【「36ぷらす3」試乗会】鉄分多め、「宗太郎」駅を経て別府へ【土曜日・緑の路】
前回(https://tetsudo-ch.com/10799807.html)に続き、「36ぷらす3」土曜日コース”緑の路”試乗会に参加してきました。実施日は2020年10月10日、前回の終着駅である宮崎駅からではなく、宮崎空港駅から出発し、別府駅へと向かいます。
10日の宮崎は快晴、そびえ立つヤシの木が南国の雰囲気を漂わせていました。1996年に開業した宮崎空港駅には特急「にちりん」「にちりんシーガイア」「ひゅうが」などが乗り入れますが、記者は近場のホテルからバスで来港。試乗会参加者の中には飛行機でやってきてそのまま宮崎空港駅へ、という方もいらっしゃいました。
”黒の路”で空路を使う場合は鹿児島空港から鹿児島中央駅へバスで向かうパターンが一般的かと思いますが、試算ではバス移動だけで40分ほどかかり、当日朝着ではやや慌ただしい。一方で”緑の路”は土曜日11時25分発と出発自体は”黒の路”より早いものの、関東から宮崎へ到着すればすぐ乗れる。バスの時間を気にする必要がないので、やや気楽ではあります。
今回は3号車のコンパートメント席です。「36ぷらす3」は11時25分に宮崎空港駅を発車。11時35分に宮崎駅へ到着し、数分停車したのち発車、車内でアテンダントのご挨拶が始まります。車内放送では”黒の路”と同じように「緑」にまつわるエピソードが語られ、別府へと向かう旅の雰囲気を盛り上げていきます。車窓には日向灘をはじめとする宮崎の絶景が流れていきますが、鉄的には宮崎リニア実験線の跡地が見られるのもポイントが高いところでしょうか。
宮崎の幸がぎっしり、大ボリュームのお重
正午過ぎから料理の提供が始まりました。今回はウエルカムドリンクも頼めるようで、そのぎ茶、マーコット(みかんジュース)、ロゼワイン、日本酒から好きなものが選べます。「36ぷらす3」はかなりスピードを出す観光列車ゆえ、大きく揺れるところもありますが、厚さ数㎜程度の薄いゴム製のコースターのおかげで飲み物がこぼれることはありませんでした。
1~3号車のコンパートメントで提供されたランチは「季節料理 かわの」のお重。これがまた物凄いボリュームで、宮崎の海の幸・山の幸がたっぷりと詰まっていました。先日の”黒の路”の上品な味わいとは打って変わって(こちらが上品でないとはもちろん申しませんが)暴力的なボリュームの肉で旅行者の胃袋を圧倒します。ランチタイムは延岡駅までおよそ1時間ほどでしたが、取材しながらということもあり、このボリューミーなお重と格闘するにはやや足りないと思われるほどでした。
延岡駅、宗太郎駅、重岡駅に停車
「36ぷらす3」土曜日コース”緑の路”では延岡駅、宗太郎駅・重岡駅に停車します。延岡駅では地元の方々による駅マルシェが行われ、ほんの10分ほどではありましたが「延岡茶」など特産品の購入も可能でした。
延岡駅を出発したのち、4号車「マルチカー」では「宗太郎・重岡」の歴史に関する動画が放映され、これから訪れる2駅の事前知識を得られます。宗太郎駅は鉄道ファンには「宗太郎越え」で有名。九州でも名だたる秘境駅として認知されているものと思いますが、実はこの駅、2020年現在では普通列車しか停車しません。その本数、1日にわずか3本。でも「36ぷらす3」は10分ほど特別停車してくれますので、いささかせわしなくはありますが、ホームや跨線橋から写真を撮影することもできました。
重岡駅では佐伯市観光協会の方々によるおもてなしが行われました。今回は特産品の販売そのものは行われませんでしたが、濃厚な栗の甘みが美味しい甘酒などを試飲させていただきました。重岡は九つの市町村が合併した山あり海あり、豊かな自然が楽しめる町。「佐伯市民一丸となって皆さんをお待ちしております。佐伯市を好きになって遊びに来ていただけるよう、おかえりな佐伯と言えるよう」(一社 佐伯市観光協会 軸丸綾香さん)おもてなしに取り組むそうです。
車内では梅酒づくり体験も 最高のビュッフェとくつろぎスペースを堪能
重岡駅出発後は4号車マルチカーで二つのイベントが行われました。まずは有料・車内での事前予約制になりますが、大分県・大山産の梅を使った「梅酒」づくり。美味しく飲めるようになるまで一年ほどかかるようですが、家に持ち帰り、一年後を楽しみにしながらときおり目を向けては「36ぷらす3」や九州の旅を思い出していただけるように、といった意図もこもっているようです。
その後は前日同様に”緑の路”に関する5つのエピソードの紹介が行われましたが、すべて語られた時点で別府駅到着までおよそ一時間ほどのフリータイムが残っていました。ここからは各自ビュッフェでお酒を買って飲んだり、くつろぎながら窓の外を眺めたり、旅の思い出を語り合いながら「36ぷらす3」への理解を深めていく時間となりました。やがて列車は16時46分ごろ別府駅へ到着し、17時10分ごろに次の目的地へ向かって旅立っていきました。
“黒の路”と”緑の路”を乗り通してみて、抱いた感想を一言で表すなら「残りの路も乗りたい」です。同じ観光列車とはいえ、コースも丸っきり違いますし乗った号車も異なりますから、旅の感触はまるで別物。JR九州としてはそれぞれの路をつまみ食いするような楽しみ方も想定しているのでしょうが、半端に2日も乗ってしまうと、残る「路」もつないで九州を一周する輪を作りたくなるものです。
グレードに関しては「ななつ星」ほどではありませんが、たとえば家族や恋人への年に一度のプレゼントとしては、安過ぎも高過ぎもしない価格帯で乗れる観光列車です。しかも一度では味わい切れないから「今度はコンパートメントでまた乗ろうね」といった楽しみ方もできる。なんとも面白い列車が出たものだと思います。
文/写真:一橋正浩