東京農工大学大学院農学府農学専攻 沖和人修了生、同大学院グローバルイノベーション研究院 小池伸介教授、東京大学大学院農学生命科学研究科 曽我昌史准教授、オーストラリアクィーンズランド大学生物科学部 天野達也博士らの国際共同研究チームは、針葉樹人工林(人工林)景観に存在する送電線の下には、周囲に比べて多くの種類のチョウが利用していることを明らかにした。

送電線下では、樹木が送電線に接触しないように樹木の伐採が定期的に行われている。これにより、さまざまな状態の植物群落が連続的に存在し、チョウの幼虫が食べる植物(食餌植物)や、成虫が吸蜜する花が豊富に存在することが上記の結果のメカニズムとして考えられるという。

架線周辺や線路脇の樹木や雑草は定期的に伐採されているというから、電化された鉄道路線のまわりにもチョウが多数生息しているといえるか。

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今回の調査では、草原をおもな生息場所とするチョウ(草地性種)が10種410個体、人里周辺をおもな生息場所とするチョウ(荒地性種)が16種847個体、森林を主な生息場所とするチョウ(森林性種)が36種866個体の計62種類2123個体が確認された。

草地性種・荒地性種のチョウの種数と個体数は、いずれの季節も送電線下、幼齢の人工林、林道、壮齢の人工林の順に多く確認された。また、森林性種のチョウの種数と個体数は、送電線下と幼齢の人工林で多く確認された。

さらに、チョウの食餌植物を調査したところ、荒地性種のチョウと森林性種のチョウの食餌植物は、送電線下に最も多く存在することが分かった。また、送電線下には成虫の食物となる花を咲かせた植物も多く存在したことから、これらの豊富な餌資源の存在が送電線下のチョウ類相を支える要因として機能すると考えられるという。

今回の研究結果は、送電線がこうした草地性種にとって重要な生息地を提供し得ることを示唆。加えて同研究では、送電線下において多数の森林性種のチョウも確認したことからも、送電線下がチョウ全体の保全に寄与する可能性も示された。

国際共同研究チームは今後、送電線下の植生を適切に管理し、生物の生活場所としての価値を高めることによって、世界的に進行している生物多様性の喪失を防ぐことに貢献できると考えている。

画像:鉄道チャンネル
記事:鉄道チャンネル