成田空港直下のトンネルから顔を出したSKL。複線のように見えますが、JR(左側)との単線2本併走区間です(筆者撮影)

インバウンド(訪日外国人旅行)が好調です。2024年の訪日客は3687万人(日本政府観光局発表、一部推計値)で過去最高を記録。日本を訪れる外国人の急増には賛否両論ありますが、「人口減少時代に社会や経済を支える力の一つがインバウンド」は異論のないところでしょう。

〝インバウンドの入り口〟といえば空港。なかでも千葉県成田市の成田空港は、訪日客10人中ほぼ3人が入出国するトップランナーです。

成田空港の課題が鉄道アクセス。京成スカイライナー(SKL)とJR成田エクスプレス(N’EX)の二枚看板は現状、十分な輸送力を持つものの、訪日客が増え続けると乗り切れない乗客の発生も予測され、先手を打つ形での輸送力増強が求められます。

具体的な増強策が、SKLの増発、増結、さらにスカイアクセスとJRの線増です。国(国土交通省)も鉄道アクセスの充実・強化を空港機能強化の課題と位置付け、2025年3月の検討会で京成電鉄やJR東日本の考え方を聞きました。

本コラムは検討会資料などから空港アクセスの現状や課題を探り、あわせて2010年7月の開業から15周年を迎える成田スカイアクセスの歴史をひも解きます。

6割弱が鉄道で来港

成田国際空港(NAA。企業名)の2024年7月調査によると、出発旅客の来港手段は鉄道56%、バス24%、自動車(マイカーなど)17%、航空機3%(他空港からの空路移動)。鉄道は前回調査(2018年)の47%に比べ、シェアを9ポイント拡大しました。

列車別では、SKL19%、N’EX14%(来港者全体の割合)。前回よりスカイライナー利用客が増え、東京都心(日暮里)~空港(空港第2ビル)最短36分のスピードが受け入れられる様子です。

SKLが走る成田スカイアクセス(線)は、京成高砂~成田空港の空港連絡鉄道の愛称名。施設(線路)は歴史的経緯もあって、東京側から北総鉄道、千葉ニュータウン鉄道、成田高速鉄道アクセス、成田空港高速鉄道の4社に分かれます。空港特急のSKLは京成が一元的に運行します。

10年後には〝定員オーバー〟!?

SKLやN’EXの将来には〝黄信号〟が点灯します。国のインバウンド目標は、2030年までに現在の1.5倍に当たる6000万人です。

国は有識者、鉄道事業者、航空会社などで構成する「今後の成田空港施設の機能強化に関する検討会」(委員長・山内弘隆武蔵野大学経営学部特任教授)を立ち上げて、2024年9月と2025年3月に会合を開催。2回目は「今後の成田空港鉄道アクセス」をテーマに、鉄道輸送の課題を洗い出しました。

検討会で示された空港鉄道需要(航空旅客と空港従業員をあわせて試算)は2035年度4770万人(1日当たり約13万人)、2042年度5480万人(同約15万人)。2030年代前半のラッシュ時間帯にSKLとN’EXの乗車率がそろって100%超え、特にSKLは2040年代前半に150%超を予測します(SKLは全席指定、現実には100%超えはあり得ませんが……)。

SKLを9両編成に

空港鉄道アクセスの輸送力増強、国交省のシンクタンク・運輸総合研究所は2022年7月、有識者検討会による政策提言の形で方向性を示しています。鉄道を知る方の多くが思い付くように、具体的には増結と線増です。

増結は8両編成のSKLに1両増結して9両運転します。単純計算で輸送力は1.1倍に増えます。SKL停車駅は京成上野、日暮里、2ビル、成田空港の4駅(青砥や新鎌ヶ谷に停車する列車もあります)。

空港輸送力強化、航空局主導で動き出す

もう一つの複線化。成田スカイアクセスの空港寄り、成田湯川~2ビル(9.7キロ)は上下線の列車が同じ線路上を走ります。併走するJR成田線にも単線区間があります。

運輸総研の提言によると、具体的な線増方法は、①JR単線・京成複線(現在線の北側に線増)、②JR・京成ともに複線(北側線増)、③JR単線・京成複線(現在線の南側に線増)、④JR・京成ともに複線(南側線増)の4案あり、いずれも工期5年以上(設計や用地買収後の実質工事期間)、工費700~1400億円と試算されます。

成田スカイアクセスとJRの単線区間。JR線と京成本線は成田(駅)、2ビルで合流しますが駅間は離れたルートを取ります(資料・運輸総合研究所)
空港付近の配線図。比較的シンプルなJRに対し京成は本線、スカイアクセス、東成田線、芝山鉄道線が複雑に入り組みます(資料・運輸総合研究所)

詳細は割愛しますが、興味ある方は国交省または運輸総研のホームページをぜひチェックしてみてください。

一つ注目したいのは国交省の検討会が、鉄道局でなく航空局主導で動き出した点。航空行政も、日本の航空分野の国際競争力強化に空港アクセスの充実・強化が必要と判断したからで、今後どのような形でプロジェクトが動き出すのか、情報が入れば続報の形でお伝えしたいと思います。

開業15周年迎える成田スカイアクセス

後段は話題を変えて、成田スカイアクセスのミニヒストリー。筆者は開業前に関係機関を取材しました。 2025年は、2010年7月の開業から15周年、成田空港の機能強化、インバウンドの拡大に果たした役割はあらためて指摘するまでもないでしょう。

スカイアクセスで最後に開業したのは印旛日本医大~成田空港間(19.1キロ)。純粋な新線は10.7キロ。空港側8.4キロは既設の路盤上に線路設備を敷設しました。

成田湯川~2ビルの高架区間を走る京成3100形。撮影地はJRとの併走区間で、橋りょう方式で建設した新線区間とは異なります(筆者撮影)

橋りょう方式を採用

工事を担当したのは鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)です。2006年2月着工、2010月3月完成。実質工期4年間というのは、鉄道新線建設では異例の短期決戦です。

新線区間の多くは高架方式ですが、現場でコンクリートを流して橋脚を建てる従来型の工法では開業に間に合わない。そこでJRTT東京支社は橋りょう方式を採用しました。

橋りょう方式は、橋脚の間隔は約20メートルと標準的な高架鉄道に比べて2倍程度に広げました。路盤も、あらかじめ工場で製作した桁(けた)をクレーンで吊り上げて施工、工期短縮につなげました。

新線区間のトンネルも一工夫。工場製作した部材を現場で組み上げる、住宅のツーバイフォーのような工法を鉄道建設ではじめて採用しました。

成田スカイアクセス印旛日本医大~2ビル間の成田湯川駅、新線と同時開業で、間もなく15周年を迎えます。

筆者は本コラム現地取材ではスルーしましたが、駅舎はダイナミックな3層構造。駅周辺にはサクラが名所の公園や歴史ある社寺もあるそうです。次回はぜひ途中下車して駅周辺を散策したい思います。

取材日の成田空港第1ターミナルビル。サクラの開花シーズンにあわせた訪日客でにぎわいをみせていました(筆者撮影)
タイトルカットと同地点でN’EXを撮り鉄。スピード重視のSKLに対しN’EXは東京、新宿、横浜などから乗り換えなしで空港に直行できる利便性を売りにします(筆者撮影)

記事:上里夏生

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