鉄道チャンネルニュースにもご寄稿いただいたことのある鉄道アナリスト、西上いつきさんの初めての著書が刊行されました。その名も『電車を運転する技術』――西上さんはかつて名古屋鉄道の運転士でもあり、本書は当時の経験をもとに「運転台のリアル」が綴られています。

運転士のお仕事を紹介する本、ということであれば小中学生がメインターゲットなのかな、と思いながら開いてみると、これが思った以上に本格派。「電車」とはなんなのか? といったごく基本的な事柄は短いページでおさえ、電車の仕組みやブレーキのかけかた、免許取得までの道のり、事故を起こした時の対処といった内容がぎっしり詰まっていました

たとえば「抵抗制御」と「VVVF制御」の違いについても何ページか割かれて詳細に記述されていますし、今話題の「閉そく」やダイヤグラムの説明も盛り込まれている。いずれも運転方法に直結する内容なので当然と言えば当然ですが、想像以上に「基礎」にしっかり触れられているイメージです。

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言ってしまえば、この本は「電車の運転」という表面的な技術のことだけを説明するものではなく、運転に必要な決まり事や電車を動かす仕組みといった土台から記述されている本なのです。面白い読み物というより教科書に近い。でも硬さや読みにくさはほどほどに、柔らかい筆致で丁寧に描かれているのは西上さんの文体らしく、たとえ一読しただけでは分からなかったとしても、豊富な図やイラスト・写真が理解を助けてくれます。

もちろん本物の運転士ならではの知見も豊富。たとえば非常ブレーキの投入に必要な「勇気」、初めて一人で運転台に立った日の心細さ……そうした「生の声」が気になる方にもいい本かもしれませんね。ひょっとしたらこれ、鉄道会社に入りたいという就活生なんかにもおススメかも。

文:一橋正浩