シュッシュッシュッというブラシの音と先輩・後輩の他愛ない会話、社長や幹部陣の優しい視線……。

銀座線 田原町駅―――。1919(大正8)年創業の靴クリーム・靴用品メーカー、コロンブスの恒例行事「靴磨き入社式」が、ことしも行われた。

ことし、この老舗メーカーに入社する新人は9人。営業や海外、開発・製造など、各部門に配属が決まった9人は、まず9時から始まる2018年度入社式に臨む。

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「おはようございます」と現れた服部達人代表取締役社長に一礼し、入社式が始まる。新人9人はまだ緊張しているようす。

1日に2度あるコロンブスの入社式

服部社長の訓示のあと、採用辞令が伝えられ、社員バッチなどを手にすると、やや表情もやわらぐ……が、このあとのコロンブスならではの入社式が待ち構えているとあって、やっぱり緊張気味。

彼らが次に臨むのは「第46回 靴みがき入社式」。コロンブスのブラシやクリームが整然と並ぶフロアで、彼らを待ち構えているのは、先輩社員たち。

新人たちは、コロンブスのシューシャイニストらによる靴磨きの基本レクチャーを受けて、いよいよ先輩と向かい合う。

握手して磨いて対話して体感して

この靴磨き入社式は、まず先輩社員が新人の靴を磨く。慣れた手付きで会話を交えながら、新人たちの緊張もとけてきたところで、こんどは新人が先輩社員の靴を磨く……という流れ。

その前に、まず握手。「よろしくお願いします」。この握手を交わすときに、やっと新人たちに笑顔がこぼれる。

先輩社員たちは、遠慮がちに脚を出す新人たちの緊張をやわげるように、他愛ない会話から入る。出身地、趣味、得意技、スポーツ、といった話を交えながら、靴磨きを伝授していく。

新人たちは、自分の足元にしゃがみ込み、ブラッシング、クリームと休む間もなく手を動かす先輩の姿に、見入る。「あっ、なんですか? すみません、見入っちゃって」と、なにかをたずねられているのに、気づかない新人も。

「日本らしさ」を求めて入社

香川県出身、営業部門に就く芳田捷さんは「緊張したけど、先輩たちと向き合っていよいよ始まるんだと実感した」とホッとしたようす。

「大学時代、ニュージーランドに留学してから、自分の母国である日本の、日本らしさってなんだろうって考え続けてきた。コロンブスには、その日本らしさや日本人が持つ気風があると感じて入社した。この靴磨き入社式も、そんな気持ちになれる行事のひとつで、うれしい」(芳田さん)

ことし、46回めをむかえる靴磨き入社式。緊張する新人と、いっしょに走る先輩たちの会話や手先を見つめていた服部社長と幹部人は、新人の磨き方に「80点」という総評をつけた。

「あとの20点は、自分たちで得ていくもの。まさに、伸びしろ」

小さな輝きを大切に

来年創業100周年をむかえるコロンブス。半世紀続く「靴磨き入社式」の傍らには、ことしの提言としてこんなメッセージが添えられていた。

「『小さな輝きを大切にする』『消費者が使うたびに感動を覚える商品づくり』という創業以来のテーマもあらためて全員で共有しながら、時代や世代が変わっても、企業として一貫した姿勢が得意先や消費者からの信頼につながる」