大洗のとれたて生しらすを品川へ特急輸送 JR東日本の鮮魚輸送実験、新サービスも交えて展開拡大
2020年10月23日(金)、上越新幹線「とき」や特急「ときわ」を使用した鮮魚輸送実験がスタートしました。
運ばれたのは新潟県のアマエビやズワイガニ、大洗のとれたて生しらすなど。品川駅のエキナカ鮮魚店「sakana bacca エキュート品川店」や五反田駅構内の「sakana bacca 五反田」で販売されました。
輸送実験は10月23日(金)から11月20日(金)までの1か月間、毎週火・金曜日(※)に行われます。また、金曜日に限り、新潟港の商品は品川店で事前に予約すれば自宅へ配送してもらうこともできるようです。
※……11月3日(火・祝)はお休み。
速達性で商品の価値が高まるのは魚
新幹線や在来線特急を使った鮮魚・特産品輸送の試みは近年とみに活発になっており、最近ではJRのみならず私鉄各社でも試験的に実施されるようになりました。
新型コロナウイルスの感染拡大による減収を補うため、沿線の活性化や地方創生・特産品アピールのため……目的は様々ですが、今回の実証実験はどちらかといえば収益に軸足を置いたもののようです。新幹線や特急の「速達性」を生かし、JR東日本の沿線各地から「とれたて」の旬の魚を運ぶことで商品の価値を高めます。
たとえば今回の「生しらす」は大洗港で午後1時ごろに水揚げされたものですが、品川への到着が15時22分ごろで、店頭へ並んだのは16時ごろ。水揚げから3時間で購入できるスピード感は特急ならではのものと言えるでしょう。トラック輸送と比較しても速度においては優越し、渋滞に巻き込まれない「定時性」が販売開始時間を保証してくれるメリットがあります。
JR東日本スタートアップのマネージャー・阿久津智紀さんによれば、鮮魚を選んだ理由は「速達性で商品の価値が高まるのは魚、傷みやすく鮮度感があるもの」だから。エキナカの飲食店で提供しない理由については個人的な見解と前置きしつつも、「加工して出すと鮮度感としては伝わりにくいので、そのまま見える・持って帰れるもの、そのまま食べられるものを選んでいます」と商品の魅せ方にもこだわりを見せました。
ベンチャー企業と手を携えて
今回の輸送実験における大きな特徴として、スタートアップ企業との提携も見逃せません。フーディソンと手を携えて鮮魚輸送を行ったのは今回が初めてではなく、昨年も「やまびこ」でウニなどを運び、「sakana bacca エキュート品川店」で販売を行っています。今年は物流マッチングサービス「PickGo」を提供するCBcloudも加わることで消費者向けの「自宅への配送」が追加され、サービスはよりブラッシュアップされました。
販売を手掛けるフーディソンは2017年度のJR東日本スタートアッププログラム採択企業。品川~五反田間や自宅への配送を担うCBcloudは「JR東日本スタートアッププログラム2019」で最高賞である「スタートアップ大賞」を受賞しており、後者は2019年11月から「駅とフリーランスドライバーを掛け合わせた手ぶら観光の実現」に向けた実証実験「エキナカ次世代手荷物配送」を開始しています。
新幹線や特急列車を使った「輸送」をJR東日本が担い、小回りの利くスタートアップ企業が「販売」と「配送」を請け負う。役割を切り分けることでコストを抑え、鉄道会社ならではの新たな荷物輸送サービスを実現していく。そのなかで、投資したスタートアップ企業の成長も狙っているものと見えます。
現時点では自宅配送を頼むには店頭での予約が必要、また小口が増えなければ配送コストを抑えづらいなど課題が残りますが、今後も産地・場所・線路を変えて定期的にやっていきながら、最終的には「トラックと同じような物流の一ジャンルにしたい」(阿久津マネージャー)と事業展開への前向きな姿勢を示しました。
文/写真:一橋正浩