小田急、東急、東京メトロ、JR東日本が保線データで相互直通!? 線路コンサルと鉄道4社に土木学会賞【コラム】

鉄道が相互直通運転すると、乗り換えが不要になって便利になる……のは当たり前ですが、もう一つ、列車が相直する路線で情報の相直を始めた鉄道会社もあります。
〝相直する情報〟とは線路データ。「○○駅付近はそろそろ保線作業が必要」といった情報、通常はそれぞれの鉄道会社が検査・収集・管理しますが、関東圏では線路技術コンサルタントの専門企業が複数鉄道会社のデータを集中管理する取り組みが始まって成果を挙げます。
プロジェクト名は「線路データのプラットフォーム構築によるメンテナンス連携」。線路コンサルの日本線路技術(NSG)と、小田急電鉄、東急電鉄、東京メトロ、JR東日本の鉄道4社は2025年6月、効率的メンテナンスで2024年度の土木学会賞技術賞を受賞しました。
専用車両から営業車両にバトンタッチ
2024年6月、JR東海が黄色い新幹線こと「ドクターイエロー」の引退を発表して話題を呼びました。
ドクターイエローは、新幹線電気軌道総合試験車(検測車)の愛称名。新幹線の線路・電気設備などを検査する専用車両で、注目したいのは引退後の検測方法です。
JR東海はドクターイエローのような専用車両でなく、営業用車両に検測機器を取り付けて検査します。営業車両による線路や電気設備のモニタリングです。
ドクターイエローの役目が営業車両で代行できるのは、ひとえにモニタリング技術の進化です。
相直路線でも線路状態をチェック
ドクターイエローは新幹線ですが、在来線も基本は同じ。車両に取り付けたセンサーやカメラで線路をモニタリング。撮影した映像などを分析して保線の必要性を判断するのがるのが新しいメンテナンス方法です。

営業車両によるモニタリングを自社だけでなく相直路線に拡大。例えば、JRの車両が相直するメトロや小田急の線路もモニタリングします。収集データはそれぞれの会社でなく、専門企業・NSGのプラットフォーム(情報基盤)に蓄積・分析・管理します。
やや専門的になりますが、鉄道業界の呼び名は「プローブ車両技術」。プローブは「調べる」や「測定する」を表します。
プローブ車両技術を支えるのは、映像や収集データの分析技術。小田急も、東急も、メトロも、JRも、データを専門企業・NSGに集約して効率的メンテナンスを実現したのが受賞の決め手になりました。

CBMの精度向上でTBMを置き換える
もう少し、新しい保線にお付き合いを。鉄道業界で進むのが「TBMからCBMへのシフト」。TBMはTime Based Maintenanceの頭文字、「時間基準保全」と言い表されます。世の中を代表するTBMはクルマの車検。不具合があってもなくても、2年に一度はエンジンやブレーキをチェックします。
対するCBMは、Condition Based Maintenanceで「状態基準保全」。常日頃からしっかりモニタリングして、不具合を早期に見つけだして補修。トラブルの芽をつみ取ります。
再度の例え話で恐縮ですが、人間の健康管理で考えましょう。TBMは年1回の健康診断(人間ドック)、CBMは血圧計や体温計による日常的な健康チェックです。
人間は定期健診と、日常の健康チェックの両方が必要ですが、鉄道は「CBMの精度を向上させてTBMを置き換える」方法で業務効率化が進みます。
関東一都六県にネットワーク拡大
小田急、東急、メトロ、JR東日本の路線を思い浮かべてください。路線的に完全に独立しているのはメトロ銀座線と丸ノ内線くらいで、他線区はおおむねどこかでつながっています。
JR常磐線の車両(各停です)は、メトロ千代田線を経由して小田急線に相直。東急はメトロ副都心線、半蔵門線と相直します。JRの車両は自社線の常磐線はもちろん、メトロ線、小田急線でも線路データをNSGのサーバーに送信・蓄積します
鉄道4社はコンソーシアム(共同事業体)を組んで、線路ビッグデータを総合的に利活用します。土木学会は人材不足への対応が求められる時代にあって、効率的な保線メンテナンスを実践したNSGと鉄道4社の先進性を高く評価しました。
今回は2023年6月のスタート時点でのNSGと鉄道4社の表彰でしたが、線路データプラットフォームには2024年7月、相模鉄道と東武鉄道も参加。東武、相鉄とも全線区での採用で、データネットワークは関東一都六県に広がっています。

ラストに、新しい線路メンテナンスで中心の役割を受け持ったNSGとは。設立は国鉄時代の1979年で、創業時の日本線路技術コンサルタントから1986年には現社名に。本社は東京都足立区で2017年、JR東日本グループに加わりました。
東武竹ノ塚駅とJR新潟駅の高架化
2024年度土木学会賞、鉄道プロジェクトではほかに順不同で「デジタルツインを活用した相鉄・東急直通線新横浜駅」、「大阪・関西万博に向けた埋め立て地盤での開削トンネル」、「御茶ノ水駅改良」、「東武伊勢崎線竹ノ塚駅付近の鉄道高架化」、「北陸新幹線(金沢~敦賀間)建設」、「新潟駅付近連続立体交差化」の6件が受賞しました。
東武竹ノ塚駅付近約1.7キロの連続立体交差事業は22年3月までに複々線が高架に上がり、高架下にはアーケード商店街が誕生しました。事業主体は通常の東京都に代わり、初めての特別区(足立区)。大型車通行を制限して高架橋の高さを抑える「ミニ連立」でコストを抑え、工期を短縮しました。
JR新潟駅付近連立は、同駅中心に東西約2.5キロを高架に。2006年着工、2022年鉄道高架化、2024年高架下商業施設開業で鉄道主体工事を終え、約18年間の大型プロジェクトを完了させました。

記事:上里夏生