米沢トンネルの早期実現に一致協力

覚書は、「米沢トンネル整備計画の早期実現に向けた基本事項」を定めます。事業の進め方を表すのが実施内容で、JRと県は「事業スキーム確定に向けた検討」、「事業化に資する調査及び検討」、「財政的支援を得るための政府への働きかけ」などに共同で取り組みます。

ここで、米沢トンネルのスペックをあらためて。建設区間は山形新幹線庭坂駅付近―関根駅付近までの約23キロ、工期は着工から約15年、事業費約1500億円を想定します。覚書の有効期間は10年間です。

米沢トンネルが構想される板谷峠越え区間。全長23キロの新幹線トンネル(正式には在来線ですが)は、上越新幹線の大清水トンネル(22.2キロ)に並ぶ長大トンネルになります(資料:山形県)

トンネルは緩やかなカーブを描き、時速200キロ超での高速走行が可能。東京―山形間の所要時間は現在より10分程度短縮される見込み。自然災害による輸送障害も減って、山形新幹線の安全性・安定性が格段に向上します。

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なお、庭坂―関根間には板谷、峠、大沢の3駅がありますが、山形県みらい企画創造部総合交通政策課によると、途中駅のあり方については今後の検討課題とのことです。

「新トンネルの実現は山形県の発展に直結」

覚書を交わす三林東北本部長、吉村知事、渡利常務=写真左から=。本コラムでは触れませんでしたが、JRと県は「山形県内の鉄道沿線の活性化等に関する包括連携協定」も締結。地域資源の活用促進、交通系ICカード利活用などに共同で取り組みます(写真:山形県)

山形県庁での締結セレモニーには、吉村美栄子知事、JR東日本からは渡利千春常務・グループ経営戦略本部長、三林宏幸執行役員・東北本部長が出席。吉村知事は「新トンネルの実現は県の発展に直結する。整備効果を高めるためには、県内全域での沿線活性化や人流拡大が重要で、取り組みを加速させていきたい」とコメント。

JRの渡利常務と三林東北本部長も「米沢トンネルで、リスクへの備えが強化される。山形新幹線の有効活用や利用促進に向け、官民連携を一層深めたい」と述べました。

アプト式も検討された板谷峠

後段の奥羽新幹線に移る前に、板谷峠越えの鉄道史を一コマ。福島―青森間の奥羽線が全通したのは明治年間の1905年です。峠越えルートは3案あり、当初は群馬、長野県境の碓氷峠(在来線時代の信越線)と同じ、線路と車両の歯車をかみ合わせて進むアプト式も検討されました。

最終的には、こう配を1000メートルで33.3メートル登る33.3パーミル(一部38パーミル)に抑え、一般鉄道の粘着式で建設されました。しかし、急こう配に対応するため、戦前は4110形、戦後はE10形という動輪5輪の強力SLが峠越え専用機として投入されました。

国鉄は〝板谷峠問題〟を解決するため、他線区に先がけて1949年に電化しました。

在来線時代の485系特急「つばさ」。原則9両編成で上野―山形―秋田間を結びました(写真:Yoshi / PIXTA)