2012年春の販売開始から計画的に配置された分譲地の緑化空間を、担当した住宅メーカーが支援しながら住民の手で管理し、街のコミュニティの成熟と経年美の実現を図ったプロジェクト―――中央住宅(ポラスグループ)『結美の丘/全54邸』。

この『結美の丘/全54邸』が、ポラスグループ初のグッドデザイン・ベスト100に選出され、「持続的な住民活動により経年の美をめざした街」として注目を集めている。

グッドデザイン審査では、「一定規模の場所が住宅地へ変わるとき、そこにいかにして人間的な環境の持続性やコミュニティを生み出せるかが、本来であれば問われるべきだろう」と仮説し、中央住宅「結美の丘」をこう評価した。

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「この『結美の丘』では、その問いに、事業者が一貫して誠実に対峙してきた痕跡が見てとれる。

住民活動の自発性と継続性を生むためのプロセス、緑の配置や育成保全の計画、コミュニティ・ベネフィットを生み出す景観協定など、この場所で積み重ねられてきたソフト面での努力は、他の開発事例においても広く共有すべきもの」

こんな評価を得て注目を集める『結美の丘』。その特長をチェックしていこう。

経年美化が深化した美しい街並みができるまで

同プロジェクトでは、「近年の緑の消失」「画一化された家の量産」「街の経年劣化」「地域コミュニティの希薄化」などの問題意識からスタート。

各戸は、景観協定によって道路、緑道からのセットバック、敷地、付属建築物の制限、樹木の植栽や緑化の基準が定められているほか、54邸の街区には南北を通り抜けできる住民専用のフットパス、メインゲートと街区中央部の広場、外周道路沿いに0.45m幅のグリーンベルトが設置されている。これによって四季折々の草花が街を包み込むランドデザインに。

広場やフットパスの植栽や樹木は全住戸の「共有持ち分」として、各住戸内に一本ずつ植えられたみんなの木は「協定樹木」として、それぞれ街住民全体で管理。

具体的には年3~4回の緑の管理活動(剪定、花植え、清掃)を毎年実施するとともに、適時にNPO法人や中央住宅が支援しながら活動している。

こうした活動を重ねた結果、経年美化が深化した美しい街並みを誕生させた。

「人の営みが風情を生み出す美しい街へ」

この『結美の丘』の企画・設計を担当した中央住宅 戸建分譲設計本部 本堂洋一氏はこんな想いでこのプロジェクトを推進した。

「日本では、住宅の価値は竣工直後がピークで、その後どんどん下落していく。

家や街並みをモノとしか見ていないためで、それを放置していては、住民は「我が街」に愛着を持たないし、街はやがて荒廃していく。

ヨーロッパや北米、日本でも一部みられる伝統的街並みが大切にされる地域のように、年月によって積み上げられた人の営みが風情を生み出す美しい街はできないか」

住民から毎年「景観協定運営委員会」を選出

こうした開発者の想いがきっかけで、プロジェクトがスタート。計画地であるさいたま市では、2011年から景観法による景観協定の認可を受けられるようになり、企画・設計チームは、街を美しく育むための基盤として景観協定を定めるとともに、緑化空間を計画的に配置。

中央住宅 企画・設計チームは、2011年5月からさいたま市と景観協定の協議を開始。同年12月に認可を受け、各住戸の敷地に協定樹木を植えた。

また、景観協定の効力は30年間と定められていることから、輪番で住民から毎年「景観協定運営委員会」を選出。協定を基にした街のチェックや住民活動の開催を実施した。

共有空間や緑の管理を通じて街の保全を住民がいっしょになって実施し、「経年美が誇れる街にしよう」という意識を醸成した。

街が美しく成長する経年美をめざして

54世帯もの人たちが集まる街で、自立した住民活動を実現するためには、住民たちが「経年美が誇れる街」へのアクションを理解し、無理なく愛着と充実感をもって活動を持続できるかがポイントになる。

中央住宅では、それらの課題を解決するために2013年4月の街開きから2015年の春までおよそ11回、ワークショップを開催。

最初のワークショップでは、共有地のフットパスに草花を植え、その年の7月には、共有地の広場の樹木や各住戸の協定樹木を対象に選定作業を行った。

緑に関わることだけではなく、メモリアルウォールの設置や、水鉄砲造り・スイカ割なども行い、子どもが楽しめ家族同士で自然と交流できるイベントも重ねてきた。

剪定、下草狩り、草花の植え込みなどの活動は定例化し、10年経ったいまでもおよそ8割の家族が参加を続けている。

住民主体のこうした活動が継続していることについて、中央住宅 本堂氏はこう語る。

「街の景観とコミュニティーを育むために住民活動の大切さを折に触れ話してきましたが、住民の方々はとてもよく理解していただいた。

そして、活動には多くの世帯でご主人が参加してくれている。それはとても重要なことで、奥さん任せにしない主体性を住民が持っている。子どもの参加率も高い」

―――10年経っても街が美しく成長し、経年美を育む。

今後、住宅の売却や、住み替えを考える住民も出てくる。そのとき、次の人にリレーできるか。また、子どもも大きくなって参加率が落ちてきたとき、住民活動のモチベーションを維持できるか。

そんな次の課題に、中央住宅は向き合おうとしているという。

◆ポラスグループ グッドデザイン賞 公式サイト
https://www.polus.co.jp/gooddesign/