導入進む「無線式列車制御システム」 JRや大手私鉄に続き地方鉄道でも広まるか 技術的なポイントや課題は?

2020.11.23

八高線での試験に使用されるGV-E400系電気式気動車。ディーゼルエンジンで発電した電力でモーターを駆動します。 写真:JR東日本

無線を利用して列車の走行位置などを確認する「無線式列車制御システム」の導入が進んでいます。JR東日本は2020年秋、八高線で試験開始、小海線に導入。国土交通省は地方鉄道への展開を目指し、専門家による検討会を設けて課題を整理しています。

鉄道は有史以来、線路を電気的に区切って前方に列車がいない場合だけ進行できる軌道回路の原理で運行管理してきましたが、新方式は無線で前方の安全をチェックする仕組みです。新システムは線路や信号ケーブル点検などの膨大なバックヤード業務を軽減して、省力化・効率化につながります。技術的なポイントに加え、国や事業者の考え方を探ってみました。

軌道回路に代わり無線で前方の安全を確認

現状の軌道回路と将来の無線式を対比させた国土交通省の開発イメージ 画像:国土交通省

文字では説明しにくい無線式列車制御システム。まずは、国交省鉄道局の検討会資料を転用したイメージをご覧下さい。

左側の「従来の列車制御システム」が現行方式。軌道回路はレールを電気的に仕切った1つの区間で、列車が区間内に入ると後方の信号が「赤」に変わり、列車の誤進入を防止します。列車が軌道回路区間を抜けると、信号は「黄」や「青」に変わり、後方の列車が区間内に進めます。

これに代わるのが右図の「無線式列車制御システム」で、線路を区切る軌道回路をやめて無線で前方の列車をチェック、安全確認した上で進行する仕組みです。図では、①自列車の位置情報を地上無線機に送信 ②地上制御装置が停止位置情報を生成 ③後続列車に停止位置情報を送信 ④停止位置情報を基に速度制御――と何やら複雑ですが、実際は無線式の方がずっと簡素です。

軌道回路のケーブルは一般に線路脇の側溝に敷設されているので、損傷がないか徒歩で点検しなければならず(実際にネズミにかじられて列車がストップするトラブルもありました)、メンテナンスの人手や費用が掛かります。軌道回路を無線化すれば点検が不要になって省力化できます。都市線区では、情報伝達の無線ネットワークを鉄道事業者が自ら整備しますが、地方鉄道の場合は既存の携帯電話ネットワークを使う手もありです。

分かりやすい例えがカーナビ。昔のカーナビは位置情報があいまいで、海岸沿いではクルマが海中を走るように表示されたりしました。それが今は、誤差1m以内といわれるほど精度が向上しました。最新の無線システムは、列車位置の割り出しにカーナビと同じGPS衛星や「みちびき」など準天頂衛星を活用します。鉄道と道路の違いはありますが、高性能のカーナビで列車を運行管理するのが無線式列車制御システムといえば、多少はイメージをつかんでいただけるでしょうか。

昔の鉄道技術は、すべてを鉄道内で開発するクローズドだったのに対し、最近は市中の優れた技術を鉄道仕様にアレンジして積極的に取り入れる姿勢に変わっています。そうした時代に合わせた変化で可能になったのが、新しい制御システムともいえるでしょう。

八高線と小海線に導入・JR東日本

9月に試験がスタートした八高線列車無線制御システムのイメージ 画像:JR東日本

無線式列車制御システムの採用に熱心なのがJR東日本です。同社は新幹線や首都圏線区以外に数多くのローカル線を運行しており、省力化や効率化が企業を挙げた課題となっています。同社は1995年から、日立製作所と共同で「ATACS(アタックス)」と呼ばれる無線式列車制御システムを開発し、2011年3月に仙石線あおば通―東塩釜間、2017年11月に埼京線池袋―大宮間に導入しています。

そして2020年、地方ローカル線への展開を目指し、八高線と小海線への採用を決めました。八高線のシステムはGPSや「みちびき」で列車位置を把握し、携帯無線通信網による情報伝達で踏切と列車速度の双方を制御します。9月から高崎―高麗川間で試験中で、2024年度導入を目指すそうです。最初に2021年1月まで踏切制御の試験、続く速度制御のテストは2021年度を予定します。

踏切制御では、仮に踏切内で自動車がエンストした場合、衛星測位技術で列車位置を検知。中央装置からの指示で近接する列車に自動でブレーキを掛けます。これら八高線のシステムは、JR東日本の発表資料からのイメージをご覧下さい。列車の速度制御、踏切制御ともに膨大な地上設備が必要ですが、無線に置き換えることで簡素化できます。

小海線小淵沢―小諸間に導入するシステムは本来、2020年4月の運用開始を予定していましたがコロナ禍で半年遅れ、10月12日からの始動となりました。列車と地上設備が双方向で情報をやり取りし、従来に比べて地上設備をスリム化、閉そく方式や列車制御方式の機能向上につなげます。安全・安定輸送のさらなるレベルアップ、設備スリム化による故障リスク低減などが図られます。

国は2022年度実用化を目指す

最終章は国の取り組み。地方鉄道への技術展開を図る国土交通省の「地方鉄道向け無線式列車制御システム技術評価検討会」は有識者と鉄道事業者代表で構成され、2020年2月と9月の2回、開催されました。主なユーザーが地方鉄道で、民間レベルでは開発が進みにくい点を考慮して国が立ち上げた会合で、日本信号が技術開発を主導、鉄道技術総合研究所が安全性を評価します。

国交省は2年後の2022年度の実用化を目標としており、本年度はシステムの基本要件を確認、来年2月の会合で安全性を検証するスケジュールです。これまでの会合では、情報伝送の安全性などを中心に確認することを決定しました。有識者委員からは、「コストダウンのため、通信に汎用回線を使う」「初期投資だけでなく運用コストに配慮する」「機器故障など異常時の対応も含めて検討する」といった意見が出されています。

文:上里夏生


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