下妻駅。下館行き単行(1両編成。手前)と守谷行き2両編成(向こう側)が行き違います(筆者撮影)

本サイトでWILLER(ウィラー)といえば、多くは京都府と兵庫県をまたぐ京都丹後鉄道(丹鉄)の情報。屋根のない「東京レストランバス」や高速バス、自動運転の情報も掲載されます。共通するキーワードは「移動サービス」。企業目標の一つが「日本の交通空白地帯をゼロに」です。

そんなウィラーが年明けから始めたのが「地域連携公共ライドシェア」。地域住民などを一般ドライバーのマイカーで運ぶ新しい移動(輸送)サービスで、子会社・Community Mobility(コミュニティモビリティ=モビ)は茨城県南西部のつくば、土浦、牛久、下妻の4市と共同で2025年1月27日から、一般ドライバーがハンドルを握る有償旅客運送を始めました。

公共ライドシェア車両。基本はマイカーなので、外見で見分けは付きません(筆者撮影)

賛否両論が交錯するライドシェア、下妻市の試乗会(1月24日)に参加して、鉄道ファン目線も交えた可能性を探るとともに、下妻市内を走る関東鉄道常総線の〝聖地巡礼〟もお届けします。

推進派、慎重派に二分

用語自体は過去形になってしまいましたが、ライドシェアの必要性を一言で表すのが「2024年問題」。ドライバー不足で、今や路線バスの運休はニュースにもならないほど。バスやタクシーを補うのが、「自家用有償旅客運送サービス」、つまりライドシェアです。

世論は推進派、慎重派に二分。住民の外出機会拡大や観光客誘致への期待とともに、交通事故増加の懸念も指摘されます。

茨城県4市はICT(情報通信技術)を地方創生につなげる、国のデジタル田園都市国家構想交付金を活用して公共ライドシェアのサービスを開始。事業者に相乗りオンデマンド交通のモビを指名しました。

モビは2022年1月、ウィラーとKDDIの共同出資で設立。2023年末~2024年始につくば市での実証実験を経て、今回の本運行につなげました。

車体に貼付される「有償運送車両」のシール。左側はモビのマークです(筆者撮影)

20~30歳代のドライバーも

ここからアトランダムに、ライドシェアのドライバーはどんな人? 下妻市役所で、下妻市市長公室企画課の初澤弘道課長補佐とモビの安保友彦執行役員に聞きました。

市でライドシェア車を運転するのは、ドライバーバンクに登録した一般76人です(4市合計)。自治体はシニアがほとんどと予測しましたが、実際は20~30歳代の若者も2~3割程度。タクシー運転に必要な2種免許を持つ人もいます。

ライドシェアの運行時間帯は10~16時。インターネットまたは電話による予約制で、運賃は事前予約が700円、直前予約が1000円。路線バスより高額、タクシーより安価といったところでしょうか。

ルートなどを示すタブレット端末の画面(筆者撮影)

下妻市は市内を南北に分け、主に南側エリアでライドシェアを運行します。常総線は北側が下妻駅、南側が宗道駅。下妻市は2006年、旧下妻市と旧千代川村の合併で誕生しました。バスやタクシーが比較的便利な旧下妻市に対し、旧千代川村は公共交通サービスが不十分です。

スポットとしては南側に二輪レースのメッカ「筑波サーキット」があり、市やモビ関係者は「レース観戦などにライドシェアを利用してほしい」と期待します。

運行管理者は関鉄

紹介が遅れましたが、ライドシェアでは関鉄も重要な役割を受け持ちます。運行計画を立てたり、事故防止、ドライバーの教育を担当する運行管理者が関鉄です。

関鉄は常総線沿線でタクシー事業を展開。常総線の利用促進につながる新しい移動手段として、ライドシェアを後押しします。

撮り鉄に利用価値大?

ここで鉄道ファンがライドシェアを使えそうな場面を考えれば、 やはり撮り鉄でしょうか。駅間で列車を遠望で撮影する場合、今は移動の足はバスかレンタカー。ライドシェアが利用できれば、行動範囲が広がります。

公共交通の利用環境にもよるでしょうが、少なくとも茨城4市ではライドシェアを敵視するような声は聴かれませんでした。

関鉄沿線を聖地巡礼

「下妻物語」に登場する、改札越しの列車を再現。左側の階段は反対側のホームではなく、線路をまたいで駅東側に抜ける珍しい構造です(筆者撮影)

硬い話はここまで。後段はせっかく関鉄で下妻に行ったので沿線スポットを散策しました。テーマは、2004年公開の映画「下妻物語」。深キョンこと深田恭子さんと、現在も歌手を中心に活動する土屋アンナさんが高校生役でダブル主演。「ふてほど」で2024年の新語・流行語大賞を受賞した、阿部サダヲさんも出演していました。

ロリータ少女(深田さん)とヤンキー少女(土屋さん)の友情を軸に物語は展開。スクリーンには関鉄も登場します。

「電車は1時間に2本」(深田さん)

映画冒頭の深田さんのナレーション調のセリフ。「下妻から東京へは、常総線というローカル線で取手まで出なくてはなりません。電車は1時間にたった2本」。

守谷で接続するつくばエクスプレス(TX)が開業したのは2005年。映画の公開後でした。お気付きの方もいらっしゃるでしょうが、深田さんのナレで〝電車〟はご愛敬。関鉄は非電化。列車は気動車です。

下妻駅舎はクラシックなスタイル。撮影時と大きくは変わらないようですが、たった一つの違い。それはPASMOの簡易改札機かもしれません。

ロリータの聖地・下妻

映画を再現して、駅舎内から改札越しに列車を撮影した後は、もう一つの聖地・イオンモール下妻へ向かいます。

下妻駅と並ぶもう一つの聖地・イオンモール下妻(筆者撮影)

当時の店舗名はジャスコで、イオンモール下妻に変わったのは2008年。スクリーンでも、下妻市民ご愛顧のファッション店(?)として「ジャスコ」が連呼されます。

2024年5月には映画公開20周年を記念して、モールの看板が2日間限定で「JUSCO」に書き換えられました。

一説には下妻は「ロリータの聖地」とも。「常総線や公共ライドシェアで地域を訪れる人が増えてほしい」……。そんな思いで帰路、取手行きの列車に乗車しました。

関鉄では下妻の2駅下館方の騰波ノ江(とばのえ)駅もスクリーンに登場します。駅にはミニ鉄道博物館「とばのえステーションギャラリー」があり、毎月定例で公開。駅は「関東の駅百選」に選定されます(筆者撮影)

記事:上里夏生