2022年2月9日(水)、JR東海の新型ハイブリッド特急「HC85系」を用いた、次世代バイオディーゼル燃料の実用性検証試験が報道陣に公開されました。

試験で用いられたのは、バイオマス由来の原料から製造されたユーグレナ社の燃料です。この燃料は軽油と同じ分子構造を持ち、同等の燃料特性を実現できるだけでなく、既存の車両のエンジンに手を加えなくとも使用できるとされています。実用性検証試験は、燃料を実際に「HC85系」確認試験車に給油し、名古屋車両区構内を500メートルほど走行するという手順で行われました。

実際の給油シーン
次世代バイオディーゼル燃料のサンプル

エンジン単体の試験は2022年1月下旬に実施済み。実車両を使用した走行試験は今回で2回目となります。この後は本線走行試験が予定されており、同燃料を積んだ「HC85系」は2月中旬から下旬にかけ、紀勢本線で4回ほど走行する見込みです。

なぜ次世代バイオディーゼル燃料に注目が集まるのか

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JR東海は2022年現在、政府の推進する「2050年カーボンニュートラル」方針に沿ってCO2の排出削減に取り組んでおり、省エネ車両の導入や再生可能エネルギーの活用・内燃車両の電動化などを進めています。

2020年7月にデビューした東海道新幹線の新型車両「N700S」。初代「のぞみ」で使用された「300系」と比較すると、東京~新大阪間(下り)を時速285キロで走行した際の消費電力は約72%にまで抑えられているそうです(「300系」は時速270キロ走行時。参考までに、「N700A」では「300系」比で約77%)
3月5日デビュー予定の新型在来線車両「315系」(写真左)も省エネ性能に優れた車両です

配布資料によれば、同社の2020年度CO2排出量は122万トン。その約95%にあたる115万トンは同社が購入する電力を生み出す際に排出されたものですが、今回焦点となるのは残る7万トン(約5%)の方で、その多くはディーゼル車両で軽油を燃焼する際に――たとえば「キハ85系」で特急「ひだ」や「南紀」を運転する際に排出されています。

JR東海「キハ85系」

排出量を減らすにはどうすればよいか。非電化路線用の列車を燃料電池や蓄電池で電動化するといった方法もありますが、航続距離や安全性などに課題が残ります。一方でバイオディーゼル燃料は、既存のエンジンでそのまま使えるレベルにまで進化しており、これを活用するという選択肢が現実味を帯びてきました。

バイオディーゼル燃料も「燃やせばCO2が排出される」という点では既存の化石燃料と変わりません。ではなぜエコだと言えるのか。理屈としては「バイオマス原料は成長過程で光合成を行うことで大気中のCO2を吸収しているため、排出量を実質ゼロにできる」と考えられています。「食べた分だけ運動するから実質カロリーゼロ!」みたいな話だと考えれば分かりやすいでしょうか。

バイオ燃料と化石燃料の比較(画像:JR東海)

机上論では軽油を全てバイオディーゼル燃料に置き換えれば、気動車運転時のCO2排出量を実質ゼロにすることも可能です。とはいえ製造にかかるコストや供給量の問題をクリアできるようになるのはまだ先の話で、配送や製造の際に排出されるCO2なども考慮したトータルの評価も定まってはいません。

今回の試験では次世代バイオディーゼル燃料で新型気動車「HC85系」を運転できることが確認されましたが、燃料の混合比率は「軽油8:次世代バイオディーゼル燃料2」にとどまります。「HC85系」の導入は2022年7月からの予定ですが、各種試験が無事終わったとしても、運用開始時から次世代バイオディーゼル燃料を使用するかどうかは未定であるとのことでした。

なお、ユーグレナ社の次世代バイオディーゼル燃料は全国41社で採用済みで、路線バスや観光フェリーなどで使用されています。鉄道関係ではJR貨物のトラックですでに採用実績があり、2021年7月には鉄道・運輸機構(JRTT)と包括連携に関する基本合意書を締結。今後も鉄道界隈に広がっていくものと見られます。同社の尾立維博執行役員は、「2025年の商業化のあかつきには大幅にコストを下げ、25万キロリットル/年で供給し社会実装を可能にしていく」と前向きな展望を示しました。

ユーグレナ社執行役員 エネルギーカンパニー長の尾立維博氏(左)、JR東海総合技術本部 技術開発部チームマネージャーの石原光昭氏(右)

記事:一橋正浩