西九州新幹線「かもめ」の魅力は? 開業当日、JR長崎駅でオフィシャルカメラマンを務めたプロの写真家に聞く
オフィシャルカメラマンとしての重責

――開業当日はJR長崎駅でオフィシャルのカメラマンも務めておられましたが、担当された経緯を詳しくお話いただけますか?
村上:JR九州のさまざまなビジュアルイメージを撮影されている福島啓和さんからお声かけをいただいたのがきっかけです。
当日は5駅全てで出発式を行うため、5人カメラマンが必要で、そのうちの一人になってくれないかとお誘いをいただきました。ただ、そのころには写真展の開催や雑誌でのグラフ展開などを想定していたため、「長崎駅の開業の瞬間」はなんとしてでも自身で撮影、もしくはその場に立ち合いたかったという思いが強く、そのことを正直に福島さんに伝えました。
通常であれば福島さんが長崎駅を担当するのが当然なのですが、「じゃ村上くんに長崎駅をお願いします!!」と快く承諾をいただき、撮影をさせていただくことができました。本件に限らず、西九州新幹線の取材、公私ともに九州を訪れた際にも福島さんにはいつも歓迎していただき、僕が九州についつい通ってしまう、大きなきっかけの一つにもなっています。
――写真家として、西九州新幹線開業という一大イベントで「オフィシャル」として仕事をされるというのがどのようなものなんでしょうか。当日のお気持ちなどをお聞かせください。
村上:開業日の前後は在来線「かもめ」の最終到着から、新幹線開業まで徹夜体制で長崎駅に張り付いていました。午前3〜4時台にも関わらず、大勢の人が集った長崎駅の光景は忘れられません。
もちろんプレッシャーは感じていました。オフィシャルの撮影はやはり歴史的な瞬間を確実に残さないといけないので、重責以外のなにものでもありません。しかしあまりガチガチになっても、普段やらないようなミスを誘引することにもなりかねません。どこか楽しいことを考えていたり、納品には必要ないかもしれないスナップ的な写真を撮ったりして、いつもの「村上悠太」を保つ工夫もしていました(JR九州のみなさんがあとで写真を見てくださった時、「このときこんなだったよね」と思ってもらえたらいいなーといった写真も多く撮ったりしました)。それに加えて、一緒にお仕事をさせていただいてきた記者さんやカメラマンさん、そしてJR九州広報部の方々に「村上くんなら大丈夫、写真楽しみにしてるよ」と声をかけられ、平常心をとりもどした、そんな感覚がありました。
コンコースでの式典が終わり、ホームに上がり、いよいよ「かもめ2号」と対峙したときは、今までにない、緊張やプレッシャーともちがう不思議な感覚を覚えました。これまでたくさん撮ってきた「相棒」のような「かもめ」のいよいよの晴れ舞台を共にする、そんな照れ臭さというか、嬉しさみたいな感覚でしょうか。一方で「どうか、無事に」という思いも強かったのを覚えています。実は2011年の九州新幹線開業の日、僕は『鉄道ジャーナル』の取材で新大阪におり、鹿児島中央からの初列車の出迎え取材を担当していたのですが、3.11が発生して式典が全てキャンセルになってしまったので……。
西九州新幹線の話に戻ります。開業当日は同一の機材、同一焦点距離のレンズを全て2〜3重系統で携行し、とにかく何があっても大丈夫なように準備をしました。高鳴るプレッシャーを感じつつも、とにかく「プロ」としての仕事をきちんと遂行することに集中し、無事に「かもめ2号」が出発したあとは、おのずと涙が出てきました。
とはいえ、あまり感傷に浸ってもいられません。すぐに撮影カットをセレクトし、公式素材として発信しなくてはいけないので、すみやかに車に戻り配信作業に取り掛かりました。無事に画像のアップが終わってようやくホッとしたのもつかのま、今度は「ふたつ星4047」の出発式のために急いで「かもめ」で武雄温泉へ。本当に一息ついたのは15時過ぎでした。そうそう、ブルーインパルスも撮りましたね(笑)
長崎でやはり行きつけの中華料理屋に福岡さんと行き、交通渋滞で空港に辿り着かなかった佐藤くんも合流し、お疲れ様会をしばし行い、3人で再び武雄温泉に戻り、温泉に入り、かねてから「開業したら絶対に3人でやろうね」と言っていた「新幹線かもめで温泉入って湯上がりビール」という約束を叶えました。
後日談ですが、福島さんや広報さんに「写真から”気持ち”を感じた」と言ってくださり、とても嬉しかったです。長崎出発式撮影という、大役を快く譲ってくださった福島さんにはどんなお礼の言葉をいっても足りません。
――本当に大変で、でもやりがいのある仕事ですよね。私も開業当日の西九州新幹線の記事を書く際に村上さんの写真を使わせていただきました。その他に西九州新幹線「かもめ」に関する面白いエピソードがありましたら、ぜひ教えてください。
村上:2022年最初の「かもめ」取材となった「かもめウォッチング」の取材日が奇しくも僕の誕生日で、福島さんたちが朝早い集合にも関わらず、バースデーケーキをサプライズで用意してくださいました。ちなみに前日の東京は大雪で、飛行機での福岡入りが不安定だったので、新幹線で向かいました。

――最後に、個展へいらっしゃる方へ一言お願いいたします。
村上:かっこいい「かもめ」、楽しい「かもめ」、美しい「かもめ」といろいろな姿の「かもめ」がいる、そんな展示です。展示から約1ヶ月後には、1周年を迎える西九州新幹線ですが、本展示をご覧いただいたみなさまが、ぜひ実際に西九州の地へお出かけいただき、「かもめ」に会いに行っていただけたらとても嬉しいです。
「だから、かもめを追いかけた」開催情報
会場:東京都渋谷区恵比寿南 1-22-3 アメリカ橋ギャラリー
会期:2023年8月23日 ~ 28日(11時~19時)
※23日初日は設営のため17時オープン、28日最終日は17時まで
【関連リンク】