川口駅(東口)。駅周辺にタワーマンションは少なく、すっきりした印象を受けます(2024年、筆者撮影)

地元の熱意がJR東日本を動かしました。筆者コラムで2024年2月に紹介させていただいたJR川口駅への中距離電車(中電)停車。埼玉県川口市とJR東日本大宮支社は2025年4月24日、「上野東京ラインの川口駅停車に関する基本協定」を締結しました。

【参考】JR川口駅に上野東京ラインが停車!? 川口市が「駅再整備計画案」示す 羽田空港直結などに期待(埼玉県川口市)【コラム】(※2024年2月掲載)
https://tetsudo-ch.com/12944356.html

「請願駅」(今回は請願ホームですが)……。自治体や企業の要望で新設される鉄道駅のことで、建設費の全額または一部を地元が負担します。鉄道会社にも利用促進のメリットが期待でき、鉄道、自治体双方にとってWINWINの鉄道プロジェクトです。

駅改良の事業(工事)期間は15年程度で、実際に上野東京ラインが川口に停車するのは順調にいって2040年ごろですが、今後首都圏でも本格化する人口減少時代に向け、中電の川口停車は地域の競争力を維持・強化する強力なツールになりそうです。

今回は筆者前コラムをアップデートしながら、まちと鉄道の関係を解き明かしました。

まちづくりビジョンに中電停車

川口~赤羽間で荒川を渡る中電。マンションが建ち並ぶ〝都心の風景〟が一瞬〝荒川の自然〟に変わります(写真は上野東京ラインでなく並走する湘南新宿ラインの列車です)(筆者撮影)

東京発のJR京浜東北線が、荒川を渡って埼玉県最初の駅が川口。川口市は各停タイプの京浜東北線だけが停車する川口駅に、上野東京ラインのホームを新設、中電を停車させる駅改良を計画してきました。

今回の基本協定にいたる動きを時系列で追います。川口市が2022年5月に公表した「川口駅周辺まちづくりビジョン」。「交通」の項目トップの「鉄道輸送力の増強」に、「中距離電車停車のためのホーム増設」が記載されました。

川口市は2023年度予算に調査費を計上。JR東日本に中電ホーム増設などに関する調査を委託し、2024年にJRが概算事業費を提示。奥ノ木信夫市長は、「川口駅再整備基本計画(案)」を公表しました。

基本計画公表に続き、川口市は2024年7~8月に市民などの意見を聞くパブリックコメントを実施。計画を実行に移すため、JR東日本と基本協定を締結しました。

乗車人員はJR埼玉県内3位の川口駅

JR川口駅の2023年度1日平均乗車人員は7万4000人ほどで、埼玉県内のJR駅では大宮、浦和に続く3位です。ちなみに、大宮、浦和駅には中電が停車します。

川口駅は線路が地上、駅舎が橋上の2層構造。6線が並びます。西側から、①湘南新宿ライン下り(大宮方面)、②同上り(赤羽方面)、③上野東京ライン下り、④同上り、⑤京浜東北線下り、⑥同上りで、京浜東北線の上下線間に島式ホームがあります。

橋上駅舎には東西自由通路があり、北側にもペデストリアンデッキの自由通路が並行します。

駅整備で〝エキナカ〟も?

川口市とJR東日本の協定は、①ホームなどの整備、②橋上駅の自由通路整備、③駅構内の店舗整備の3項目が主なメニューです。

ホーム整備では、駅西側の市有地に鉄道用地を拡幅して線路を西側に寄せて上野東京ラインホームを新設します。駅舎関係では。東西自由通路とペデストリアンデッキ自由通路の間に橋上駅舎を建設(新設)します。

橋上駅舎の東口寄りには、現在駅構内にある店舗を集約・移設する店舗棟を建設します。計画によると、JR各線・各駅で話題の〝エキナカ商業施設〟が整備される可能性もありそうです。

駅改良に関係する施設のうち、ホーム、コンコースなどの鉄道関係はJR東日本が保有します。東西連絡通路は市が所有管理して24時間通行可能に。駅を挟んだ東西の連続性を確保するほか、災害時の避難経路でも川口市とJR東日本が協力します。

上野東京ライン停車(ホーム新設)にあわせた川口駅改良の全体イメージ(資料:川口市)
上空からの鳥かん図。改札口、コンコース、店舗などの位置関係がよく分かります(資料:川口市)

川口市によると、総事業費は概算431億円。ホームなどの整備と駅の自由通路整備費用は川口市が負担。駅構内の店舗整備はJR東日本が負担します。ちなみに、筆者前コラムも概算事業費431億円の試算を挙げており、数字は一致します。

JRによる駅整備を前例にすれば、測量・設計と実際の施工にトータル12~16年が基本。工期15年程度を想定して、地元では「2040年にも快速停車」の情報が飛び交います。

設計と工事はJR東日本が受け持ち、2025年度から測量・地質調査、基本・概略設計に着手するスケジュールです。

「住み続けたいまちに」(奥ノ木市長)

川口市役所での協力協定調印式では、奥ノ木信夫市長とJR東日本の石井剛史執行役員・大宮支所長が協定書にサイン。奥ノ木市長からは、本サイトをご覧の皆さまに次のようなコメントをいただきました。

「上野東京ラインの停車が実現すると、川口駅の混雑緩和が見込まれ、川口市民の利便性が大きく向上すると考えます。東京一極集中が激化する中、都市間競争を勝ち抜くため、上野東京ライン停車を起爆剤として、川口市が『住み続けたいまち』、『さらなる選ばれるまち』として発展を続けるよう、市としても全力で取り組んでまいります」

協定書へのサイン後、フォトセッションに応じる奥ノ木川口市長(左)と石井JR東日本大宮支社長(右)。石井支社長は「川口市や地域と連携し、沿線地域の発展に貢献したい」と述べました(写真:川口市)

東北線の始まりは川口だった

ラストは本コラムの取材で見つかった、川口と鉄道で一題。明治時代、東北線が官営でなく日本鉄道という民間の手で建設されたのはよく知られるところですが、日本鉄道が最初に着工したのは川口~熊谷間です。

川口が選ばれたのは、地形的な理由に加え、資材搬入に荒川の水運が利用できるからです。今も川口を発車した列車は、荒川を渡って東京都内に入ります。

ところで、鉄道史書にこの記述を見付けた筆者は、「熊谷は東北線でなく高崎線なのに?」と思ったのですが、実は東北線と高崎線が現在のような大宮分岐になったのは後付け。初期は、熊谷や岩槻での分岐案もあったそうです。熊谷はともかく、岩槻は東武アーバンパークライン沿線。JR線は走りません。

東北線の歴史の始まりは1883年の上野~熊谷間ですが、それはともかく東北線の最初の扉を開けた川口に約1世紀半を経過して中電が停車するというのは、川口鉄道発展史第2章の幕開けのように思えました。

川口駅を通過する上野東京ラインの列車。現状の線路配置ではホーム新設の余裕はなく、相応の大規模工事になることが分かります(筆者撮影)

記事:上里夏生

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