山万「コミュニティバス」開業の背景に街ぐるみのMaaS思想 「顔パス」で山万ユーカリが丘線に乗れる日は来るか

2020.11.07

式典会場にてお披露目されたコミュニティバス

2020年11月6日(金)、千葉県佐倉市のニュータウン「ユーカリが丘」で翌7日より運行を開始する「ユーカリが丘コミュニティバス」(愛称:こあらバス)の開業記念式典が行われました。式典には国土交通省 関東運輸局局長 河村俊信氏、千葉県知事 森田健作氏ら60名以上の来賓が訪れ、新たな「地域の足」の出発を祝いました。

来賓の方々の挨拶ののち、テープカットが行われた

コミュニティバスは「ユーカリが丘」の公共交通機関「山万ユーカリが丘線」を補完するように運行されるもので、新たに5系統6台のバスが走り始めます。運賃は大人200円・小人100円。山万ユーカリが丘線で発行する有効期限内の定期券や回数券で乗車することもできます。

ユーカリが丘線の定期券でコミュニティバスへの乗車も可能

コミュニティバスには顔認証システムが導入されており、式典後には来賓が「顔パス」で乗車する一幕も見られました。山万は年明けから「顔パス乗車」の実証実験を行い、ゆくゆくは病院や交通機関など、ユーカリが丘全体に広げていく構想を示しています。

顔認証システムを実際に使用した体験乗車も行われた

なぜ「山万ユーカリが丘線」があるのに路線バス? 街の成り立ちから紐解く

新交通システム「Vehicle of New Age(ボナ)」を採用した「山万ユーカリが丘線」

そもそもなぜ「ユーカリが丘」で路線バスが開業することになったのでしょうか。ユーカリが丘にはすでに「山万ユーカリが丘線」が存在し、街の中のどこからでも徒歩10分以内に駅へ到達できる状況が整備されています。コミュニティバスの開業に至った理由を理解するには、街の成り立ちから紐解いていく必要があるでしょう。

ユーカリが丘は山万株式会社が1971年に開発を始めた千葉県佐倉市のニュータウンです。当時は公害が大きな社会問題となっており、山万はそうした環境破壊とは無縁の佐倉の街に「自然と都市機能が調和した21世紀の新・環境都市」を作ろうと決意し、開発に取り組みました。

名前を付けるにあたって、同社は空気清浄効果・殺菌作用があり、時には樹高100メートルにも達するユーカリの木に着目。「佐倉のきれいな空気と豊かな水がユーカリの木のようにこの街を大きく育んでくれるよう」願いを込めたとのことです。

そうした背景から、ユーカリが丘では排気ガスを出す路線バスではなく、電気を動力としてゴムのタイヤで専用の軌道を走る公共交通機関が採用されました。それが「山万ユーカリが丘線」です。純粋民間企業としては戦後初めて鉄道事業許可を受け、1982年に山万ユーカリが丘駅~中学校駅間2,7kmが開通。路線は街をぐるりと一周するようなラケット型で、ユーカリが丘駅で京成電鉄本線と接続します。

高齢化の波には抗えない

山万代表取締役 嶋田哲夫氏

ユーカリが丘の住人は2020年9月末時点で18,753人(7687世帯)。開発から50年近く経った今なお人口の増加を続けており、計画人口は3万人といいます。年間約200戸に限定した定量供給を約40年間続けるなど世代が偏らない「街づくり」を実施することで、ユーカリが丘は日本屈指のニュータウン開発成功例として高い評価を受けています。

そうはいっても日本全体の高齢化の波に抗えるものではありません。他のニュータウンほどではないにせよ、ユーカリが丘でも徐々に入居者の高齢化が進んでおり、新たな交通機関の整備が必要になってきました。山万の嶋田哲夫代表取締役も、式辞の中で次のように述べています。「わたくし自身が高齢者になって実感しましたのは、買い物袋をさげて10分歩くのは厳しいということでした」

山万は2009年に非接触型充電方式を採用した電気バスの実証実験を開始。実験はその後も継続実施され、電気自動車によるカーシェアリングサービスも始まったほか、2013年7月にはグリーンディーゼルバスを活用した社会実験も行われました。今回のコミュニティバスはそうした流れの中で開業したものであり、既存の「山万ユーカリが丘線」を補完することで街全体に公共交通の網の目を張り巡らせます。

平たく言えば神姫バス路線の開業は「公共交通機関まで徒歩10分」を「徒歩数分」に短縮する試みですが、注目すべき点はそれだけではありません。山万はコミュニティバスで顔パス乗車ができる体制を整えているのです。

顔パスは今回が初めてではない

顔パス乗車用の端末はパナソニックが開発

実はユーカリが丘における顔認証システムの導入は今回が初めてではありません。2013年、グローリーの顔認証入館システムを「ユーカリが丘 スカイプラザ・ミライアタワー」のエントランスと1階エレベーターホールの両方に導入し、首都圏で初の事例となりました。

そうした事例からも分かる通り、山万はもともと顔認証の導入に積極的です。理由は生活や交通の利便性を高めるため。顔パスが浸透すれば、生活面においてはお出掛けにおける財布やカードを不要とし、迷子や忘れ物探しも容易になり、入室や宅配ロッカーもストレスフリーで利用できるようになります。

交通面ではICTを活用したクラウド化を進行させ、すべての移動をシームレスにつなぐサービス予約を一つのアプリで完結させます。ユーカリが丘ではドローンタクシー、オンデマンド交通、パーソナルモビリティ、超小型モビリティなどの導入が検討されていますが、そうした多彩な移動手段をMaaSで一本化し顔認証で利用できるようにすれば、公共交通機関へのアクセスはますます便利になるでしょう。

山万ユーカリが丘線ではPASMOやSuicaなどの交通系ICカードは使用できない

2020年現在、山万ユーカリが丘線ではSuicaなどの交通系ICカードを使用することはできませんし、車両も非冷房で、夏にはおしぼりを配ります。導入当初はともかく現代ではややレトロな感もある交通機関になってきました。しかしMaaSと顔パスが浸透すれば、山万ユーカリが丘線は交通系ICの時代を飛ばして一足先に最先端のシステムへ組み込まれる形となります。

ユーカリが丘を「千年優都」と称し、十年後、二十年後のみならず、ずっと住み続けられる街を目指す山万。街全体を開発する不動産会社だからこそ描ける夢が、果たしてどのような形で現実化するかは分かりませんが、少なくとも、今後の都市交通を考える上で重要な事例の一つとなることは間違いないでしょう。

文/写真:一橋正浩


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