撮り鉄、乗り鉄など鉄道の楽しみ方はバラエティに富んでいますが、鉄道好きが高じて自家用車を列車風に改造した方がいます。ベースとなっているのはいすゞのワゴン車「ファーゴ」。制作費10万円の手作りながら、車検も通る公認車です。商用車の構造要件という制約のなかで実物に近づけた「公道を走る北斗星」を取材しました。

北斗星廃止直前に製作

根室本線・池田駅に停車する「北斗星ファーゴ」

北斗星は上野と札幌を結んでいた寝台特急です。1988年3月13日に運行が開始され、本格的なディナーを提供する食堂車や、ゴージャスな雰囲気のロビーカー、個室寝台を連結し、「日本初の豪華寝台特急」と呼ばれました。北海道新幹線の開業や、車両の老朽化などにより、2015年3月13日をもって定期運行を終了。同年8月に臨時列車の運行も終了し、人々の記憶の中に残るだけとなりました。

連結器やスノープラウまで装着される細かさ

オーナーは北海道・池田町に在住する坂田 稔さん。2010年に古いハイエースをベースに、EF510 をイメージした「初代 北斗星」を完成。北海道から九州まで旅をし、走行距離52万㎞も走行しました。2代目となるファーゴは、北斗星が廃止された2015年に制作を開始。北海道で北斗星を牽引したディーゼル機関車DD51をイメージし、よりリアリティを追求しました。

すべてがD.I.Y 創意工夫でより本物らしく

茂辺地 北斗星広場で実物と対面(坂田さんが許可を受けて撮影)

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白い車体を北斗星と同じ国鉄青20号で塗装。関西ペイントの特注品で約2万円で調合してもらったそうです。「近所に迷惑を掛けたくない」とすべて刷毛で塗りました。DD51らしさを演出するため、プラバンでノーズを作成。ダミーのヘッドライトも取り付けられています。

方向幕やリアのテールマークは明かりが灯る本格的な作り

発泡スチロールの連結器や、サイドウィンドウを活かした方向幕、リアウィンドウを活かしたテールマーク、発泡ボード製のエンブレムなど、100円ショップやホームセンターで入手した材料が駆使されています。

ワゴン車内であることを忘れてしまう(坂田さん撮影)

スライドドアを開くと、食堂車「グランシャリオ」に迎えられました。ゴージャスに見えるテーブルランプやシャンデリアは100円ショップの商品を流用し、洋服掛けや灰皿は本物が使われるなど、それぞれがバランスよくまとまっています。

大きなリアウィンドを活かしたコンパートメント

後方にはBコンパートメントを設置。ベッドは長さ180cm、幅52cmで10系や20系とほぼ同じサイズを確保し、実際に寝ることができます。座面を10cm低くして、上段寝台に頭が当たらないように工夫しています。カーテンは坂田さん自らミシンで縫い、曲がるカーテンレールを装着。ワゴン車の中とは思えない旅情を放っています。

幾度も廃車の危機を乗り越えて走り続ける

池田ワイン城を背に。北斗星ファーゴは家族の一員

停車しているだけで人が集まる北斗星ファーゴですが、ベース車両が平成7年製と古く、部品が入手しにくいため、一時は廃車を考えたこともあるそうです。しかしコツコツと仕上げた思い入れや、何よりも北斗星ファーゴを愛するご家族の気持ちに支えられて、走り続けていくことを決意しました。「今後はもっとノーズを改良したい」と、坂田さんの夢はまだまだ広がっています。

文/写真:吉田匡和