鍋島駅に停車中の「或る列車」

「JRKYUSHU SWEET TRAIN 或る列車」――それは、活躍する機会のなかった「九州鉄道ブリル客車」に着想を得て、鉄道模型愛好家・原信太郎氏の製作した詳細な模型をベースに水戸岡鋭治氏がデザイン・設計し、現代に蘇らせた煌びやかな観光列車。新型コロナウイルス感染症の影響により運転を見合わせていましたが、万全の対策を実施した上で、本日7月23日から運転を再開しました。

「或る列車」一号車内装
「或る列車」二号車内装
「或る列車」グッズ、車内限定販売品も

同列車は豊肥本線の全線運転再開と同日となる2020(令和2)年8月8日(土)に運行開始5周年を迎えます。これを記念し、JR九州は7~8月の「ハウステンボス⇔博多コース」で運行開始当時のメニューを再現。演出は昨年「G20 大阪サミット」首脳晩餐会の料理担当も務めた成澤由浩シェフ。厳選された九州食材がふんだんに用いられた「この列車でしか味わえないスイーツコース」が再登板しました。

※……食材の産地・生産者は気候等の状況により変更となる場合があります。

7・8月は運行開始当初のメニューを再現

7月15日には新型コロナウイルス対策の訓練会が実施され、その後実際に7・8月運行時の復刻メニューを提供する試乗会が行われました。今回は九州の美味を揃えたそのスイーツメニューを一つ一つ紹介していこうと思います。

フリードリンクは一部有料のものもあり

【NARISAWA“bento”】「或る大地と海の恵み」

・鹿児島県 黒豚と牛肉のメンチカツサンド
・熊本県 車海老とアジのサラダ
・佐賀県 みつせ鶏と夏野菜のトマト煮込み

列車の揺れに対応するどっしりしとした木製の入れ物は「アトリエとき」が制作

最初に提供されるのは「NARISAWA“bento”」――鹿児島県産の黒豚と長崎の和牛を使ったメンチカツサンドは、ソースが濃厚でしっかりとした味付け。左右のピクルスやミョウガでお口直ししながらいただくとこれが美味い。

写真中央「車海老とアジのサラダ」はぷりっぷりの海老の食感とアジの弾力を舌で楽しめる絶品。写真では分かりませんが、下にポテトサラダが敷いてあります。「みつせ鶏と夏野菜のトマト煮込み」は薄味でさっぱりとしたお味。緑色のドレッシングはバジルのマヨネーズ。おさかな、鳥、サンドイッチと薄味のものから順にいただくのがおすすめです。

木製の容器は「アトリエとき」が制作したもので、実際に手に取ってみるとずっしりと重い。ゆっくり走行するとはいえ列車は揺れるものですから、車内でも優雅に食事を楽しむためにこの「重さ」が必要になるのですね。角が丸みを帯びており、どことなく列車を思わせるデザインになっているのも楽しい。

【スープ】「歓喜の香り」

・サフランと大分県 ムール貝のスープ

ムール貝はらっきょ程度の大きさで、しっかりと肉厚だった

スープの器もなかなかどっしりとしています。「歓喜の香り」は最初の一口が濃厚。びっくりするほど濃厚。記者は子供の頃「最初の一口目は薄いのが良い」と言われて育ちましたが、最初から最後まで飽きの来ない美味しい一口を提供し続けるのが世界のNARISAWAなんだよなぁ……という気持ちになりました。

時間をかけてしっかり煮込んだムール貝は小さならっきょほどの大きさ。スープに溶け出してなおその身には旨味がたっぷり詰まっているように感じられました。

【カクテルスイーツ】「楽園のカクテル」

・熊本県 白桃とヨーグルトのカクテル

楽園のカクテルはつぶつぶの食感も味わいたい

bentoとsoupが終わるとお待ちかねのsweets timeです。トップバッターは「楽園のカクテル」。熊本県の白桃とヨーグルトのお洒落なデザートを「肥前びーどろ」のカクテルグラスに盛り、視覚でも味覚でも楽しめる逸品に仕上がっています。ミント、サングリア、赤しそなどの様々な味わいに味蕾も満足。お花は食用です。

このあたりでだんだん幸せな気分になってきたので盛られたつぶつぶを見た瞬間「イクラみたいですね」とIQ3ぐらいのコメントを発してしまったのですが、さすがに「或る列車」の客室乗務員は訓練されているので「イクラのようにつぶつぶの食感も楽しめるんですよ」と教えていただきました。実際の食感はイクラと寒天のどちらにも属さず中立を保つようでした。

【スープスイーツ】「灼熱のさとうきび畑」

・鹿児島県 黒糖と、バナナ、月桃とカボスの香り

バナナと黒糖が濃厚に絡む、さっぱりとしたカボスの泡と混ぜると良い

帽子のようなガラス皿の中には、アルコールに浸したドーナツ型のスポンジを土台とし、生クリーム、黒糖を絡めたバナナ、月桃のゼリーを乗せた南国のスイーツたち。白く見えるのはカボスの泡。黒糖とバナナの主張が強いので、このカボスの泡で口をさっぱりさせて次の一口に挑みましょう。

笹の葉を一回り大きくしたような月桃の葉に器を乗せて提供されるメニューなのですが、楽しみ過ぎてうっかり写真を撮る前に食べてしまったせいで肝心の葉をお見せできません。仕事を忘れるほどワクワクしてしまったということでご了承いただけますと幸いです。

【メインスイーツ】「トロピカルバケーション」

・宮崎県のライチと長崎県のマンゴー、パッション、ドラゴンフルーツ、パイナップルのピニャコラーダ

南国の素材を生かしつつも、踏み砕ける雪のような繊細さも

記事を書いている途中に気付いたんですけど、これ「メインスイーツ」なんですね。「今まで食べてきたのは前座だった……?」と気付いて今更ながらに震えています。四番打者しかいない打線じゃないんだからさ。

真っ白な粉雪に覆われた小箱のようなスイーツの中には、ココナッツのムースとジュレのように潰したパイナップルが。マンゴー、パッションフルーツ、ライチには2種類のソース(マンゴーとピニャコラーダ)がかかっており、多様な味が楽しめます。

◆【ミニャルディーズ】「祝典のフィナーレ」

・熊本県 甘夏&キャラメル
・福岡県 抹茶&ホワイトチョコレート
・大分県 薔薇&チョコレート

視覚的にも楽しい三種のケーキ

食後に提供される小さな甘いケーキたち――ミニャルディーズ。左から順にいただきましょう。キャラメルのクリームでリボンのように装飾された甘夏のケーキは、ミニシュークリームの焦げ感とパリっとした食感で攻めてくる。抹茶&ホワイトチョコレートのケーキには、或る列車のために栽培された茶葉を使用。抹茶好きにはたまりません。バラのチョコレートは一口食べると鼻からすっとバラの香りが抜けていく。一つ一つに「お上品!」とコメントしたくなります。

上品なのは食器もそうですね。写真右上のスプーンを浮かせる黄金色に注目してみて下さい。「この箸置きいいですね。どんな素材で作られてるんですか?」とお尋ねしたところ、後程ご担当者の方より「こちらのカトラリーレストは真鍮で出来ております」と教えていただき、こういう細かなところからも「或る列車」の気品・風格が感じられます。

が、「或る列車」のメニューはその上品なイメージに反し、意外なほどボリューミーです。記者は事前にお昼ご飯を食べてから乗車したのですが、終点のハウステンボスへ到着した頃にはすっかり満腹になってしまいました。成人男性でこれなので、お年を召された方・食の細い方はしっかりお腹を空かせて乗った方が良いでしょう。

ハウステンボス駅に到着した「或る列車」

まもなく五周年を迎える「或る列車」――今年の夏はぜひ、その最高のメニューを堪能してください!

文/写真:一橋正浩