備えており、各モデルとも活用シーンが思い浮かぶ。

1号機関車モデルであれば、シックなブラックにレッドとゴールドがバランスよく配され、上品なデザインに仕上がっていることから、社会人ならビジネスの場に着用してもまったく問題ないどころか「おしゃれ上級者」に認定されそうだ。

休日の旅行やお出かけでは、ビタミンカラーの中央線201系モデルを使いたい。一眼レフカメラとの組み合わせにもきっと相性抜群。撮り鉄コーディネートに溶け込む気がする。

また、山手線E235系モデルは、大人はもちろん子どもからも人気が高そうな予感。アナデジテンプモデルは、ベルト調整がしやすいので鉄キッズに「初めての腕時計」としてプレゼントしたら、大喜びすることだろう。もしくは親子共用……は奪い合いになるからやめたほうがいいか。

どこで、いつ、買えるの?

鉄道コラボ腕時計は「受注生産販売」の方式を採用。2022年9月21日(水)13時より2022年12月7日(水)23時59分まで、以下で受注を受け付ける。「シチズンウオッチ オフィシャルサイト」、もしくは「TRAINIART JRE MALL店」にて受付期間中にお申し込みを!

「シチズンウオッチ オフィシャルサイト」
【商品ページURL】https://citizen.jp/collection/tetsudo_kaigyo/index.html
「TRAINIART JRE MALL店」
【商品ページURL】https://www.jreastmall.com/shop/c/c01/

●購入申し込み受付期間:2022年9月21日(水)13時より2022年12月7日(水)23時59分まで
●商品お届け予定日:2023年6月下旬予定
※購入お申し込みを上記受付期間内に完了いただく、受注生産商品となります。予めご了承ください。
※販売期間終了後の本商品の再販売については、現時点では未定です。
※場合により、早期に受付を終了する可能性がございます。

実際の商品お届けは2023年6月の予定だ。

なお、「現物を見てみたい!」と言う方には朗報。9月22日~12月7日にかけて、以下でサンプル展示が行われる。3タイプのうちどれにするかで悩んでいるときは、ぜひとも実際の商品を見て、選んでいただきたい。

<サンプル展示期間・場所>
展示期間:2022年9月22日~2022年12月7日
「シチズン フラッグシップストア東京」
住所:東京都中央区銀座6-10-1GINZA SIX1F
「シチズン フラッグシップストア大阪」
住所:大阪府大阪市中央区心斎橋筋1丁目1番5号

最後に、筆者は、来春入手したいモデルを決めてはいるものの、実は揺れている。自分の好きな車両を重視すべきか、あるいはクローゼットと相談すべきか、いやいっそ、すべて申し込むべきだろうか。受注期間まで猶予があるので、大いに悩むことにしよう。

シチズン「鉄道開業150周年記念ウオッチ」商品詳細

シチズンコレクション / アナデジテンプ 鉄道開業150周年記念限定モデル
●駆動方式:クォーツ
●キャリバー:8989
●防水性能:日常生活用防水
●ケース材質:ステンレススチール
●ケース径:横幅32.5mm(設計値)
●ケース厚:厚み8.0mm(設計値)
●ガラス:クリスタルガラス
●バンド素材:ステンレススチール
●主な機能:月差±15秒 / 電池寿命2年 / クロノグラフ機能(1/1000秒・12時間) / アラーム / 温度計 / デュアルタイム表示 / 日付表示 / 曜日表示
●希望小売価格:36,300~38,500円(税抜価格33,000~35,000円)
●受注予約開始日時:2022年9⽉21⽇(水)13時00分

記事:蜂谷あす美