JR西日本は総合検測車「DEC741」を新たに導入します。

検測車とは、走行しながら地上設備の状態をチェックする試験車両のこと。線路の状態を見る「軌道試験車」や架線・信号系統を見る「電気試験車」、双方の機能を備えた「電気・軌道総合試験車」など様々な種類があり、有名なものとしては東海道新幹線や山陽新幹線の状態を確認する「ドクターイエロー」や、JR東日本の「イースト・アイ」などが挙げられます。

「DEC741」は2021年7月に引退した国鉄時代の電気検測試験車「クモヤ443」の後継とも言える存在。電気設備検査機能を受け継ぎながら、電柱、信号機、線路などの設備情報も一度に取得可能にしたうえで、在来線「全区間」の走行・検測を可能にした電気式気動車です。車両長は約21メートル、最高速度は100km/h。

先頭の「DEC741-1」屋根上や側方に50台のカメラを設置しており、これらの「電気設備撮像装置」で電柱、信号機、がいしなどのデータを取得します。なお、報道公開時には未設置でしたが、「DEC741-1」の床下には新幹線で試行している線路設備診断システムも設置予定だそうです。

後方の「DEC741-101」には「クモヤ443」にも積まれていた架線検測装置(トロリ線の摩耗を確認)のほか、電気設備測定装置を配置し、架線周りの高低差や離れなどをチェックします。2両で取得できる設備データは約100種類にも及ぶそうです。

鋼製車体のDEC741は二色で塗り分けられています。青は事業用車両のイメージ、黄色は警戒色であるとともに総合検測車キヤ141系をイメージしたもの。「DEC741-101」に描かれたイラストは、この総合検測車が鉄道の安全を守っていくことを表現したものだそうです。

車内の様子

「DEC741-1」の内部はこのようになっています。

車内には電気設備撮像装置などの端末が設置されており、こうした車上のカメラ制御などを行います。端末の画面に表示されているのは電気設備撮像装置の取得画像(画面に映しているのはデモ用のサンプル画像)。なお、1枚目の写真奥側には「クモヤ443」から移設してきた装置が設置されています。

「撮像・測定装置」と新規開発された「画像解析装置」の総称は「電気設備診断システム」。JR西日本によれば「車上から広範囲に設備データを取得し、AI技術による解析を行うシステムは、国内の鉄道事業者では初めて」だそうです。

総合検測車導入の目的は「検査の車上化」

JR西日本 鉄道本部 イノベーション本部 田淵剛担当部長

JR西日本はなぜ総合検測車を導入するのでしょうか? JR西日本 鉄道本部 イノベーション本部の田淵剛担当部長によれば、目的は「生産性や安全性の向上」「検査の車上化」と言います。

技術の進歩により鉄道のメンテナンスも日々進歩していますが、まだ線路内での目視検査など、危険な状態での作業をなくせているわけではありません。地上検査を車上に置き換えていくことで、そうした状態から脱し、重大労災のリスクを低減していく。「DEC741」の導入はそうしたシステムチェンジの嚆矢とも言えます。

今後のスケジュールとしては、2021年11月から試験運用を開始、2025年度からの実用化を目指しています。なお「DEC741」はJR西日本の在来線全区間を走行できますが、当面の間は電化区間のみ走行するそうです。