由利高原鉄道※この「私鉄に乗ろう」の写真は、筆者がプライベートで旅行して撮影したものです。鉄道会社さんから許可をいただいていませんので、乗車券があれば誰でも入れる場所からの写真です。素人のスナップ写真なのでクオリティーには目をつぶってご笑覧ください。

写真は由利高原鉄道

地方の私鉄には大きく2種類ある。元々が沿線の住民と特産物を運ぶために地元の人々によって作られたもの。弘南鉄道、津軽鉄道、福島交通、ひたちなか海浜鉄道、関東鉄道、上信電鉄、上毛電鉄、秩父鉄道、流山鉄道、銚子電鉄、小湊鉄道などあげれば切りが無い。

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それに対し、1980年(昭和55年)に成立した国鉄再建法(日本国有鉄道経営再建促進特別措置法)に絡んで特定地方交通線として廃止となった国鉄路線を地元の自治体などが第三セクターの法人を作り経営を引き継いだものがある。

今回はここを少しまとめてお復習いしておきたい。

■ 特定地方交通線第1次廃止対象路線 40線区(729.1km)

1 営業キロが30km以下の盲腸線 かつ旅客輸送密度2000人/日未満
2 営業キロが50km以下 かつ旅客輸送密度500人/日未満

この中で第三セクターに転換されたのは

旧国鉄(以下省略)樽見線/24.0km → 樽見鉄道 
       ※実際は神海〜樽見間が1989年に延伸開業され営業キロは34.5km

         神岡線/20.3km → 神岡鉄道 → 2006年廃止
         北条線/13.8km → 北条鉄道
         黒石線/6.6km → 弘南鉄道黒石線 → 1998年廃止
         矢島線/23.0km → 由利高原鉄道※トップ画像参照
         三木線/6.8km → 三木鉄道 → 2008年廃止
         明知線/25.2km → 明知鉄道
         大畑線/18.0km → 下北交通大畑線 → 2001年廃止
         甘木線/14.0km → 甘木鉄道
         高森線/17.7km → 南阿蘇鉄道
         信楽線/14.8km → 信楽高原鉄道
         若桜線/19.2km → 若桜鉄道
         木原線/26.9km → いすみ鉄道

この中で     久慈線/26.0km
         宮古線/12.8km
         盛線/21.5km

上記3線に加え、未完成だった工事中の路線(吉浜駅〜釜石駅間15.2km、田老駅〜普代駅間32.2km)を完成させて三陸鉄道北・南リアス線が運営している。

また       丸森線/17.4km(槻木〜丸森)

上記に加えて、丸森〜福島間の工事を完成させ、全線を電化して阿武隈急行が経営にあたっている。

さらに      角館線/19.2km
         阿仁合線(第2次廃止対象路線)46.1km

上記2線は、元来、鷹角(ようかく)線として鷹ノ巣〜角館間が計画されたもので先に完成した部分が開業していた。未完成だった比立内〜松葉(29.0km)を完成させ、鷹巣〜角館間を秋田内陸縦貫鉄道が経営している。

しかし廃止された路線が何と多いことだろう。

・白糠線/33.1km(北海道)
・日中線/11.6km(福島県)
・赤谷線/18.9km(新潟県)
・魚沼線/12.6km(新潟県)
・清水港線/8.3km(静岡県)
・高砂線/6.3km(兵庫県)
・宮原線/26.6km(大分県・熊本県)
・妻線/19.3km(宮崎県)
・小松島線/1.9km(徳島県)
・相生線/36.8km(北海道)
・渚滑線/34.3km(北海道)
・万字線/23.8km(北海道)
・倉吉線/20.0km(鳥取県)
・香月線/3.5km(福岡県)
・勝田線/13.8km(福岡県)
・添田線/12.1km(福岡県)
・室木線/11.2km(福岡県)
・矢部線/19.7km(福岡県)
・岩内線/14.9km(北海道)
・興浜北線/30.4km(北海道)
・興浜南線/19.9km(北海道)
・美幸線/21.2km(北海道)

■ 第2次廃止対象路線は31線区(2089.2km) 輸送密度2000人/日以下の路線

第三セクター転換は

越美南線/72.2km → 長良川鉄道
二俣線/67.9km → 天竜浜名湖鉄道
伊勢線/22.3km → 伊勢鉄道
池北線/140.0km → 北海道ちほく高原鉄道ふるさと銀河線 → 2006年廃止
会津線/57.4km → 会津鉄道
真岡線/42.0km → 真岡鐵道
足尾線/44.1km → わたらせ渓谷鐵道 ※貨物線/1.9kmは廃止
岩日線/32.7km → 錦川鉄道
松浦線/93.9km → 松浦鉄道
高千穂線/50.1km → 高千穂鉄道 → 2008年廃止

ここでも凄まじい数の路線が廃止になった。しかも長大な路線が多い。

まず100km以上のもの

・羽幌線/141.1km(北海道)
・天北線/148.9km(北海道)
・名寄本線/138.1km+支線/4.9km(北海道)433.0km

50km以上のもの

・胆振線/83.0km(北海道)
・富内線/82.5km(北海道)
・宮之城線/66.1km(鹿児島県)
・広尾線/84.0km(北海道)
・大隅線/98.3km(鹿児島県)
・湧網線/89.8km(北海道)
・士幌線/78.3km(北海道)
・松前線/50.8km(北海道)
・標津線/69.4km+47.5km(北海道)
・山野線/55.7km(熊本県・鹿児島県)585.3km

それ以外

・漆生線/7.9km(福岡県)
・瀬棚線/48.4km(北海道)
・佐賀線/24.1km(佐賀県・福岡県)
・志布志線/38.6km(宮崎県・鹿児島県)
・幌内線/18.1km+2.7km(北海道)
・歌志内線/14.5km(北海道)
・上山田線/25.9km(福岡県)83.7km

こうしてみると、圧倒的に北海道と九州に廃止対象路線が集中している。両方とも石炭産業の衰退が大きな要因だ。

しかし、北海道だけで千キロ以上の路線が廃止されている。第1次と合わせれば何と1316.4kmにもなる。沿線住民が少ない結果、とは言え、いったいどの位の住民が影響を受けたのか空恐ろしくなる数字だ。東京から長崎までの距離(1328.8km)にほぼ匹敵する線路が消えたのである。

廃止された羽幌線/141.1kmに故郷があった友人の言葉が印象的だった。「1987年(昭和62年)に鉄道が廃止されてから、沿線に住んでいた親族の全員が故郷を離れてしまった」と友人は言っていた。鉄道が無くなると更に過疎化のスピードが速くなるという悪循環。

第3次廃止対象路線もあげておく。ここは第三セクター化された路線が多い、それだけ移動需要が大きかったということだろう。

長井線/30.6km(山形県) → 山形鉄道フラワー長井線
岡多線/19.5km(愛知県) → 愛知環状鉄道
能登線/61.1km(石川県) → のと鉄道 → 2005年廃止
宮津線/83.6km(京都府・兵庫県)→ 北近畿タンゴ鉄道
中村線/43.4km(高知県) → 土佐くろしお鉄道
伊田線/16.2km(福岡県) → 平成筑豊鉄道
糸田線/6.9km(福岡県) → 平成筑豊鉄道
田川線/26.3km(福岡県) → 平成筑豊鉄道
湯前線/24.9km(熊本県) → くま川鉄道

廃止されたのはわずかに3線。

・鍛冶屋線/13.2km(兵庫県)
・大社線/7.5km(島根県)
・宮田線/5.3km(福岡県)

そして鉄建公団が作っていた工事中の路線を引き継いで完成させ運営している路線。

阿佐東線 → 阿佐海岸鉄道
阿佐線 → 土佐くろしお鉄道
宿毛線 → 土佐くろしお鉄道
井原線 → 井原鉄道
鹿島線 → 鹿島臨海鉄道
野岩線 → 野岩鉄道
智頭線 → 智頭急行
北越北線 → 北越急行

さらに最近は新幹線開業により並行在来線がJRの経営から離され第三セクター化した路線も増えている。北から道南いさりび鉄道、青い森鉄道、IGRいわて銀河鉄道、えちごトキめき鉄道、しなの鉄道、あいの風とやま鉄道、IRいしかわ鉄道、肥薩おれんじ鉄道などである。

今回は明知鉄道明知線。わずか25kmの路線で複数の峠を越える、急勾配と急カーブの連続する山岳路線がテーマ。

元は1922年(大正11年)改正鉄道敷設法の予定線「遠美線」が出発点だ。東海道本線の掛川から天竜二俣を通り(旧国鉄二股線、現・天竜浜名湖鉄道として実現している)そこから奥三河の山地に分け入り、中央線の恵那までという遠大な計画だった。

原文

静岡県掛川ヨリ二俣、愛知県大野、静岡県浦川、愛知県武節ヲ経テ岐阜県大井ニ至ル鉄道 及大野付近ヨリ分岐シテ愛知県長篠ニ至ル鉄道 並ニ浦川付近ヨリ分岐シテ静岡県佐久間ニ至ル鉄道

現代の地名で書くと

静岡県掛川市掛川より静岡県浜松市天竜区二俣町二俣、愛知県新城市大野、静岡県浜松市天竜区佐久間町浦川、愛知県豊田市武節町を経て、岐阜県恵那市大井町に至る鉄道 及び愛知県新城市大野より分岐して愛知県新城市長篠に至る鉄道 並びに静岡県浜松市天竜区佐久間町浦川付近より分岐して静岡県浜松市天竜区佐久間町佐久間に至る鉄道

開業された区間

・天竜浜名湖鉄道天竜浜名湖線 掛川 – 天竜二俣 26.3 km
・東海旅客鉄道飯田線 三河大野 – 浦川 – 中部天竜 26.8 km
・矢作水力(岩村電気軌道) 岩村 – 大井 12.6 km ※1935年に廃止
・明知鉄道明知線 明智 – 岩村 – 恵那 25.1 km

いずれにしても、中部天竜から明智まではほぼ完全な山地で谷間に集落が点在する程度だ。

武節町というのは稲武辺りのことだ。筆者は名古屋に住んでいたことがあって、茶臼山高原道路というドライブに絶好の道を何度か往復した際に、谷間の集落である津具村や武節町の辺りを通ったことがある。本当に山間の小さな町だった。この山の中に鉄道を通すというのはトンデモナイ労力とお金が必要だと思う。

さて、実際の明知鉄道に話が及ぶ前に長くなってしまったので、後半に続けることにして、ここで一旦終了。

■付記
明知鉄道は2014年(平成26年)に開通80周年記念として「まぼろしの遠美線を探る旅」というイベントを実施している。恵那駅集合→明知鉄道で明智、バスで飯田線の浦川駅 飯田線で浦川〜本長篠駅 天竜浜名湖鉄道の宮口駅に移動、宮口駅〜天竜二俣駅というコースだった。

※写真は全て筆者の撮影です

(写真・記事/住田至朗)