駅の窓口にはシールド。消毒液も備え付けられています。 本稿の写真は最後の一枚を除き2020年12月に撮影した鉄道風景点描写真です(本文と直接の関係はありません)

2020年も残りわずか。「あなたにとって2020年は?」と問われれば、多くの方は直接、間接を問わず新型コロナの影響を挙げるでしょう。コロナは鉄道業界も大きく変えました。とある鉄道ニュースサイトで「コロナ」と検索したら、現在までにおよそ1800本がヒットしました。

最初の「JR東日本が沿線のハーフマラソン中止で臨時列車を運休」が報じられたのは2020年2月24日で、年末までの約10カ月間に日々平均5~6本の情報が世を駆け巡っていた計算になります。ここでは夏休み前の7月までに期間を限定して、鉄道業界が未曽有の困難にどう立ち向かったのかを、関係業界も含めて月ごとに振り返りたいと思います。

2月

車内でのマスク着用が日常の光景になりました(東京メトロのマナーポスター)

2020年2月のコロナニュースはまだ10本足らず。2月以前も報道があったような気がして再検索したら、1月末に「中国・武漢で原因不明のウイルス性肺炎が流行し、中国政府が高速鉄道の運行をストップ」が見付かりました。最初は「ウイルス性肺炎」だったのです。この時は多くの日本人にとって、コロナはまだ〝対岸の火事〟でした。

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2月のニュースは、先述のハーフマラソンのように「沿線イベント中止で列車運転を取り止め」に類する中身がすべて。このころ現在のような事態を予想していた、日本の鉄道関係者はおそらく皆無だったでしょうか。

3月

駅の待合室も換気のため一時的にドアを開放。

2020年3月は月間約100本と大きく増えます。JR東日本の深澤祐二社長は3月3日の定例会見で、2月の輸送実績について新幹線、在来線それぞれにコロナで大きなマイナスが出たことを報告しています。見落としがあるかもしれませんが、鉄道事業者トップがコロナの影響に言及したのはこれが初めてと思います。

深澤社長は同じ会見で、JR東日本が利用客にオフピーク通勤やテレワークを促していることを明かしました。これには伏線があり、赤羽一嘉国土交通大臣が全国の鉄道事業者に、駅や車内の放送でオフピークやテレワークへの協力を呼び掛けるよう要請していました。一方で赤羽大臣は、公共交通機関の利用自体の自粛を求めることは、「国民生活や経済活動に大きな影響を与えることから、現時点では考えていない」としました。

鉄道事業者の感染拡大防止策では、JR西日本が「約6200両の新幹線や在来線の全車両の車内消毒を実施」のニュースが流れ、作業の様子が公開されました。消毒の頻度は新幹線車両はほぼ毎日、在来線の特急と普通車両は1週間に1回程度とのことです。

4月

駅のスイーツ店にもソーシャルディスタンスのテープが貼られています。

2020年4月の掲載本数は200本弱とさらに増えます。異色のニュースに、「JR貨物が東京港運協会からマスク1万枚の寄贈を受けた」があります。東京港運協会は東京港の海運業者の団体で、陸上物流のJR貨物につながる海上物流を受け持ちます。陸と海、活躍のフィールドは違っても、物流事業者相互の結束力が示されました。それにしても、このころのマスク不足は深刻でしたね。

他業界からの鉄道支援では、ソフトバンクグループのロボット会社・ソフトバンクロボティクスが「人工知能を搭載したAI清掃ロボット『Whiz(ウィズ)』を、鉄道事業者(駅業務)に提供する」もありました。鉄道従事者は、医療・介護や小売業などと同格の社会を支えるエッセンシャルワーカーとして認められました。

これとは逆に、JR九州グループの駅ビル会社・JR博多シティが「病院などで不足する防護服に代用できる、携帯用レインコート4500着を福岡市に寄付した」のニュースもありました。阪神淡路大震災や東日本大震災をはじめ、大きな災害時に鉄道は社会を支える柱として存在感を増すようです。

5月

駅には清掃・消毒時刻の掲示が。

5月の掲載本数は200本強で、現在まで同じような状況が続きます。4月6日に埼玉、千葉、東京、神奈川、大阪、兵庫、福岡の7都府県でスタートした国の緊急事態宣言は同月16日から全国に拡大。5月のゴールデンウイーク(GW)には、外出自粛が呼び掛けられました。

同月には、厚生労働省国立感染症研究所が濃厚接触を「感染者が発症2日前から1m程度の距離で、マスクをせずに15分以上会話する」と定義したのを踏まえ、「電車では1席隣を開けて座る人がいる」のニュースも見付かりましたが、真偽のほどは不明。ショッピングセンターのベンチにはソーシャルディスタンスの表示がありますが、鉄道には見られません。幸いに「鉄道でクラスター発生」はないようですが、このことは何より日本人のマナーの良さを裏付けていると私には思えます。

6月

電車の窓開けも当たり前になりました。

6月は約220本とさらに増えます。鉄道各社の定時株主総会が開かれ、トップが発言する機会が増えたことも関係していると思えます。そんな中で見付かったのは、「JR東日本が東北・山形新幹線で、山形県産のサクランボを東京駅に輸送」。

サクランボはコロナ禍のあおりで需要減が続き、JR東日本仙台支社が山形県、JA全農山形(全国農業協同組合連合会山形県本部)、日本郵便との関係を強化する中で「貨客混載」の発想が生まれました。JR社員は、農家での収穫作業もお手伝いしました。

JAから山形駅までのフィーダー物流を受け持ったのは日本郵便。以後、オンレールの貨客混載が全国の鉄道事業者で見られるようになり、バス、タクシーと公共交通に枝葉を広げていきます。

7月

7月の掲載本数は200本をわずかに切り、初めて前月から減少しました。7月のニュースでは、夏休みに合わせて始まった「JRグループ旅客6社の『旅に出よう!日本を楽しもう!』キャンペーン」を取り上げましょう。

コロナで実際の旅行が難しくなり、代わってインターネットで旅行目的地を観光するオンラインツアーの「リモート旅・シェア旅」が盛んになります。実施期間が2021年3月31日までで現在も続くJRの共同キャンペーンは、「今回はネットでも、次回は列車に乗ってぜひ来訪してください」という事前PRの意味合いを持ちます。SNSのインスタグラムでは、身近な風景や近場の旅を含む鉄道旅を収めた写真や動画の投稿を呼び掛けます。

特設サイトでは、投稿作品の一部を紹介するほか、各社イチ押しエリアの観光情報や旅行会社のツアー情報といった鉄道旅の魅力、キャンペーンの詳細を発信します。サイトや駅構内のポスターでは、旅の目的地に向かう車内のワクワク感、旅先の風景といった鉄道旅の魅力をイメージしたイラストを順次紹介します。

8月以降も「鉄道事業者が混雑情報を発信して、空いた列車に誘導」をはじめとする新しい取り組みが続きますが、紹介はまたの機会に。2020年ラストは鉄道から離れますが、2021年の希望につながる1枚の写真で締めくくりましょう。

2021年最大のイベントは東京オリンピック・パラリンピックで、観客輸送など鉄道事業者も大きな役割を果たします。2020年7月に東京の新国立競技場で開かれた五輪開会1年前イベント「一年後へ。一歩歩む。~+1(プラスワン)メッセージ TOKYO2020」では、競泳の|池江璃花子選手が希望のメッセージを世界に発信しました。 Photo by Tokyo 2020 / Shugo TAKEMI

文/写真:上里夏生