「熊本デスティネーションキャンペーン・プレキャンペーン(熊本プレDC)」の旅は、阿蘇から人吉へ。令和2年7月豪雨(熊本豪雨)の影響を大きく受けた人吉市や球磨川周辺エリアを巡りました。甚大な災害が発生してからもうすぐ5年、現在の「人吉駅」や、浸水被害を乗り越え復旧した「青井阿蘇神社」、焼酎蔵の「大和一酒造元」を取材。球磨川遊覧や、少し足を伸ばして鍾乳洞「球泉洞」も体験しました。ご当地グルメや温泉情報とともにお届けします。

【前回】
【阿蘇編】熊本・阿蘇・人吉を巡って「熊本プレDC」を体験! 阿蘇神社や草千里ヶ浜、白川水源、名物の田楽料理やSNSで人気のカフェもチェック
https://tetsudo-ch.com/12999329.html

豪雨災害からもうすぐ5年となる現在の人吉駅を見学

「人吉駅」はJR九州とくま川鉄道(人吉温泉駅)の共同使用駅ですが、熊本豪雨の影響により、現在はいずれの路線も運転を見合わせています。くま川鉄道は2026年に全線で運転再開の見込み、JR肥薩線は2033年頃の運転再開を目標としています。

【参考】2033年度目標に上下分離方式で鉄道復活 「JR肥薩線検討会議」で復旧方針決まる(熊本県人吉市など)
https://tetsudo-ch.com/12999147.html

駅前には人吉城をイメージしたからくり時計や、「SL人吉」として活躍し、2024年に惜しまれつつ引退した「ハチロク」こと「58654号機」を展示。線路の奥には国内唯一の現役石造機関庫があり、遠目に眺めることができます。水戸岡鋭治氏が監修した「人吉鉄道ミュージアム MOZOCAステーション868」も隣接していて、見どころが満載です!

運転見合わせにともない、JR肥薩線はタクシーによる代行輸送、くま川鉄道は代替バスを運行中
からくり時計は1時間に1回、人吉城のお殿様が城下見物をする物語が展開されるそう
2024年11月から展示されている「SL人吉」。黒光りした車体は今にも走り出しそう
今回は時間の関係で見学できなかった「人吉鉄道ミュージアム MOZOCAステーション868」。手前の線路はミニトレイン用で、館内から人吉駅まで約140mを走ります。乗りたかった!

国宝の「青井阿蘇神社」や隈研吾設計の「国宝記念館」へ

人吉駅近くの見どころと言えば、平安時代の806年創建、1200年を超える歴史をもつ「青井阿蘇神社」。その名から想像できる通り、阿蘇神社の三神を祭神としている、人吉球磨地方の総鎮守で、2008年には本殿・廊・幣殿・拝殿・楼門が国宝に指定されています。

熊本豪雨で一帯は、3.9mに達する浸水があり、青井阿蘇神社では拝殿の床上浸水や太鼓橋(禊橋)の破損などの被害があったそう。現在は復旧しています
鳥居の奥に見える茅葺屋根の楼門は高さ12m。軒下の四隅に取り付けられた白い鬼の彫刻が特徴
本殿前にある廊の柱に彫られた左右一対の龍をはじめとする、彫刻の数々も見どころ
お守りはバラエティ豊富。写真の「願袋守」は漢字一文字(勝・健・旅・幸・叶)が刺繍されていてお土産にぴったり。爆買いしている記者の姿も!

境内には、高輪ゲートウェイ駅などを手掛けた隈研吾氏が設計。2023年にオープンした「青井の杜国宝記念館」もあり、1階と2階のギャラリーでは神輿や刀剣をはじめとする宝物類などを展示しています。

「青井の杜国宝記念館」の外観は、杉材のルーバーで茅葺きを表現した屋根が特徴
ギャラリーは木造2階建て。2階の窓から社殿群が見える計算された設計が印象的でした

「大和一酒造元」の焼酎蔵ガイドツアーに参加

続いて向かったのは、球磨焼酎の蔵元「大和一酒造元」。3代目である代表の下田文仁さんによる案内のもと「焼酎蔵ガイドツアー」に参加しました。案内されたのは、懐かしい教室のような空間。元教師だという下田さんから、球磨焼酎の歴史や知識、そして熊本豪雨時の生々しいエピソードを聴きました。

大事な原酒が流され、残った原酒にも泥水が混じるなど甚大な被害を受け、一時は廃業も考えていたという下田さんですが、全国各地から届いた義援金や協力などがあり「もう1回この場所で頑張ってみよう」と決意。古くから住み着いている「蔵付き酵母」もほとんど流されてしまったと考えられるなか「新しい酵母菌が住み着いたのでは」と考え、球磨川が運んできた天然酵母と地元の玄米をもとに、昔ながらの製法で新しい焼酎「球磨川」を作り上げたのだそうです。

チャイムの音とともにツアーがスタート。「授業」を受けてから焼酎蔵を見学します
熊本豪雨に見舞われた後、周辺の田畑や家の中から一斉に咲いたという菜の花。再建のめどが立たず絶望的な状況のなか「球磨川が運んできた恵みかもしれない」と感じ、ホッとしたそう。取材後、大和一酒造元の駐車場から見える菜の花を見て、何とも言えない気持ちになりました
いよいよ蔵の内部へ。豪雨災害時、原酒の大半に泥が入ってしまったことから教訓を得て、満タンではなく7割程度しか入れないことで、浸水時に浮かぶようにしているそう
「教室」に戻り、「課外授業」として飲み比べ。温泉水を使った「温泉焼酎 夢」や牛乳焼酎の「牧場の夢」、前述の「球磨川」、明治の球磨焼酎を再現した「復古酒 明治波濤歌」は「ガラチョク」と呼ばれる酒器で燗つけしていただきました

地焼きの炭火焼きで外はパリッ、中はふんわりのうなぎを堪能

昼食は、1918年創業の老舗「松田うなぎ屋」へ。関西風の地焼き(蒸さずに焼く)で外はパリッと、中はふんわりとした食感のうなぎが名物です。「地焼きの食感をダイレクトに味わうなら蒲焼きや白焼きがおすすめ」とのこと。また、手打ちそばも創業時から提供しているそうで、うなぎとのセットメニューも人気です。

うなぎは注文を受けてからじっくりと炭火で焼き上げます。甘め香ばしい香りが堪らない!
一匹分のうなぎを使用した「うなぎ重箱(大)」。創業時から守ってきたタレは豪雨災害で失ってしまったそうですが、十分に美味しかったです

球磨川遊覧船「梅花の渡し」を体験

人吉観光と言えば「球磨川くだり」。人吉城址近くのHASSENBAからスタートし、温泉町着船場約までの約4.5kmをくだります。春から秋にかけては水しぶきを浴びながらゴムボートで川をくだるラフティングも人気です。

今回は、人吉城址の石垣を水上から眺めることができる「梅花の渡し」を体験しました。

2021年にオープンした観光複合施設「HASSENBA」。内部のミーティングルームや、建物手前の赤い船は「あそぼーい!」と同じ水戸岡鋭治氏がデザイン
船頭の解説を聴き、景色と川鵜(かわう)などの野鳥を見ながら約30分の遊覧を楽しみました。暖かな日差しとゆらゆらとした船の動きで少しウトウト……してしまったのは筆者だけではないようで、泣いている赤ちゃんが乗ると高確率で眠ってしまうのだそう!
現在は石垣だけが残る人吉城跡。取材時はちょうど桜が見ごろでした!

幻想的な風景が広がる鍾乳洞「球泉洞」へ

人吉駅周辺から球磨村まで足を伸ばし、最後に訪れたのは大鍾乳洞の「球泉洞」。九州本土最大級の規模を誇り、全長約5,000mのうち、約1,000mを一般公開しています。約3億年前までは海中にあった石灰岩層が隆起してできたと言われていて、長い年月を経て形成された鍾乳洞は現在も成長を続け、日々変化しているそうです。

この日は暑かったのですが、入口に立つとひんやりとした空気を感じ、思わず上着を取りに戻ってしまいました。年間を通して室温は安定していて、16℃程度とのこと
最初は涼しいと思っていた鍾乳洞内ですが、階段を上り下りしながら歩いているとだんだん暑くなってきました。幻想的な風景が広がっていて、見応えがあります
今回は約30分で周回できる「一般コース」に参加しましたが、ヘルメット着用でよりディープな体験ができる「探検コース」も設定されています
森林鉄道で1916年の開通から1963年までの47年間、木材を運び続けて引退した「C型機関車460-1」。球泉洞の向かいにある博物館「森林館(エジソンミュージアム)」で展示されていましたが、現在休館中のため外に展示しているとのこと

人吉に行ったら温泉に入るべし!

人吉と言えば、球磨川沿いに公衆浴場や温泉旅館が点在する温泉郷で、創業100年近い温泉スポットが数多く存在します。今回宿泊した「芳野旅館」もそのひとつ。大浴場や貸切露天風呂があり、源泉掛け流し100%天然温泉。泉質は弱アルカリ炭酸泉などで、湯温はやや高め。無色透明でやわらかい肌触りで、「美人の湯」とも呼ばれています。ゆっくりと入浴して、旅の疲れを癒すことができました。

「芳野旅館」ではラッキーなことに、半露天風呂付きの部屋に宿泊できました。入浴後は肌がしっとりとして、同行メンバーと「いいお湯だったね」と語り合いました(笑)
「芳野旅館」の朝食では温泉水を使った湯豆腐が出され、朝から贅沢な気持ちに
「大和一酒造元」には、足湯ならぬ「お手湯」がありました

全5回に分けて熊本県の観光スポットやグルメ、観光列車などをお届けしてきましたが、今回紹介できたのは、熊本の魅力のごく一部に過ぎません。9月末まで開催の「熊本デスティネーションキャンペーン・プレキャンペーン」(熊本プレDC)に合わせて、熊本周遊に便利なきっぷも販売中のこの機会に、熊本旅行を計画してみてはいかがでしょうか?

文/写真:斎藤若菜

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