芳賀・宇都宮LRT車両イメージ。LRTは鉄道に比べ輸送力が小さい課題があるのですが、宇都宮は3両編成で定員160人と十分な輸送力を持ちます。 提供:宇都宮市

鉄道チャンネルをご覧の皆さんは、路面電車にどんな印象をお持ちでしょうか。私が子どものころ、1960年代前半は生まれ育った東京も、まだ都電の全盛期でした。1960年代後半からは、自動車の普及で電車は邪魔者扱いされるようになって一気に衰退。現在、全国に残るのは都電として唯一の東京さくらトラム(荒川線)のほか、札幌市電など限られた路線です。そんな路面電車に、見直しの動きが起きています。本稿前半は次世代型路面電車の「LRT」、後半は2022年開業に向けレール敷設が始まった「芳賀・宇都宮LRT」を紹介しましょう。

路面電車から「LRT」へ

路面電車やLRTに詳しい方も読者諸兄も多いと思いますが、ここでは「LRTって何?」という方のために最初から説明しましょう。LRTの読み方は「エル・アール・ティー」とそのまんまで、「ライト・レール・トランジット」の頭文字です。日本語では、一般に「次世代型路面電車」と訳されます。

「どこが次世代なの」と質問が来そうですが、一つは路線。鉄道で郊外から街中に出掛ける場合、駅から最終目的地の商店や病院まで歩くか、遠い時はバスに乗り換えたりします。東京や大阪を除けば、繁華街が駅から離れている都市は数多くあります。

ADVERTISEMENT

ところがLRTは、郊外の鉄道が街中に路面電車としてそのまま乗り入れるので乗り換えが不要です。地元の方はご存知でしょうが、広島電鉄は広電宮島口を発車した電車が、そのまま広島市中心部に入っていきます。

もう一つは車両。低床で停留所から乗りやすく、形も流線型というか、卵型というか。LRTの車両は「LRV(ライト・レール・ビークル)」とも呼ばれます。乗り換え不要で、高齢者も利用しやすい――それが、路面電車再評価の主な理由です。

全国第一号は「富山ライトレール」

広電などを別にすれば、全国初めてのLRTは2006年に開業した「富山ライトレール」です。元々、JR富山駅と日本海に面した岩瀬浜を結ぶ富山港線というJRのローカル線が走っていたのですが、北陸新幹線建設で存続が難しくなり、JR西日本が富山市にLRT化を持ち掛けたというのが誕生の経緯です。

元来が鉄道だったので、道路上を走るのは富山駅付近のごく一部。富山駅北―岩瀬浜間7.6kmのほとんどは専用の線路を走るので、道路交通を妨害することはありません。沿線のお年寄りが積極的に外出するようになったり、全体では人口減少の富山市も、ライトレール沿線だけは住民が増えるといった変化が生じています。

富山市に続く動きは東京や横浜、静岡県浜松などにあり、例えば東京では、豊島区の市民団体がJR池袋駅と1kmちょっと離れた超高層ビルのサンシャイン60を結ぶLRTを造ろうと活動しています。しかし、鉄道(地下鉄)やモノレールに比べれば少額とはいえ、LRT建設には、数十億円から百億円単位の財源が必要です。仮にLRTを建設しても、便利になるのは沿線住民だけ。〝総論賛成、各論反対〟は社会の常で、欧米で広く普及するLRTが日本でなかなか広がらないのには、それなりの理由があるのです。

構想20年!?いよいよ宇都宮でLRTが実現

LRTで話題を集めるのが栃木県宇都宮市と東隣の芳賀町です。「芳賀・宇都宮LRT」は2018年5月に起工式を開催して、2020年9月からはレールの敷設工事もスタートしたようです。全線新設のLRTの整備は国内初の事例とあって、大きな注目を集めています。

宇都宮市東部には清原工業団地という就業人口1万人以上の大きな工場団地があって、通勤時の道路渋滞が慢性化しています。東京の本社から清原工業団地の工場に出張するのに、「東京駅から宇都宮駅まで東北新幹線で50分、宇都宮駅から工場まで道路が混んでいて1時間30分」という本音ともジョークともつかない話もあります。

清原工業団地への公共交通手段は当初、栃木県が新交通システムを整備するプランだったのですが、実現しないまま20年以上が経過、代わって宇都宮市がLRTを建設する構想が浮上しました。

計画によると、路線は宇都宮駅東口―芳賀町高根沢(近くにホンダの研究所があります)間14.6kmで、停留所は19カ所。宇都宮市と芳賀町が整備主体となり、第三セクターの宇都宮ライトレールが運営する公設型上下分離方式を採用します。事業費は約458億円で、約229億円を国が支援し、宇都宮市が約206億円、芳賀町が約23億円を負担します。

停留所のうち主要5カ所はバスや自動車などに乗り換えられるトランジットセンターとして整備。電車から地域をきめ細かく回るコミュニティバスなどに乗り換えて最終目的地に向かいます。ダイヤはピーク時6分間隔、その他時間帯10分間隔で運転し、全線を約44分で結びます。低床式車両17編成を導入し、運賃収受にはICカードシステムを採用します。将来的には宇都宮駅西側への延伸も検討します(総事業費や運転計画は着工時の数字。停留所名は仮称です)。

停留所のイメージ。トランジットセンターではLRTホームの反対側にバスが停車し、上下移動なしで乗り継げます。 提供:宇都宮市

芳賀・宇都宮LRTをめぐっては、これまでに車両外観デザインが決定。基調色は黄色で、先頭部はL字が流れるように描かれます。宇都宮は雷の多い土地で、「雷都(ライト)レール」の当て字もありました。黄色は雷光を象徴するそうです。黄色を引き立たせるため、サブカラーとして黒から白までの無彩色が用いられます。車体に続いてはシンボルマークも決まりました。LRTの「L」をアレンジしました。

シンボルマーク。複数案から有識者委員会などで最終案を決定しました。 提供:宇都宮市

さらに、宇都宮ライトレールと関東自動車、ジェイアールバス関東の3社は、2021年春にサービス開始する地域連携ICカードの名称とデザインを決定。カード名は「totra(トトラ)」で、「総合的(トータル)に輸送(トランスポーテーションション)をつなぐカード」の意を込めました。JR東日本の「Suica」のバージョンで、全国のJR・大手私鉄線やバスでも利用できます。

地域連携ICカードのデザインイメージ 提供:宇都宮市

芳賀・宇都宮LRTをめぐる新しいニュースでは、宇都宮ライトレールが運転士の公募での採用活動を本格的に始めました。募集するのはLRT運転士20人で、採用後は約8~10カ月間、全国の軌道事業者で実務を学びます。宇都宮市は新潟トランシスで製造中のLRV(Light Rail Vehicle)の写真を公開しています。

文:上里夏生