「実は」大手事業者も興味津々

2023年3月には相鉄・東急直通線が開業し、7社局14路線の巨大な鉄道ネットワークが形成される(写真:鉄道チャンネル編集部)

では大手鉄道事業者はタッチ決済に興味を示さないのか。もちろんそんなことはない。前述の三井住友カード担当者によれば、2022年8月に同社が交通機関向けに開催した「stera transitシンポジウム 2022 summer」には約120社が参加しており、大手の事業者もほぼ参加していたという。

検討の進み具合は事業者によってまちまちではあるものの、タッチ決済が一つの有力な選択肢として捉えられていると見て間違いない。ただ、各事業者間で相互直通運転が煩雑に行われている関係上、1社が単独で導入するのは難しい。

仮に相直問題を乗り越えて大手が導入するとしても、先に挙げたようにラッシュ時の混雑という問題もあるし、すでにしっかりと根を張った交通系ICを全て置き換えるというのは現実的ではない。

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当面は交通系ICと共存し、QRコード乗車券と同様に「磁気きっぷ(紙のきっぷ)を置き換える」役割や、インバウンドを迎え入れる際の対応コストの削減などが期待される。後者については、今年10月からのインバウンド解禁で一気に効果測定が進んでいるはずだ。

タッチ決済で「1日乗車券」「定期券」は実現できるか

タッチ決済に期待されている役割は他にもある。たとえば南海電鉄が実験しているキャッシュバックサービスなどがいい例だ。「Visaのタッチ決済」で公共交通機関に乗り、グループ会社の商業施設を利用した際は割引をする。

利用料金を後日請求するクレジットカードならではのサービスと言える。大手事業者ならグループ企業内でのお買い物などの利用促進、ローカル鉄道なら観光周遊施策に活かせるだろう。

また、上限額を決めてそれ以上は請求しない「キャッピング」のサービスを検討してみるのも面白い。たとえば「タッチ決済で弊社の鉄道をご利用いただく際は、1日の上限金額を〇〇〇円までとします」と定めれば1日乗車券の代わりになる。これをデイリーではなくマンスリーに、特定区間に限って実装できるなら定期券の代わりができる。

小田急の小児IC運賃50円などはどうか。たとえばVisaの場合、クレジットカードを持てるのは18歳以上、デビットカードは口座を持っていれば15歳以上、プリペイド(Visaプリぺ)は6歳以上ということで、こうしたサービスの実装も不可能ではなさそうだ。親のカードと紐づけて「同時に使用した場合に限り割引を適用」といった実装ができるなら親子でのおでかけも促進できる。

こうして考えると、タッチ決済の対応幅は意外に広い。交通系ICカードを完全に置き換えるという想像は非現実的だが、数年もすれば地方はカードのタッチ決済が主力、都市部でも交通系ICと併存しながらほぼ全ての事業者で導入という未来が来るのかもしれない。

記事:一橋正浩