わずか1年で取引件数が38.1倍に――「Visaのタッチ決済」が日本の公共交通機関で急拡大 実は大手鉄道事業者も興味津々?【コラム】
コスト感は「交通系IC」の1/6~1/8
「Visaのタッチ決済」の最大の武器はその導入コストだ。公共交通周辺に身を置けば、交通系ICカードシステムの重さはたびたび耳にする。
事業規模や仕様によってもコストは変わるから一概においくらで、とは言えないが、各紙報道や自治体の会議資料から事例を拾い集めれば、ローカル線でも数億単位のコストをかけていることが分かる。自治体からの補助などを考慮しても交通事業者にとっては重い負担になる。
「Visaのタッチ決済」の場合はどうか。アクワイアリングを行う三井住友カードの担当者に話を伺ったところ、「イニシャルコストで言えば、交通系ICと比較しておおむね1/6~1/8くらいのレベル感」に落ち着くようだ。
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システムは一度導入してしまえばそれっきりではない。10年も経てば更新費用が必要になる。公共交通機関の利用者が減少していくと予想されるなか、ハイコストなシステムを更新し続けていくという選択肢は取りづらい。
処理速度は交通系ICに軍配
ここまで並べると「Visaのタッチ決済」の方が交通系ICカードより遥かに優秀ではないかと思われてしまうが、やはり処理速度では大きな隔たりがある。
日本の交通系ICカードで改札を通る場合、処理時間は200ミリ秒以内とされている。一方の「Visaのタッチ決済」では処理時間は500ミリ秒以内と、仕様上は2.5倍の時間がかかる。改札機のリーダーがカードを認識できる距離も交通系ICの方が長いため、「Visaのタッチ決済」を使う場合はよりリーダーに近付ける必要がある。
Visaの担当者によれば、500ミリ秒という数値は国際ブランドの標準化団体によって定められたマックス値だ。実際には公共交通機関への導入を進めるにあたり、ベンダーとも協力しながらブラッシュアップを行っている。
結果として「大体300~400ミリ秒以内に収まる形で処理が終わっている」(Visa担当者)というのが現状のようだが、それでも交通系ICカードの処理速度には敵わない。
大都市圏の通勤・通学ラッシュを捌くには力不足であり、こうした局面ではまだしばらく交通系ICカードの天下が続きそうだ。