2004年から2005年にかけて、日本車輌製造がつくった小田急電鉄ロマンスカー50000形 VSE。

登場時は鉄道好きも旅行好きも大注目したこの小田急フラッグシップ50000形 VSE 全2本が、2022年3月に引退する。誕生から17年、短命ともいえるほど早い引退。

ひと世代前の小田急ロマンスカーで、1996~1999年に日本車輌製造と川崎重工業がつくった30000形 EXEよりも先に、だ。

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個性的な特徴があちこちにある50000形 VSE。その個性が、今後の継走の足かせになったんじゃないか―――。

ここからは、なぜこの50000形 VSE がこんなに早く引退するか、いろいろ想像してみた。

連接車構造、1両14メートル、車体傾斜制御、全電動車

小田急は50000形 VSE 開発時、どこにもない車両や小田急らしさなどを求め、連接車構造を選んだ。

ひとつの車体に2つの台車(2軸4輪)が両端につく一般的なボギー台車ではなく、ひとつの台車に2つの車体がシェアする連接台車にした。

また、すべての台車が電動車なうえに、車体傾斜制御という小田急初の技術まで盛り込んでしまった。

客室ドアもそう。重厚で複雑な構造をもつ片引きタイプのプラグドアも、50000形 VSE の個性。

その後に出てくる現在のロマンスカーフラッグシップ 70000形 GSE は、連接台車も車体傾斜制御もプラグドアもやめ、一般的なボギー台車に引き戸タイプのシンプルなドアにした。メトロ直通用の60000形 MSE もそうだ。

こうした「50000形 VSE だけにしかない個性」が、コロナショック後の「新しいあり方」を探っていくなかで、営業運転を継続させることが困難とみたかもしれない。

車両整備現場の人材不足・技術者不足のなかで、技術の伝承や共有、部品や構造の共通化、簡素化、メンテナンス性などを両立させるなども求められている。

さらに小田急は、2022年3月からドル箱 観光地の箱根へ直行するロマンスカーを減らし、日常使いの都市間輸送系統を増やす。すでに小田急名物の車内販売もやめている。

運用の自由度も、30000形 EXE などに比べると低い。登場当時、あれだけ酷評されてた30000形 EXE が、ここへきてフレキシブル性や汎用性、ビジネス輸送で重宝されているというのも、時代のいたずらか。

子どもIC運賃50円など、持続可能な手を次々と打ちはじめている小田急が、かつてとことんこだわって予算も注ぎ込んでつくりあげた箱根観光用フラッグシップモデル50000形 VSE。

そんな50000形 VSE は、コロナの前と後では、その存在意義も大きく変わってしまった。

箱根直通特急が減るなか、これ以上、高いコストをかけて、VSE だけが持つ連接台車構造や車体傾斜制御、プラグドアなどなどあれこれを、維持する価値があるか―――。

さまざまなマーケティングと中長期予想で、「早いうちにやめるべき」となってしまったのか。