2024年5月27日から期間限定で運行中のハッピーターントレイン

1976(昭和51)年に誕生した亀田製菓の米菓、ハッピーターン。甘じょっぱい味わいや「粉」のおいしさが魅力で、登場からおよそ半世紀たった今なお国民的な人気を得ているロングセラー商品だ。

亀田製菓は5月29日の「幸福の日」にちなみ、2024年5月下旬から「ハッピーターントレイン」を運行している。これは京急電鉄の「KEIKYU YELLOW HAPPY TRAIN」を1編成(8両)丸ごと活用し、車内外をハッピーターンに関する広告でジャックしたいわゆるラッピング列車のこと。

ラッピング作業の様子

車両は8月18日までの期間限定で運行中。京急線だけでなく、直通する都営浅草線、京成線、北総線にも乗り入れている。羽田・成田両空港の利用者や東京の東側にお住まいの方なら、見かける機会もあるかもしれない。

しかし、ここで疑問が浮かぶ。確かにハッピーターンは全国どこでも手に入るお菓子で、一大消費地は首都圏かもしれない。だが亀田製菓の本拠地は新潟県で、工場も全て県内にある。なぜ神奈川県を本拠地とする京急電鉄の車両を選んだのだろうか。

そこで、今回は亀田製菓に取材。同社の主力商品であるハッピーターンへのこだわりや、ハッピーターントレイン誕生の経緯を詳しく尋ねた。

亀田製菓マーケティング戦略部 コミュニケーションデザインチーム 荒井さん(写真左) 同米菓スナック第2グループ主任 渡辺さん(写真右)

オイルショックを機に誕生した「幸せ」のお菓子

1976年に登場したハッピーターン(写真:亀田製菓) ※特設サイト「ハッピーターンの歴史」から借用しています

ハッピーターンが登場したのは1976(昭和51)年のことだ。当時のおせんべいは、まだ固焼きのようなしょっぱい醤油系が主流だった。そこで、亀田製菓は「おせんべいの概念を払拭する甘じょっぱい洋風のお菓子を作りたい」という思いから開発をスタートした。

第1次オイルショックから3年。世界経済が大きく混乱し、日本も不景気で暗い時代が続いていた。そこで、当時の開発者たちは「幸せ(ハッピー)がお客様に戻って来る(ターン)ように」と願いを込め、「ハッピーターン」と名付けた。結果、このお菓子は日本全国の老若男女を幸せにし、亀田製菓にとっては「亀田の柿の種」に次ぐNo.2の商品に成長している。

「粉」へのこだわりは、実は開発当時から。ハッピーパウダーの特徴をどう体感してもらうかと考え、キャンディーのように両端をねじる個包装に行きついた。「たっぷりのパウダーがついた製品を袋にそのまま入れると、粉が一部落ちてしまうんです」(渡辺さん)。手や指についたパウダーをペロッと舐めた、そんな原体験を持つユーザーも少なくない。近年の「粉うま」という表現は、連綿と続く地道な「粉推し」から生まれた言葉とも言える。

もちろん美味しさの追求を怠るようなこともない。パウダーが付着しやすいよう、お煎餅の表面に若干のくぼみを入れる「パウダーポケット」や、ちゃんと粉が付着するようにオイルがけをする「ハッピーシャワー製法」など、製法のマイナーチェンジが行われている。

亀田製菓は今年、2019年以来5年ぶりとなるブランドリニューアルを実施した。ハッピーターンの特徴である粉の美味しさを引き立てるハッピーオイルにさらに磨きをかけた。生まれ変わったハッピーターンは、4月上旬から全国各地で順次発売されている。

リニューアルKV(画像:亀田製菓)

同社は、例年5月29日の「幸福の日」は、「ハッピーターンを通じてお客様に幸せを届ける日」として、ハッピーターンならではの取り組みを行っている。ハッピーターンのブランドメッセージ「ツイてるしあわせ」を体現できるような、”幸せ”にフォーカスを当てた企画を行うべく、広告媒体として選ばれたのが「KEIKYU YELLOW HAPPY TRAIN」――京急版の「しあわせの黄色い電車」だ。

見ると幸せになる電車とは

「見ると幸せになる」と言われる電車は、実は意外とある。代表的なものが東海道新幹線の検査に使用される事業用車「ドクターイエロー」だろう。

「見ると幸せになる」といえば新幹線923形ドクターイエローが思い浮かぶ人も多いだろう(写真:Payson410 / PIXTA)

駅に入って来た瞬間、大人も子供も夢中になってカメラを向ける。ほかにも、ドクターイエローの在来線版ともいえる「ドクター東海」ことキヤ95や相模鉄道のモヤ700など、遭遇率の低いレアな事業用車が「見ると幸せになる」都市伝説をまとうことが多い。

相模鉄道の事業用車両「モヤ700系」(写真:村上暁彦 / PIXTA)

「KEIKYU YELLOW HAPPY TRAIN」も、元を辿れば事業用車に行きつく。京急電鉄といえば「赤い電車」で有名だが、週に1~2回、黄色い電動貨車が走る。これが珍しい車両として「しあわせの黄色い電車」と呼ばれるようになった。

「しあわせの黄色い電車」(写真提供:京急電鉄)

しかしながら、「しあわせの黄色い電車」は鉄道事業用なので乗車することはできない。そこで京急電鉄は「HAPPYになる電車」をコンセプトに掲げ、幸せをイメージした「黄色」の塗料で1000形8両編成を特別塗装。2014年から「KEIKYU YELLOW HAPPY TRAIN」として運行を開始した。

KEIKYU YELLOW HAPPY TRAIN(写真提供:京急電鉄)

同社の営業車両としては、シンボルカラーの「赤色」、2005年3月から運行している「KEIKYU BLUE SKY TRAIN」の「青色」に続く3色目にあたる。当初は3年間の期間限定運行の予定だったが、沿線の方々や京急ファンから好評を博したため、その後も運行を継続。2017年4月には車体側面扉部分をこれまでの「シルバー」から「イエロー」に変更した新しい姿で沿線に幸せを届けている。

話を戻そう。亀田製菓としては、実は公共交通系の広告はあまり例がない。大きなものとしては2010年に、JALの飛行機にハッピーターンの塗装をした「COP10エコ・ハッピーターン号」が飛んでいるが、そのくらいだ。鉄道に限れば、数年前に電鉄3路線で吊り革広告を実施したことはあるものの、コロナ禍で通勤需要が減少し、継続はできなかった。

電車を1編成フルラッピングするような大々的な交通広告は、かなり大胆な試みとも言える。提案したのは、もともと京急沿線ユーザーだったという荒井さんだ。「KEIKYU YELLOW HAPPY TRAIN」が1編成しかないレアな車両であることも知っており、なかなか乗ることもできなかったという自身の経験が、実現につながった。

取材に答える荒井さん(左)

「『KEIKYU YELLOW HAPPY TRAIN』は沿線に幸せを運ぶ電車ということで、お客様に幸せを届けたいという思いが強い車両です。ハッピーターンも『幸せ(ハッピー)がお客様に戻って来る(ターン)ように』という開発者の思いがこもっていた。ハッピー同士、お客様に幸せを届けたい思いが合致しているということで実現させていただきました。」

「なかなか遭遇できる機会は少ないとは思いますが、だからこそハッピーターントレインと出会えて『今日一日ツイてる!』と実感していただけるのではないかと考えています。車内に掲載された幸せエピソードを見て『あ、これ分かる!』と共感していただき、身近な幸せに気付いていただくきっかけに繋がれば嬉しいです。」

遭遇率が低いからこそSNSでの拡散性は強く、話題にもなりやすい。ハッピーターン公式Xアカウント(@happyturnkameda)から発信したハッピーターントレインに関する投稿は、合計7万いいね以上を獲得し、ハッピーターントレインに出会った方々からの自発的な投稿も増えている。「出会えてハッピー」「しあわせな気持ちになる」「久しぶりにハッピーターン食べたくなった」等、既にSNSでも反響を呼んでいる。

撮影できれば話題感も出るだろう。ただ、「KEIKYU YELLOW HAPPY TRAIN」の運用は京急電鉄のホームページで前日に発表されるから、その気になれば意外と会いに行くハードルは低い。もし「子供にどうしても乗ってみたいとせがまれて……」とお悩みの方は、裏技(?)として覚えていてもいいかもしれない。

京急特別塗装列車運行予定(外部サイト)

ここに注目!ラッピングデザインへのこだわり

ハッピーターントレインデザイン案

ハッピーターントレインのデザイン案が上がってきたとき、最初に感じたのは「ハッピーターンの世界観を忠実に表現できている」ことだった。電車のドア横には、ハッピーターンやパウダーを表すドット柄、ターン王子等が描かれていて、出会った瞬間からハッピーの世界に誘われるような、そんな電車に仕上がった。

ターン王子も描かれた場所によって顔やポージングが異なっている。乗車するたびに違う印象を受けるかもしれない

中吊り広告もハッピーターンらしいデザインだ。全て実物と同じようにフィルムで巻いてキャンディー包装にした。どの列車に乗っても「巨大ハッピーターン」が出迎えてくれて、まるで上から粉が降ってきそうな面白い仕掛けができた。

SNSとの連動にも力を入れる。今年4月にハッピーターン公式Xアカウント(@happyturnkameda)で募集した「何気ない日常のハッピーエピソード」を車内広告の一部に採用した。応募は1,000件以上あったという。選定にあたっては「これはニッチ過ぎないか」「逆にユル過ぎて条件に合わないのでは」といった観点から厳しく審査し、絶妙な「あるある」エピソードを選んだ。

何を幸せと感じるかは立場によっても異なる。社会人に、主婦に、学生に当てはまるエピソードを区分けし、車内に散りばめることで、乗車された方々へ広く共感してもらえることを重視した。一見無造作に選ばれているような幸せエピソードにも、実は並々ならぬこだわりがある。もし乗車された際は、そんなことも気にかけながら一つひとつのメッセージを読んでみてほしい。

(Sponsored by 亀田製菓)

鉄道チャンネル

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