
2026年10月10~12日、両国エリアを舞台に街歩きイベント「江戸東京歴史ツーリズム」が開催されました。江戸東京博物館の江戸ゾーンを見学後は、旧安田庭園や回向院、両国橋などを巡る「まち歩き歴史ガイドツアー」を実施。普段何気なく歩いている街並みに隠されている、江戸時代から続く深い歴史や驚きの痕跡を探訪しました。休日に親子でのお出かけを考えている方や、カメラ片手に東京の歴史散歩を楽しみたい方にとって、見慣れた風景が全く違う顔を見せる特別な体験のヒントになるはずです。
本記事では、葛飾北斎の作品を手がかりに、現代の風景に溶け込む浮世絵スポットなど、両国観光で立ち寄りたい名所をピックアップ。参加者たちが発見した「現代に残る江戸」とは一体どんな風景だったのでしょうか? 発見と学びに満ちたツアー当日の様子をレポートします。
「まち歩き歴史ガイドツアー」で江戸時代の両国を学ぶ
旧安田庭園

江戸東京博物館を出て最初に訪れたのは、徒歩約5分の「旧安田庭園」。後に常陸国笠間藩主となった本庄因幡守宗資が下屋敷として拝領。元禄年間(1688〜1703)に築造した庭園です。隅田川の水を引き入れた池を中心とした「潮入り回遊式庭園」として整備されましたが、現在はポンプで人工的に潮入を再現しています。明治時代に旧備前岡山藩主池田章政邸となり、次いで安田財閥創始者である安田善次郎の所有となりました。

敷地内には「刀剣博物館」もあり、貴重な日本刀を数多く所蔵しています。

ここには葛飾北斎にまつわるスポットもあります。三代将軍家光の時代、隅田川が大洪水となりました。濁流のなか、旗本・阿部豊後守忠秋が馬を駆って川を渡り状況を調べたと言われており、その際に馬を繋いで休んだとされるのが「駒留石」。かつては隅田川岸にあり、葛飾北斎の浮世絵「馬尽 駒止石」には当時の駒留石が描かれています。現在はここ、旧安田庭園にあるという訳です。
前述の阿部豊後守忠秋は、このことを機にスピード出世を果たしました。「駒留石に触れればあやかれるかも」というガイドさんの声かけで石に触れ、参加者は将来の出世を願いました。
両国国技館

旧安田庭園の向かいには両国のシンボル、両国国技館があります。毎年1・5・9月に大相撲の本場所を開催するほか、施設内には「相撲博物館」もあります。
そして地下には何と、日本最大級の焼き鳥工場があります。これは、鶏が2本足で立ち、地面に手をつかないことから、相撲に負けない(手をつかない)という縁起担ぎが所以。「国技館の焼き鳥」は現在、両国の名物グルメとなっています。ちなみにこの「国技館の焼き鳥」は相撲観戦時だけでなく、JR両国駅や東京駅の売店などでも駅弁感覚で購入可能です。街歩きのお供やお土産にぴったりですね。
「凱風快晴」デザインマンホール

墨田区の公式サイトによると、葛飾北斎は現在の墨田区亀沢付近(本所割下水)で生まれ、90年の生涯のほとんどを墨田区内で過ごしたそうです。そんな北斎が遺した名作のひとつ、冨嶽三十六景の中の1図が「凱風快晴(がいふうかいせい)」。JR総武線両国駅西口を出て左方向に、「赤富士」(あかふじ)として広く知られている名画のデザインマンホールがあります。

マンホールの目の前には力士像がありました。国技館通り沿いに配置されていて、ミニサイズながらも目を引きます。台座の側面には歴代横綱の手形が並んでいて、思わず手を重ねてみたくなります。
「回向院(えこういん)」

回向院は「振袖火事」と呼ばれる明暦3年「明暦の大火」の犠牲者を弔うために開創した、浄土宗の寺院です。当時の将軍・徳川家綱の指示により、無縁仏を埋葬・供養するため「万人塚」という大きな墳墓を築いたことが始まりです。

また、回向院は、大相撲の前身である「勧進相撲(かんじんずもう)」が行われた場所としても知られています。勧進相撲とは、寺社の建築・修復といった公共事業の資金を集めるための相撲興行のこと。明和5年(1768年)に初めて行われ、天保4年(1833年)からは春秋2回の興行の定場所に。旧両国国技館が建立された明治42年(1909年)までの76年間「回向院相撲の時代」が続きました。ちなみに、現在の両国国技館は1909年に回向院境内に開館した初代、蔵前の2代に続く3代目です。
もゝんじや

両国橋の手前に、江戸時代からの食文化を伝え続ける店があります。1718年創業の「もゝんじや」は、猪肉をはじめとしたジビエ料理の老舗。もゝんじ(ももんじ)とは獣を表す言葉。肉を食べることがタブー視されていた江戸時代、猪肉を「山くじら」「牡丹」と呼び、庶民がひっそりと食べていたそうです。
両国橋

「明暦の大火」を機に、防火・防災の目的で架けられた「両国橋」。架橋当初は大橋と呼ばれていましたが、隅田川が武蔵国と下総国の境にあることから現在の名称となりました。両国橋が「両国駅」の名前の由来となっています。

両国橋の中央付近には円形のバルコニーがあり、よく見ると土俵の形をしていることが分かります。大相撲の土俵と同じ大きさでデザインされています。
隅田川テラスギャラリー

最後は、隅田川沿いに整備された「隅田川テラス」を歩きました。ここでは「隅田川テラスギャラリー」として錦絵を多数展示しています。

柳橋を眺めながら、雨に降られた人々が柳橋を急いで渡る様子を描いた葛飾北斎の代表作「新柳橋の白雨 御竹蔵の虹」を鑑賞する。そんな贅沢な街歩きを楽しめます。

両国の納涼風景や花火大会、勧進相撲の様子や広小路の風景など、さまざまな浮世絵を鑑賞することで、江戸時代の暮らしや文化を垣間見ることができました。
川沿いを歩いているとジョギング中の人とすれ違うことも。隅田川と北斎の絵を眺めながら散歩や運動ができる近所の人々が羨ましくなりました。
ワークショップで「東京の魅力」マップを制作

街歩きを終えた後は、ワークショップを実施しました。QRコードを読み込みLINEのオープンチャットに参加。ツアー中に見つけた魅力や発見を投稿し、参加者と情報を共有しました。

参加者がそれぞれの視点で見つけたお気に入りのスポットや気づきを写真やコメントで投稿すると、その場で情報が追加されました。あっという間に画面が写真や文章で埋まり、多くの気づきや学びがあったことを伺わせます。
なお、今回参加者たちで作ったオリジナルの魅力マップをもとに、デジタルマップを作成し、後日公開される予定です。
博物館での学びと実際の街歩きを掛け合わせることで、いつもの見慣れた景色が壮大な歴史ミステリーのように見えてきます。江戸の面影と現代の東京が交差する両国。皆さんもぜひ、休日は両国へ足を運び、時空を超えた歴史散歩に出かけてみませんか?
文・写真:斎藤若菜
(旅と週末おでかけ!鉄道チャンネル)