品川駅の「TTG-SENSE SHELF」デモ店舗全景。店舗は中央改札を入ってすぐ。簡単なパーテーションで仕切られるだけで、上部には電車のトレインビジョンを思わせる3面のモニターで商品PRします(筆者撮影)

JR東日本から生まれた、ニュービジネス「TTG-SENSE(ティーティージー・センス)」が大きな進化を遂げ、2024年2月1日からJR品川駅改札内のイベントスペースでデモンストレーションが始まりました。

進化形の無人店舗を開発したのは、JR東日本グループのスタートアップ(ベンチャー)企業「TOUCH TO GO(タッチ・トゥ・ゴー=TTG)」。品川駅でお披露目するのは「TTG-SENSE SHELF」で、近未来の駅を実感できる無人販売コーナーです。駅デモは2月6日までの期間限定、興味を持った方は品川駅へGO!

アプリ不要の無人店舗

TTGは、新規ビジネス育成のJR東日本スタートアップと、システムコンサルティングを手掛けるサインポストの合弁会社。AI(人工知能)を活用した、自社開発の無人決済システムのTTGーSENSEは、カメラやセンサーで利用客の購入商品をチェック。無人レジで決済(支払い)する仕組みです。

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これまでの提供サービスは、無人の小型コンビニをイメージした「TTG-SENSE MICRO」など。新登場のSHELF(商品棚)は、幅90センチの商品棚1台から出店可能。最小2平方メートルの極小スペースに、無人販売コーナーを開設できます。

支払いに使えるのは、Suicaなどの交通系ICカードとクレジットカード。一般的な無人決済は、スマートフォンにアプリをダウンロードして支払うスタイルですが、TTGーSENSEはアプリ不要。スマホを使い慣れないシニアや外国人旅行者への、ハードルを下げたのが利用者にとってのメリットです。

「お買い上げ、ありがとうございます」

品川駅のデモ店舗では、実際に食品や衣料品を購入できます。早速、ポテトチップと靴下を買ってみましょう。

モデルによる商品購入の様子。簡単な画面操作とカード読み取りで決済は完了します。デモ店舗では菓子類のカルビーとグレープストーン、靴下のタビオの3社が商品販売します

棚から商品を手に取ると、「商品を手に取っていただき、ありがとうございます」のアナウンスが流れます。もちろん自動音声。無人を感じさせない満点のサービスとともに、防犯面で、いわゆる万引き行為に対する抑止効果を狙います。

商品が決まったらレジで、クレカかICカードを読み込ませて代金を支払えば購入完了。この時も、「お買い上げいただき、ありがとうございます」の音声が流れます。

コロナ禍での非接触志向や人手不足をきっかけに、市中のスーパーでは無人レジがおなじみになりました。TTGはセンサーで購入商品をチェックするので、バーコードスキャンは不要。購入はスーパーより簡単です。

商品棚設置からコールセンターまで

TTG-SENSEは、販売者側にも多くのメリットがあります。売れ筋商品のトレンドがつかめるのは当然として、手に取ったけれど棚に戻した商品もカウントするので、より正確なマーケティングを実践できます。

TTGが提供するのは商品販売だけにあらず。商品棚設置や陳列、品出しといったバックヤード業務も受け持ちます。無人だとサービス面に不安を感じる売り手もいるでしょうが、オプションでコールセンターのサービスもセットできるので、来店客に対面販売に負けない満足度を提供します。

まとめ買いにも対応

品川駅のデモ店舗では、TTGの阿久津智紀社長が自らセールスポイントを説明しました。同社長が開発時に意識したのは、「進化形の自動販売機」。

一般的な自販機と、TTG-SENSEの違い。24時間無人購入できるのは同じでも、自販機でみやげ品など同じ商品を複数個購入するのは何となく面倒。その点、無人店舗ならまとめ買いもラクラクです。

今後は鉄道駅はもちろん、祭りなどのイベントでの仮設店舗、市中に普及する無人販売などにTTG-SENSE SHELFを展開します。バス・トラックの運転手から建設業界まで、世は押しなべて人手不足。無人店舗は、解決策の一つになります。

全国140店舗がシステム採用

阿久津社長に聞いたTTGの戦略を紹介します。会社設立は2018年で、1号店が山手・京浜東北線高輪ゲートウェイ駅に誕生したのは2020年3月。JR東日本が次世代型鉄道駅を志向する中で、無人店舗も実践策の一つでした。

当初目標は「4年間で100店舗程度」でしたが、実際にはそれを上回るペースで普及。現在、およそ140店舗にネットワークを広げています。

その主な理由。これまで店舗開設が難しかった、極小スペースへの出店を可能にしたほか、ファミリーマートや東急ストアといった有力パートナーとタッグを組んだのも見逃せない点です。

TTGは、POSレジやカート型セルフレジといった店舗近代化を主導する東芝テックと業務提携。2021年5月に全国展開の体制を整え、広島市の温浴施設(温泉、サウナ)がTTGの非接触入館システムを採用するなど、導入施設が広がります。

もう一つ、東芝テックとの協業では展示・商談会に積極出展。近々では2024年3月12~15日に東京都江東区の東京ビッグサイトで開かれる、「リテールテックJAPAN」への参加が決まっています。

今後1年間で100店舗展開

JR東日本グループのTTGは社会からの信頼度も高く、TTGもこうしたメリットを最大限活用します。TTG-SENSE SHELFは今後1年間で、100店舗への展開が目標です。

最後に、JR東日本はTTGをどう見るのか。「JR東日本グループでTTGのように新規ビジネスで鉄道のエリア外に進出するのは、まだ珍しい存在。その点でも期待されているようです」と阿久津社長は話してくれました。

記事:上里夏生