アスリートのキャリアは競技生活が終わればそこで断たれるのか。セカンドキャリアをどう構築していくか。

指導者に求められているアスリートのキャリア支援はなにか。もっとできることはないか。

競技人生を終えたアスリートに企業・団体が期待するアスリート人材のポテンシャルとは……。

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―――そんな課題を解決すべく、トップアスリートや競技生活経験者、スポーツ・経済・教育などの有識者らが参画するスポーツキャリアサポートコンソーシアム(SCSC)が、トレンドとヒントを共有する会議「Athlete Career Challengeカンファレンス2023」を東京・虎ノ門で3月4日に開催。

800人以上を超えるリアル参加者たちと、オンライン視聴者たちといっしょに、アスリートのセカンドキャリア意識や指導者の変革といった考え方と、アップデートするためのヒントなど共有しあった。

3セッションの各登壇者

◆セッション1「アスリートのキャリアについて考える」
松田 丈志 氏(JOC アスリート委員会委員長)
布施 努 氏(スポーツ心理学博士)
藤田 真也 氏(キャリアカウンセリング協会 理事長)

◆セッション2「指導者に求められるキャリア支援とは キャリア開発の取り組み事例」
古田 敦也 氏(スポーツコメンテーター)
田中 研之輔 氏(法政大学キャリアデザイン学部教授/プロティアン・キャリア協会 代表理事)
西村 卓朗 氏(フットボールクラブ水戸ホーリーホック取締役ゼネラルマネージャー)
岡崎 美穂 氏(レジックスポーツ取締役専務/96 年アトランタ五輪 体操女子日本代表選手)
小沼 健太郎 氏(Japan PDP 理事/東京サントリーサンゴリアス PDM)
池田 敦司 氏(大学スポーツ協会(UNIVAS)専務理事/仙台大学教授)

◆セッション3「アスリート人材への期待 Athlete Career Challenge の取り組み」
倉田 秀道氏(あいおいニッセイ同和損害保険 広報部スポーツチーム統括/経営企画部 特命部長)
佐々木 善浩 氏(フィルアップ代表取締役 CEO)

SCSC高橋会長「みんなでアスリートを育てていけるような環境が求められている」

今回の「Athlete Career Challengeカンファレンス2023」(東京 3月4日)は、「アスリート・指導者が知っておくべきアスリートキャリアの向上とライフキャリアの関係」がテーマ。

会の冒頭、スポーツキャリアサポートコンソーシアム 高橋義雄会長は「アスリートセンタードとして多くのアスリートに関わる大人たちがみんなで手を取り合い、アスリートを育てていくことができる環境が求められている」と伝え、こう続けた。

「スポーツを通してアスリートが育つことで社会にとって活躍できる、可能性の広がる人材となる。

指導者の方々には一人で責任を背負うだけでなく、これからはアスリートセンタードとして多くの大人たちがみんなでアスリートを育てていけるような環境が求められている。

ぜひ指導者同士も心を開いて多くの方々とアスリートを囲んで、みんなで良い選手を育てていけるような社会をめざしたい」(SCSC 高橋 会長)

スポーツ庁 室伏 長官「引退後の社会でも存分に発揮できるようサポートの取り組みを充実」

また、スポーツ庁 室伏広治 長官は、スポーツキャリアサポート支援事業を説明するなかで、現状の課題と今後の目標についてこう伝えた。

「アスリートのキャリア形成を取り巻く支援の輪は拡大しているが、いっぽうで中央競技団体や大学のコンソーシアムからの加盟数が少ないという現状にある。

また、競技力の向上だけでなく、アスリートのキャリア全体を見据えたサポートができる指導者が不足しているという課題がある。

スポーツ庁委託事業の SCSC では、こうした課題を解決するために加盟団体と連携を図り、アスリートが自らキャリアを主体的に考えることができ、競技を通じて培った能力を引退後の社会でも存分に発揮できるようサポートの取り組みを充実させていきたい」(スポーツ庁 室伏 長官)

JOC アスリート委員会 松田 委員長「現役中から自身のセカンドキャリアを考えて」

アスリートのキャリア形成を支援する体制を整備することをめざして立ち上げられたスポーツキャリアサポートコンソーシアム(SCSC/スポーツ庁委託事業)には現在、82の企業・団体・大学などが加盟。SCSC 高橋 会長やスポーツ庁 室伏 長官が、アスリートのキャリアを支援していく取り組みを加速させていくという思いを伝えたいっぽうで、印象的だったのは、もと競泳日本代表で現在は JOC アスリート委員会 松田 丈志 委員長の講談だ。

松田 委員長は、「アスリートだけの特別な話じゃない。誰だって、アスリート以外の一般の人も、自分のキャリアは常に意識して生きている」と前置きし、こう持論を展開した。

「人のキャリアや成功というものはひとそれぞれ。成功をどこに設定するかもその人次第。それはたとえば実業団選手時代の目標とは違うはず。そこがポイント。

多様性やダイバーシティの時代に大事なのは、アスリートは競技生活現役中から、引退したあとのセカンドキャリアや方向性を考えておくこと。

現役中から自身のセカンドキャリアを考えて、そこにむけて活動することでメンタルも安定するし、競技人生も良好になる。次のキャリアを考えながら競技人生を送ることが大事。

もうひとつ大事なのは、『この競技が最大の人生の活躍の場だ』ってアスリート自身が思わないこと。そういう考え方だと、ライバルに勝つために不正を犯したりといったリスクが出てくる。

ぼくは久世由美子コーチの指導のもとで学んだ。久世コーチは『あなたの人生は水泳だけじゃない。競泳人生を終えてからどう生きるかも、考えながらトレーニングを』と教わった。いまもそのユニークな教えを覚えている」(松田 委員長)

「一般の人と同じく、引退しても挑戦が続くんだという意識を」

「課題もある。たとえば、スポーツキャリアサポートコンソーシアム(SCSC)には、アスリートたちをサポートする企業・団体・大学などが80以上もあるけど、まだその存在を知らないアスリートたちも多い。

アスリートたちがこうしたサポートを認知してないという現状もあるし、SCSC参画団体・企業などの支援もマッチしていないケースもある。

いっぽうで現場のコーチや指導者の意識改革も要る。現場の指導者たちはアスリートの即戦力を優先してしまうから、セカンドキャリアまでいっしょに考えていくところまでに至らない。

今後は、多様なキャリアがあるというのを、SCSCなどを通じて現役アスリートに届くかたちで伝えていくことが大事。現役中から自らキャリアを考えて行動する取り組みを強化していきたい。

アスリートは、その競技を終えたあとのセカンドキャリアにも挑戦しなければいけない。一般の人と同じく、引退しても挑戦が続くんだという意識を持たなければならない」(松田 委員長)

―――このあと、セッション2「指導者に求められるキャリア支援とは キャリア開発の取り組み事例」では、アスリートキャリア支援にむけた最新事例(4例)が紹介され、小学生・中学生、大学生、社会人といったアスリート育成現場からの最新情報に古田 敦也 氏や田中 研之輔 氏が聞き入った。

ここでもモデレーターの田中 研之輔 法政大学教授が、現役中から競技生活以外のポテンシャルを活かしてキャリアを走らせるデュアルキャリアの重要性を説いていた。

このセッション2「指導者に求められるキャリア支援とは キャリア開発の取り組み事例」や、セッション3「アスリート人材への期待 Athlete Career Challenge の取り組み」も、参考になる話題がいろいろ詰まっているから、配信を逃した人は、このあとに公開される「Athlete Career Challengeカンファレンス2023」アーカイブ動画(スポーツ庁 公式YouTube)をチェックしてみて↓↓↓
https://www.youtube.com/@user-qm9td8nl6x/videos

◆スポーツキャリアサポートコンソーシアム(SCSC)
https://sportcareer.jp/