日本最古の歴史書―――古事記。

この最初の一文に登場するアメノミナカヌシから、五穀の起源の物語までを掘り下げていくと、万物は食の命を通してひとつにつながっている、そして命と命は生かし生かされ、ひとつにつながり循環している―――。

そんな大きなテーマに挑む、古事記神話篇の壮大な物語を演奏と舞踊で綴る「一粒萬倍」。

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―――9月25日、東京 サントリーホール で行われた交響詩「古事記・一粒萬倍 A SEED 五穀豊穣の物語」は、日本舞踊ファンをはじめ、食育を積極展開する学校の子どもたち、オーケストラや歌舞伎の舞台を待ち望んでいた人たちで席が埋め尽くされ、多様なオーディエンスと舞台がいっしょになり、拍手喝采で終演した。

交響詩「古事記・一粒萬倍 A SEED 五穀豊穣の物語」は、古事記を題材にした五穀豊穣の物語で、古典舞踊と現代舞踊、東洋の楽器と西洋の楽器など、流派やジャンルを超えた共演・融合を実現した、注目の舞台。

総勢51名からなるオーケストラ編成のライブ演奏にのせて、長塚京三の語り、藤間紫・藤間翔などの豪華な出演者が舞台を彩る。

「食とは、他の命をいただくこと。わたしたちの命は、他の命の犠牲で生かされている。そして食の命を通して万物とひとつにつながり、循環している。

自分の力だけで生きているのではなく、自然という大きな力のなかで生かされている。こうしたメッセージを、わたしたちの遠い祖先は神話という物語にして伝えてくれています」

―――そんなメッセージを、圧倒的パフォーマンスと壮大なストーリーでつづる2時間。

実際に観劇し、第1部・第2部あるうち、第1部から、想いあふれて涙腺が緩むシーンが何度も……。次回「一粒萬倍 A SEED〜愛媛の女神の物語」が、この「一粒萬倍」をずっと手がけてきた演出家で一粒萬倍制作委員会主宰の松浦靖氏のふるさと、愛媛で10月に公演。

いまこそぜひ、「食の命を通して万物とひとつにつながり、循環している」その瞬間を、体感してみて。

藤間紫 藤間翔「食への感謝の気持ちを」

――― 東京公演の舞台を終えて感想をお聞かせください。

藤間紫:サントリーホールのような舞台で日本舞踊をすることは初めてで、不安もあったのですが、始まってしまえばあっという間でほっと一安心しています。

――― 通常の日本舞踊とは少し異なる舞台だったかと思いますが、どのような思いで舞台に臨みましたか?

藤間紫:わたしたちの流派のお弟子さんたちも出演して、ジャンルを超えた新しい舞台に、いっしょに立つことができてうれしいです。

藤間翔:これまでイザナギの役で出演したことはあったのですが、今回は初めてスサノオの役で出演しました。スサノオはこれまではダンサーの方がされていた役で、荒々しい踊りです。衣装も重かったので、もう汗だくです。でも、すてきな公演になりました。

藤間紫:衣装もすごく凝っていて、たとえばスサノオの髪にはラメが混ざっているんですよ。演出家の松浦さんをはじめ、みんなで話し合って作りあげた舞台です。

――― お二人の息もぴったりでした。ご兄妹でのご出演ということで、お二人で相談したりしたのでしょうか?

藤間紫:とくに相談や打ち合わせなどはないですね。小さいころからいっしょに踊ってきているので。

藤間翔:お互い目を見て…そのへんはあうんの呼吸ですね。

――― 今回の舞台では紫さんが翔さんに殺されてしまうシーンがありましたが、このようなシーンは初めてでしたか?

藤間翔:初めてではないでしょうか(笑)

藤間紫:恋人同士の役はよくありますね。イザナギ、イザナミの夫婦役をやったこともあります。

――― 「一粒萬倍」という作品についてどういう風にお考えですか?

藤間紫:今回わたしが演じたオオゲツヒメは食の神様です。舞台を通じて、わかりやすい形で古事記を知ってもらい、食への感謝の気持ちを持ってもらえたらうれしいです。

――― 今回の舞台は、日本文化や古典舞踊を伝えるという役目もあったと思いますが、今後の活動についてどのようにお考えですか?

藤間紫:古典舞踊は敷居が高いと感じている方に知っていただくためにも、チャレンジしていきたいです。こういう機会があればまた一緒にやりたいよね。

藤間翔:さまざまな方とコラボレーションすることで、古典舞踊の素晴らしさやコラボレーションならではの良さも知ってもらえたらと思っています。

演出家 松浦靖「地方で綿々と受け継がれている伝統とコラボへ」

――― 長塚京三さんを語りとして起用した理由を教えてください。

長塚さんとは以前ご縁があって、仕事でごいっしょしたことがありました。今回、稗田阿礼の語りを舞台に取り入れると決めて、長塚さんの実直な語りがふさわしいと思い、オファーをしました。

――― 10月に愛媛で上演される「一粒萬倍」について教えてください。

愛媛はわたしの地元です。そこで受け継がれている八つ鹿や猿田彦を伝統を守りつつ作品の中に組み込むことで、色々な人に知ってもらいたいと考えています。今後「一粒萬倍」は、地方で綿々と受け継がれている伝統とコラボレーションすることで、地方の魅力を再発見するような取り組みにしていきたいです。

――― 「一粒萬倍」はどのようにして生まれたのでしょうか?

「一粒萬倍」は7年前に生まれました。そのときは公民館での小規模な上演でしたが、そのときに世界中でやってみたいと思い、活動を続けています。映像ディレクターとして活動してきた経験を活かし、言語を通り越してビジュアルで伝えるような舞台にできればと思っています。

――― 今後はどのような方たちに見てもらいたいですか?

若い世代に見てもらいたいです。今回の舞台について勝浦中学校で講演をしたのですが、「八百万の神様」や「古事記」を知っている生徒さんが少なかったんですね。子どもたちが学ぶきっかけになればと思っています。

◆一粒萬倍 A SEED
https://ichiryumanbai.com/

(一般社団法人一粒萬倍制作委員会)