日本の人財市場は進化と変化を続け、人財の移動はかつてないほど激しくなっているいま、優秀な人財の獲得競争が激化している。

そんないま、多様な人財のパイプラインを効果的に成長させ、人財獲得活動を最適化するにはどうすればいいか―――。その最新トレンドとヒントをキャッチできるイベントが、12月1日、キンプトン 新宿東京で開かれた。

題して、「多様な人財のパイプライン構築」

このパネルディスカッション「多様な人財のパイプライン構築」は、日本をはじめ、アジア太平洋地域の企業にむけてダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DEI)の取り組みなどをコンサルティングする The Dream Collective と、STEM分野を専門とする人材紹介企業 SThree(エススリー)が共催するイベントで、パネリストには次のようなキーパーソンが登壇した。

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・ピーターロバーツ 駐日オーストラリア大使代理(オープニングスピーチ)
・アレクサンダー・ジェナー SThreeのシニアセールスチームマネージャー
・松尾美香 アサヒグループホールディングス顧問
・豊川由里亜 三菱UFJ銀行の常務執行役員
・中川晋太郎 Uber Eats Japan 合同会社 Interim General Manager
・サラ・リュー The Dream Collective 創設者・マネージングディレクター モデレーター

雇用者ブランディングの最適化などを議論

ディナー会場は、彼らの最新トレンドと考察を聞こうと集まった経営者やビジネスリーダーで満席。5人のパネリストたちは、ディナーテーブルの前で、「現在の日本の人財事情と傾向」「新しい候補者層へのアクセスを含む、クリエイティブな人財ソーシングの方法」「優秀な女性人財を獲得するための雇用者ブランディングの最適化」などについて語り合った。

また、人事、人財・文化、人財確保の分野で活躍する経営者やビジネスリーダーたちとのキックオフミーティングの時間もあり、多様な人財を惹きつける最前線に立ち、競争力を高め、組織の人財育成にインパクトを与える具体的な施策についても語り合った。

このパネルディスカッション「多様な人財の パイプライン構築」モデレーターの The Dream Collective サラ・リュー創設者・マネージングディレクターは、冒頭で「現在、組織に優秀な人材を惹きつけるために必要な6文字、ESGDEI(ESGとDE&I)があるといわれている」と伝え、企業のESG(環境・社会・ガバナンス)へのコミットメントは、その企業の株価にも大きな影響を与える要素で、未だかつてなく重要視されているという。

「誰ひとり残さず、全員で取り組むこと」

SThreeの アレクサンダー・ジェナー シニアセールスチームマネージャー(以下、SSTM)は、日本の人材市場におけるおもなトレンドについてこう解説した。

「日本で10年以上リクルーティングに携わってきましたが、日本は世界でもトップクラスに採用が難しい国だといわれています。

とりわけ海外から日本市場に参入しようとしている企業にとってのハードルは高く、慢性的な人材不足に加えて、ビジネスレベルの英語が話せる求職者が少ないことが大きな要因となっています。

日本での事業展開を計画している企業でも、適切な人材確保ができないゆえにビジネスの成長を思うように実現できないケースを目にしてきました。

ESG(Environment, Social & Governance)やDEI(Diversity, Equity & Inclusion)で最も大事なのは、誰ひとり残さず、全員で取り組むこと。

DEIに関しても、女性のリーダシップがさらに求められたり、育休についての課題なども、その企業のトップやチーム構成員など全員で考えて、取り組んでいく必要がある」(SThree アレクサンダー・ジェナーSSTM)

「新型コロナウイルスによる働き方の変化」

「パンデミックにより多くの企業がリモートワークの必要性に迫られ、保守的な日系企業であってもリモートワークを導入する企業が増えたことは非常に大きな変化です。

いっぽうで、一時期は取り入れたリモートワークを今後も継続していく企業と、アフターコロナの世界において以前のように出社を基本とする方向性へ戻っていく企業の二極化が見られるため、今後も注視していくべきトレンドです」(SThree アレクサンダー・ジェナーSSTM)

「労働者の期待値の変化」

「2025年にはZ世代(1990年代後半から2012年に生まれた世代)が労働人口の30%を占めるようになり、彼らは仕事に求めるものや期待するものも以前の世代とは異なります。

雇用主として、求職者を惹きつける方法をアップデートしていく必要があるでしょう。

また、全世代の人口の半分以上を占める女性についても、出産後に働くことを諦めざるを得ない状況になってしまう人が多い点は決して見過ごせません。

少子高齢化により労働力不足が減っていく中で、高等教育を受けた女性登用が働くことができないのは極めてもったいない状況です。さらなる女性登用に力を入れていく必要があります」(SThree アレクサンダー・ジェナーSSTM)

「転職がより一般的に」

「転職に対する認識は、この10年で大きく変化したと感じます。以前は3年ごとに転職を繰り返している場合、履歴書や職務経歴書の時点で「ジョブ・ホッパー」とみなされ、面接に進むことは極めて難しい状況でした。

しかし、急速に技術の進歩が進んでいることもあいまって、転職をキャリアアップのための機会として前向きにとらえる風潮すら見られるようになったのは大きな変化です」(SThree アレクサンダー・ジェナーSSTM)

「今後は DE&I戦略がマストになる」

そしてパネルディスカッション「多様な人財の パイプライン構築」モデレーターの The Dream Collective サラ・リュー創設者・マネージングディレクターは、こう伝えた。

「ESG や DEI への取り組みは、もはやどんな規模の企業もどんな業態も、必須。無視して経営はできない。

社内全員はもちろん、クライアントやこれから雇用する人材に向けても、DE&I戦略がなければ、その企業の魅力はゼロに等しい。今後は DE&I戦略がマストになる。

The Dream Collective はコンサルタント企業として、SThree はリクルーティング企業として、それぞれ抱えるクライアントの DE&I を推進していきたい。それは共通のビジョン。今後もパートナーシップを強化して成長していきたい」

また、パネリストの三菱UFJ銀行 豊川由里亜 常務執行役員は「DE&Iにしても、ESGにしても、企業のビジネス戦略の重要な部分」と続いた。

―――参加者たちは、このあと、どう DE&I に取り組んでいくべきか、どう推進すべきかを登壇者たちと語り合った。

そこでは、「ジェンダーだけにフォーカスするとインクルーシブカルチャーが成長していかない。男女という性別だけじゃなくて、『個』の多様性を尊重して取り組んでいくべき」といった声もあった。

<登壇者プロフィール>

◆アレクサンダー・ジェナー
FTSE上場企業であるSThreeグループの主要ブランドの一つであるComputer Futuresのシニアセールスチームマネージャー。おもな職務は、さまざまなテクノロジー系クライアントへの人材紹介と、日本におけるオンラインテクノロジー人材紹介部門の管理。また、SThreeのAPAC DE&Iフォーカスグループの一員でもある。SThree Groupに入社する前は、大阪の証券会社で商品先物の自己勘定トレーダーと定量アナリストを歴任。英国で生まれ、2003年から日本に滞在。英国と日本の京都大学で学び、物理学と宇宙物理学の学位を取得した。

◆松尾美香
現在、アサヒグループホールディングス顧問、CACホールディングスおよび船場の社外取締役を務める。企業文化の変革、事業再編、合併後の統合に豊富な経験を持つ変革型人事プロフェッショナル。AIGジャパンの元CHRO(チーフ・ヒューマンリソース・オフィサー)として、文化面だけでなく、就業規則、報酬、福利厚生などの技術的な人事面の調和に貢献。リーダーの成長を支援し、より大きな仕事にチャレンジすることに情熱を注いでいる。松尾氏の多文化な背景と、日本で成功した女性経営者としての経験は、男女を問わず日本のリーダーがグローバルな文脈で活躍できるよう支援し、グローバルなリーダーが日本のビジネス環境に迅速に同化できるよう支援するユニークなスキルにつながる。TUFTS大学卒業で、サンフランシスコ大学でMBAを取得後、シティバンクでキャリアをスタート。また、その強調されたリーダーシップ・スタイルで知られ、多くの日本人ビジネスマンをグローバルに活躍するリーダーへと導いてきた。

◆豊川由里亜
三菱UFJ銀行常務執行役員。 非日系審査担当役員として欧米亜における一般事業法人・ 金融機関取引・プロジェクトファイナンス・航空機ファイナンス・ 証券化等の審査・信用リスク管理を統括。加えて、おもにアジア太平洋地域のアーリーステージ企業にデット・ ソリューションを提供するMars Growth Capital(三菱UFJ銀行とLiquidity Capital社が出資)の投資委員を務める。 経団連アメリカ委員会連携強化部会部会長。東京大学教養学部卒、 スタンフォード大学ビジネススクールMBA。

◆中川晋太郎
P&Gでキャリアをスタートさせ、ブランドマネジメントに従事。その後、事業再生支援会社を経て、2009年にユニリーバ・ジャパンに入社。ヘアケアカテゴリのマーケティング責任者を経て、2016年からは同社ホーム&パーソナルケア部門のディレクターとしてマーケティングを統括。2021年1月にUberに入社。日本のお客様の日々の生活をより快適にすべく、日本のマーケティング・ディレクターとして、モビリティ事業とデリバリー事業の両事業のマーケティング活動を統括。2022年9月より現職。