「鉄道NFT」を購入するメリットはあるのか――ただのデジタルコレクションにとどまらない可能性

JR西日本グループのリリースを読んだ際に抱いたのは、「鉄道NFT」を購入するメリットがどこにあるのか、という疑問でした。企画・販売元のJR西日本コミュニケーションズおよびJR西日本イノベーションズに問い合わせたところ、次のような回答をいただきました。

「弊社側としては、鉄道ファンの皆様に『JR西日本グループが“公式”で発行する唯一無二のデジタルアート』を収集していただくことができるようになった点が第一のメリットであると考えております」

前章までで説明した通り、鑑定証が付いた希少なアート作品のようにデジタルデータの価値が保証されているというのがNFTの特徴ですから、趣味としてコレクションするだけでなく(LINE NFTの)マーケットで個人間で売買することもできます。他にも細かい点ですが、「今回販売される商品を購入したユーザーはLINEのプロフィールにNFTを設定することができる」というメリットもあります。

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また「LINE NFT」では、APIによりNFTを販売する事業者が独自開発したWEBサイトやゲームと連携している事例も存在します。現時点ではまだ世に出ると決まったものではありませんが、たとえば鉄道系のゲームをリリースしてNFTと連動させるような構想もあるそう。

筆者の想像もある程度加味しますが、たとえば「トワイライトエクスプレス」のNFTを購入し、ゲーム内の仮想空間で走らせるといったこともできそうです。「バーチャル大阪駅」のようなメタバースとの連携もできるでしょう。ゲーム「どうぶつの森」のように、仮想空間上に自分の駅を作ってそこに鉄道NFTを走らせるという「デジタル鉄道ジオラマ」的な楽しみ方も考えられます。

とはいえそうしたアイデアはまだ具体化しておらず、現状としては「まずコレクションアイテムとして触れてもらって、JR西日本グループの車両に興味を持っていただく」「鉄道ファンの方々に新しい体験としてNFTに触れてもらう」段階です。

「LINE NFT」を選んだ理由はそれだけじゃなかった

一般にはNFTを購入する際にはまず暗号資産を買ったり独自のウォレット(財布)を作ったりと、様々な手続きを行う必要があります。市場の多くは海外向けですので、説明も英語だったりと、ハードルの高さは否めません。

「LINE NFT」の場合はLINE Payによる支払いにも対応しており、わざわざ暗号資産を用意する必要がありません。LINEなら普段から慣れ親しんでいるユーザーも多く、心理的な敷居も低い。

今回「LINE NFT」が選ばれた理由はそれだけではありません。実はブロックチェーンにもパブリックチェーン型、プライベート型があり、「LINE NFT」は特定の企業などが管理するプライベート型に相当します。

パブリックチェーン型のように世界に開かれているわけではないのでNFTの持ち味が活かされているとは言えないのですが、大手企業が管理することで一定のリスクヘッジにはなりそうです。

違法コピーなど著作権上の問題になるものについては「しかるべき対応を検討したい(同社担当)」ということで、NFTの販売元の固さにも一定の信頼はおけると見て良いでしょう。NFTは「NFTに記録されたデジタルデータの場所(URL)からデータそのものが削除されると閲覧などができなくなる」という問題点も抱えていますが、JR西日本グループならその点も大丈夫そうです。

将来的には世界に開かれたパブリックチェーン型でNFTを展開することにもなるかもしれませんが、現時点ではまだNFTやブロックチェーンの概念が浸透しているわけでもありません。自動車教習所だっていきなり高速道路に放り込んだりはしないわけで、まずは「身近な場所でNFTにチャレンジできる環境を整えた」という風に理解すると良いかもしれませんね。

市場の反応は上々?500系新幹線は5日間で完売、トワイライトエクスプレスは10分で……

最後に最近の鉄道とNFTを巡る状況を簡単にご紹介します。10月8・9日に日比谷公園で開かれた「鉄道フェスティバル」にはJR西日本グループも出展し、鉄道NFTをアピールしました。

結果、500個限定で先行販売した「500系新幹線」は発売開始から5日間で完売となりました。また14日に販売を開始した「トワイライトエクスプレス」は10分以内に完売したそうで、NFTのとっつきにくさを考慮すると、想像以上に注目が集まっていると見て差し支えないでしょう。

鉄道ファンだけでなく「暗号資産やNFTが好き・興味がある」といった方が「面白そうだから買ってみた」という例もあるようで、NFTが今まで鉄道に興味のなかった層にも間口を広げる役割を果たしているとも言えそうです。

NFT事業への参入は非常にチャレンジングな試みですが、JR西日本グループには鉄道という非常に強力な知的財産があり、価値のあるコンテンツとして販売できれば大きな収益源となり得ます。他の事業者に目を向けると、10月10日に東海バス(小田急グループ)がNFT第一弾を販売、10月14日にJR東日本も「鉄道開業150年記念駅名標」をモチーフとしたNFTを販売しており(いずれも即日完売)、今後も各事業者の動きに注目が集まります。

記事:一橋正浩