鉄道会社の経営、就中ローカル線の存続は、わが国の人口減少という歴史的推移を前に様々な議論が行われてきました。

そこに2020年(令和2年)、突然コロナ・ウイルス感染拡大という厄災が発生、公共交通利用者の突然の減少という新たな局面を迎えています。

『地図から消えるローカル線 未来の地域インフラをつくる』は、この未曾有の厄災を俎上にあげ、鉄道インフラ、特に存続が問われるローカル線の問題に丁寧に取り組んだ1冊です。

以下使用される写真は内容と直接の関連はありません

著者は「野村総研」の「鉄道ビジネス検討チーム」。表紙に名前の表記される新谷幸太郎氏が、編著、「1章」「3章」「7章」の執筆と全体のまとめ役です。「2章」「4章」を川手魁氏、「5章」稲垣仁美氏、「6章」は衣松佳孝氏と倉橋翼氏が分担しています。

新書版ですが「N.R.I.=野村総研」の専門家による精緻で簡潔な分析と提案の1冊。なかなか読み応えがありました。

「ローカル線の存続」という鉄道ファンとしては座視できない差し迫った問題を、専門家の分析と提案を丁寧に読みながら共にこの問題を考えます。

「あとがき」に記されていますが「課題先進国」日本は高度成長期以降高度なインフラと行政・民間サービスを提供してきました。しかし21世紀に入り人口減少で対価を支払う利用者が減ってゆきます。つまり運営効率の低下でインフラ・サービスの維持が困難な時代に直面しているのです。

米国の社会学者エズラ・ヴォーゲルが“Japan as Number One:”(TBSブリタニカ/1979/昭和54年)で描いた「日本の黄金期」は、既に遠い過去のモノです。しかし、少なからぬ日本人、特にバブル時代を知っている筆者(私)の世代は「日本はまだ繁栄国」という曖昧な気分で2023年を生きている様な気がします。

次回から目次、章立てに沿って内容を検証してゆきます。

(写真・文/住田至朗)