HICity全景。交通広場には羽田空港と結ぶシャトルバスが発着します。

新型コロナで総崩れになった日本の国際観光ですが、復活の動きは既に始まっています。全日本空輸(ANA)は羽田、成田、関西、中部の4空港に分かれている国際線を当面、羽田に集約する方針を公表。首都空港から再生に歩み出す考えを示しました。

そんな羽田の国際化に向けた話題をもう一題、空港隣接地に2020年9月、新しい国際交流・産業拠点が誕生しました。名称は「HANEDA INNOVATION CITY(羽田イノベーションシティ=略称HICity<エイチ・アイ・シティ>)」で、最初の事業となる11階建てのビルや交通広場、体験型商業施設が、京浜急行電鉄と東京モノレールの地下駅・天空橋駅の直上に完成しました。オープニングイベントでは、自律走行するバスや自動運転の低速カート、軽貨物を運ぶドローンといった未来の交通・物流がお披露目されました。紹介が少々遅れましたが前半は空港用地再開発の狙い、後半は未来の交通を取り上げました。

交流施設に地場産業の振興託す大田区

羽田空港は沖合展開で拡張が続けられた結果、南東側の旧国際線ターミナル周辺に開発可能用地が発生。国土交通省と東京都、大田区などは未利用地を第1、第2の2ゾーンに分けて開発します。

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今回オープンしたのは、大田区が主体の第1ゾーン(約16.5ha)第1期の「2020年開業エリア」。今年7月に先行開業していました。開発主体は羽田みらい開発(株式会社)で、代表企業の鹿島建設のほか、JR東日本、京浜急行電鉄、東京モノレールの鉄道3社と大和ハウス工業、野村不動産パートナーズ、日本空港ビルデング、富士フイルム、空港施設の各社が出資します。

HICityには大田区の悲願が込められています。今年はコロナで大きく変わりましたが、羽田空港には2019年、429万人もの外国人が到着・入国しました。成田、関西に続く国内空港3位に当たりますが、ほぼ全員が空港のある大田区を素通りしました。

首都直結の羽田はビジネス客が多いのが特徴。〝ものづくりの聖地〟の大田区は、地元企業と国内外のスタートアップ(ベンチャー)企業などが空港で交流することで、地場産業の振興を目指します。

鉄道3社では、京急と東京モノレールが来街者の移動を支えます。JR東日本は東京モノレールの親会社という立場のほか、東邦大学と共同で2年後の開設を予定する「先端医療研究センター」では、宿泊の滞在機能を受け持ちます。

JR東日本は東京都心と空港を直結する羽田空港アクセス線(仮称)の計画があり、グループにはホテル運営のノウハウもあるので、鉄道との相乗効果が見込める新規事業としてHICity進出を決めたのでしょう。「品川開発プロジェクト」と同様、街づくり進出の狙いが読み取れます。京急は2020年開業エリアで、「京急EXイン羽田イノベーションシティ」(259室)を運営しています。

未来の移動は自動運転バスやカートで楽々

HICityは国のスマートシティモデルプロジェクト(先行プロジェクト)に選定され、新規技術はモビリティ(移動)とロボティクス(ロボット)の2分野に大別されます。モビリティの基本はBIM(ビルディングインフォメーションモデリング)を活用した空間情報データ連携基盤で、簡単にいえばコンピューター上に建物と同じ仮想空間を設定し、乗り物やロボットを自動制御する仕組みだそうです。

新しい移動手段では、施設外周部を無人運転走行する自律走行バスが目を引きます。11人乗りでナンバーを取っているので、公道も走れます(現状は有人で)。自動運転のコース取りにはGPSを使用、高度カーナビゲーションで走行ルートを自動判断します。車体にはカメラを搭載、急な飛び出しに対応します。

自律走行バスはピンクを基調にしたかわいらしいデザイン。

車名は「NAVYA ARMA(ナブヤアルマ)」で、フランスのナブヤ社の定常運行システムを採用。バスは羽田みらい開発、鹿島、ソフトバンク子会社のBOLDLY、電子システム開発のマクニカ、タクシーの日本交通の5社協業で、試乗中の話では、ビル内などGPSの電波が届かないところも安全に走行できるのが技術上の売りだそうです。

ドアの開閉ボタンは押しボタン式。「鉄道車両を参考にしました」とは開発担当者の弁。

もう少し低速の自動運転車も走ります。「自律走行低速カート」で、ゴルフ場のカートを想像してもらえば、イメージをつかみやすいでしょう。8人乗りで、こちらもGPSやカメラでコース取りします。羽田みらい開発とマクニカ、自動運転オンデマンド交通のPerceptIn Japanの3社協業で、山間地などで自動運転による公共交通維持を目指します。それにしてもBOLDLY、NAVYA、PerceptIn Japanと最近の会社名はローマ字のオンパレード。普通の日本人には、何の会社か分かりません。

このほかのモビリティでは、自動運転の車いすと動力付きスケートボートを実演。スケボーは警備用とのことでした。

ロボットも多士済々

4足歩行ロボットは警備用だそうです。確かに目の前に犬のようなロボットが現れたら驚くこと必至。

オープニングイベントでは、20体を超す未来のロボットも活動していました。最近は案内ロボットが普通に店舗案内していますが、今回のキーワードは業務効率化や省力化のお役立ちロボット。私が興味を持ったのは、ロボットなのかどうか分かりませんが電動アシスト人力車とロボティクスウエア。ロボットスーツのウエアは、介護用としてお年寄りや障がい者の歩行を支えます。

最後になりましたが、HICityは観光で訪れても楽しめます。空港を望む3階デッキには足湯を用意。劇場では、VR(仮想現実)の舞台で本物の役者が演じるノンバーバル(無言)のミュージカルも上演されます。

ノンバーバルミュージカルは、「もしも日本が明治維新で開国しなかったら」の想定。来場者はVRのゴーグルを付けて鑑賞します。

文/写真:上里夏生

2020年10月25日15時10分……記述内容を一部修正しました(鉄道チャンネル編集部)