
2026年10月、両国エリアにて街歩きイベント「江戸東京歴史ツーリズム」が開催されました。応募者1,800名以上の中から選ばれた計142名の参加者が体験した本プログラムは、単なる名所巡りではありません。今年3月に大規模改修を経てリニューアルしたばかりの「江戸東京博物館」を起点に、館内の精巧なジオラマや最新展示で江戸の暮らしをインプットした直後、実際の街へ繰り出して史跡を巡り、ワークショップでアウトプットという取り組み。東京の文化や自然などの新たな魅力を再発見できるイベントとして注目を集めています。
本記事では、3日間にわたり開催された同イベントに同行し、プログラムの全貌をレポート。今回は、江戸東京博物館の見学に密着。参加者たちはどのような視点で東京の歴史を再発見したのでしょうか?
今回の「江戸東京歴史ツーリズム」、舞台は両国!

東京都と公益財団法人東京観光財団が実施する「あしたの東京プロジェクト」は「東京」の新たな魅力を発見して明日の東京を考える、都民参加型の取り組みです。2022年度から実施しており、今年度のイベント第一弾として「江戸東京歴史ツーリズム 見て、聞いて、感じて! アートから、東京の昔と今を学ぼう。」を開催しました。10月10日(土)~12日(月・祝)の3日間・計6回の開催となりましたが、総勢719組1,814名の応募者の中から選ばれた、都内在住の小学4~6年生とその保護者、計142名が参加。両国の街を歩きながら、江戸時代から続く歴史や文化が息づく街並みを体感しました。
リニューアルした「江戸東京博物館」へ
今回の「江戸東京歴史ツーリズム」では、オリエンテーションに続き、リニューアルした「江戸東京博物館」の江戸ゾーンを親子で見学しました。

「江戸東京博物館」は、都営大江戸線「両国駅」 A3・A4出口から徒歩約1分、JR総武線「両国駅」 西口から徒歩約3分、東口から徒歩約7分という恵まれた立地にあります。

入館前に目を引いたのが、西側アプローチ。鳥居をモチーフとした24本の連続するオブジェが設置されています。側面内側には現代から江戸の映像が投影され、これから江戸の世界に足を踏み入れる期待を高めてくれます。
江戸時代の「日本橋」からスタート

5階と6階の2フロアにまたがり約9,000平方メートルの常設展示室。6階の入り口を抜けるとすぐ見えてくるのが、江戸時代の「日本橋」です。全長約51メートル、幅約8メートルの北側半分を復元。江戸と地方を結ぶ道路の起点「五街道」と呼ばれ、多くの商人や物産が行き交った場所です。
江戸の防災意識を変えた「明暦の大火」

江戸時代、徳川家康の時代は「町割り」を行い、身分で住む場所を分けていました。町には大きく分けて「武士」と「町人」がいましたが、江戸城を囲むエリア(寛永期の武家地地図の茶色のエリア)に武士が、下側(地図の白色のエリア)に町人が住んでいました。
江戸の町は木造建築が多く、火災が絶えませんでした。なかでも江戸時代最大級の火災と言われる1657年の「明暦の大火」の際は3日間にわたって燃え広がり、甚大な被害が生じました。これを機に「防災」への取り組みが始まり、神社仏閣を外堀に移したり、火が燃え広がらないように火除地(ひよけち)と呼ばれる空き地を設けたり、両国橋を架けて隅田川の左側まで街を広げたりといった町づくりが行われました。
精巧なジオラマに感動!

江戸ゾーンの見どころのひとつが、江戸の町を再現したジオラマの数々。日本橋周辺の賑わう町並みを、当時の街並みと暮らしを俯瞰して眺めることができます。まずは長屋が続く、日本橋付近の町人地。「明暦の大火」について学んだばかりだったため、小さな家屋が密集している様子に思わず「火事が発生したら一気に燃え広がりそう……」と感じてしまいました。

日本橋周辺ということはもちろん、日本橋も架かっていました。

町人地の隣には、寛永の大名屋敷がほぼ同じスケールで再現されていました。江戸城本丸大手門の前に、越前福井藩主・松平伊予守忠昌の上屋敷が建てられています。見比べると武士の町はゆったりとした空間に感じられます。

町人・武士ときたら、最後は将軍の住まい。江戸城が復元されていました。本丸御殿と二丸御殿を復元しています。
庶民が暮らした長屋の広さをリアルに体験

先ほどジオラマで見た長屋の広さを体感できるスペースがありました。間口は9尺(2.7メートル)、奥行きは2間(約3.6メートル)で約3坪、居間の広さは約4.5畳です。この部屋で家族全員が生活していました。
ちなみに井戸やごみ溜め、雪隠(トイレ)は共同。その隣に小さな稲荷がある、よくある町並みも再現されていました。
木版印刷と本の普及、江戸時代の出版事情

続いては、昨年のNHK大河ドラマ「べらぼう」視聴者なら間違いなくテンションが上がる、江戸時代の出版事情が分かるコーナー(筆者もその一人)。版木(本を作るための道具)を制作し、販売するまでのプロセスや錦絵(多色刷りの彩り豊かな浮世絵)ができるまでの手順を解説しています。

「べらぼう」の主人公、蔦谷重三郎は版元(出版プロデューサー)でした。美人大首絵で大ヒットを果たした喜多川歌麿や、役者絵で名を馳せた東洲斎写楽といった浮世絵師は蔦谷重三郎に才能を見出され、江戸文化の最前線で活躍しました。

錦絵などの出版物を扱っていた版元「絵草紙屋」の原寸大展示も。錦絵や絵草紙、地図なども扱っていたようです。
当時は寺子屋で勉強する子どもが多く、識字率は高かったものの、庶民にとって本は高価なものでした。そのため、貸本屋(今で言うレンタルショップ)が点在しており、庶民は本を借りて読むことが多かったそうです。
五感で楽しむ江戸の暮らし

江戸で発展した屋台文化のコーナーには、すしや天ぷらの屋台が並んでいました。すしの屋台には、冷蔵できなくても傷みにくいように漬けや酢締めにした江戸前寿司が、天ぷら屋台には海老などの天ぷらが並び、活気あふれる庶民の食文化に思いを馳せることができました。
今も昔も江戸を代表するお祭りや伝統芸能

京都の「祇園祭」、大阪の「天神祭」と並び、日本三大祭りのひとつに数えられる「神田祭」。神田明神の山車が原寸大で復元されているほか、神田祭の祭礼行列をジオラマで再現しています。2年に1度開催する伝統は江戸時代から変わりませんが、開催時期は9月から5月に変更されています。

最後は芝居小屋「中村座」を見学。正面部分を実物大で復元しています。ガイドさんからは、一幕目と二幕目の間に弁当を食べる習慣から「幕の内弁当」という言葉が生まれたといった豆知識も教えてもらいました。
今回ご紹介した江戸東京博物館の「江戸ゾーン」は、約9,000平方メートルにも及ぶ広大な常設展示のほんの一部。リニューアルでさらにパワーアップした館内は、一度では回りきれないほどの驚きと発見に満ちていました。
次回は博物館を飛び出し、葛飾北斎の作品を手がかりに両国の街に隠された江戸の痕跡を探す「まち歩き歴史ガイドツアー」の様子をお届けします。実際の街並みと歴史が交差するリアルな探訪記を、どうぞお楽しみに!
文・写真:斎藤若菜
(旅と週末おでかけ!鉄道チャンネル)