大河ドラマとタイアップした明知鉄道の「麒麟がくる」ラッピング車。ドラマは終了しますが、車両は2021年2月中旬まで継続運行中です。 写真提供:明知鉄道

ついに東京都や大阪府など11都府県に「緊急事態宣言」が再発出。不要不急の外出を控え、人の流れを抑制するのが目的であるなら、交通ジャーナリストの末席を汚す身として、どうしても営業キャンペーンなどのニュースは書きにくくなります。そんな時にも楽しめる鉄道趣味が「読み鉄」。皆さん、「鉄道チャンネル」に掲載されるさまざまな情報を見て「宣言が解除されたら、あの列車に乗ってみよう」と思いを馳せましょう。

今回は、そんなステイホームの方々に、鉄道の新しい楽しみ方として「鉄道ロケツーリズム」をご案内。映画やテレビドラマで知る鉄道、そしてレールの旅で訪れるロケ地の魅力を取り上げましょう。

「あまちゃん」で三陸鉄道ブーム

改めてロケツーリズムとは? 自治体や観光関係団体が映画やテレビドラマのロケを誘致して、上映(放送)後に舞台の地域を情報発信して観光客を呼び込む誘致策です。なじみ深いのはテレビの大河ドラマ。2020年の「麒麟がくる」はコロナの影響で年をまたいで放映中ですが、京都市や滋賀、岐阜の両県などに明智光秀の足跡が残ります。

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毎回、放送の終わりにゆかりの地が紹介され、「○○鉄道××駅から10分」などとテロップが流れるので、歴史ファンや主演の長谷川博己さんのファンなら行ってみたいと思うでしょう。鉄道事業者では岐阜県の第三セクター・明知鉄道が、麒麟がくるのラッピング車を運行しています。

鉄道そのものが旅の目的になることもあります。2013年の朝の連続テレビ小説「あまちゃん」には、第三セクターの三陸鉄道が北三陸鉄道として登場。ブームを呼んで、東日本大震災からの観光復興に貢献したのは記憶に残るところです。

ロケツーリズム最大の成功例は「冬ソナ」。テレビドラマ「冬のソナタ」を見て、ヨンさま(イケメン俳優のぺ・ヨンジュンさん)目当てに韓国を訪れた日本人は、ピークの2004年には約18万人に上ったとも。経済効果は日韓あわせて2000億円以上と試算されました。

ベンチャー企業が旗振り役

日本でロケツーリズムの旗を振るのは、スタートアップ企業の地域活性プラニングです。リクルートグループ出身の藤崎慎一氏が2003年に起業。話題の映画やドラマとロケ地を紹介する雑誌「ロケーションジャパン」を発行、ロケ誘致の観光振興で成果を挙げた自治体を顕彰する、「ロケーションジャパン大賞」も毎年実施します。

ここから地域活性プラニングなどに取材した、鉄道と映画やテレビドラマをめぐる話題あれこれ。諸説あるようですが、1895年にフランスのパリで上映された世界最初の映画には、駅に到着するSL列車のシーンがあったそう。街の入り口に当たる駅は、同時に物語の入り口でもあったわけです。

以前、講演を聞いたある鉄道写真家の方は、「撮影目的地ではレンタカーでも、そこまでは必ず列車で行く」と話していました。「列車なら映画の主役になった気がします」がその理由。含蓄ある言葉ですね。

「何もなくても来てくれる」

ちょっと箸休めして、一般の観光とロケツーリズムの違いを考えましょう。普通の観光は美しい景観が見られるとか、温泉が湧いているとか、歴史的神社仏閣があるとか、何かないとお客さんは来ません。有名スポットのある観光地は良くても、「うちの街には何にもない」ところには誰も来ません。ところが、ロケツーリズムは映画やテレビに登場すれば、名所旧跡でなくてもお客さんが来ます。

某テレビ局で頻繁に放送される鉄道旅・バス旅番組、さらには鉄道チャンネルでも案内される鉄道動画は、立派な鉄道ロケツーリズムだと私には思えます。

鉄道ロケツーリズム王国・北海道

十勝平野を行くJR北海道の特急「おおぞら」。新得町の大カーブは撮影の名所です。 写真:やえざくら / PIXTA

本章は「鉄道ロケツーズム」の実地編。単独の鉄道で、駅や列車での撮影本数が最も多いのは、SLが走ることで明治から昭和までのドラマに欠かせない静岡県の大井川鐵道かも。そして、沿線の旅情ポイントが高いのはおそらく北海道でしょう。北の大地でロケした「なつぞら」「北の国から」「Little DJ 小さな恋の物語」の3作品を取り上げます。

「なつぞら」は2019年朝の連続テレビ小説。物語の舞台は何回か変わりましたが、北海道編は十勝平野でロケが行われました。青い空と白い雲の下で主人公がキャンバスに絵を描く冒頭シーンは視聴者の心をわしづかみにし、多くの観光客を呼び寄せました。

十勝平野は関東平野、石狩平野に続く日本の平野で3番目の広さ。中心駅は根室線帯広で、かつては広尾線と士幌線という支線が東西に延びていましたが、両線は国鉄改革で特定地方交通線に指定され廃止されました。

帯広から延びていた広尾線には幸福駅があり、鉄道が廃止された今も観光・撮影スポットとしてにぎわいます。 写真:CRENTEAR / PIXTA

札幌から帯広へは、一昔前は函館線滝川が起点の根室線が結んでいましたが、今は南千歳から新得に抜ける石勝線がメインルートです。新得から帯広まで、車窓には〝なつぞら仕様〟の大地が広がり、物語の世界を旅する気分に浸れます。

「北の国から」を「富良野・美瑛ノロッコ号」が行く

自然体感列車「富良野・美瑛ノロッコ号」。JR北海道が1998年から富良野線旭川・美瑛―富良野間に季節・臨時列車として運行します。 写真:44kawa / PIXTA

2本目の「北の国から」は、1982年から2002年まで続いた倉本聰さんの名作ドラマ。ドラマ終了から20年近く経過して、今はさだまさしさんが歌う、ハミングだけの主題歌が有名かもしれません。舞台は〝北海道のへそ・富良野〟で、富良野駅は帯広と並ぶ根室線の拠点駅。旭川に向かう富良野線の分岐駅です。列車の走行シーンは第1話に登場します。

JR北海道は富良野エリアを観光路線と位置付けて、夏場を中心にリゾート特急「フラノラベンダーエクスプレス」や、自然体感列車「富良野・美瑛ノロッコ号」を運転。ふらの観光協会は、八幡丘や五郎の石の家といった北の国からのロケ地をルート化して、観光客を呼び込みます。

鉄道3者が競う函館でロケされたヒューマンドラマ

函館市電の観光車両「函館ハイカラ號」。コロナ禍で2020年は運行中止。運転再開が待たれます。 写真:c6210 / PIXTA

最後の「Little DJ 小さな恋の物語」は、函館で撮影したヒューマンドラマ。野球とラジオが大好きな少年・太郎は入院中の病院で院内放送のDJを担当することに。そんな時、美しい少女と出会う……。

地域活性プラニングの資料では、函館でロケした映画は70本もあるそう。函館山からの夜景や朝市、赤レンガ倉庫と函館には絵になる光景が多くあります。

函館は鉄道の街。北海道新幹線は街をかすめるだけですが、在来線のJR函館線と、新幹線開業でJRから経営分離された江差線を引き継いだ第三セクターの道南いさりび鉄道、そして函館市電と個性豊かな鉄軌道が街の風景を形作ります。

大河ドラマ次作には鉄道が登場するかも

渋沢栄一ゆかりのこの駅は? 特産のネギは日本一の収量を誇ります。 写真:ally / PIXTA

最後に「麒麟がくる」に続き、2021年2月14日から始まる新しい大河ドラマ「青天を衝け」を鉄道チャンネルの視点で展望。主人公は新しい1万円札に肖像画が描かれる日本資本主義の父・渋沢栄一です。渋沢は関東の東京急行電鉄、関西の京阪電気鉄道など多くの鉄道の創設に関わったことで知られます。

ドラマに鉄道が登場するかどうかは不明ですが、渋沢は東京駅赤レンガ駅舎創建の発起人としても知られます。ということで、最後は鉄道チャンネルの人気コーナー・鉄道クイズの番外編。東京駅のように見えるこの駅舎、渋沢ゆかりの地にありますが、一体何駅でしょうか。回答は載せないので、皆さん調べてみて下さいね。

文:上里夏生