第二常磐線から常磐新線、そしてTXに

ここからTXの歩みに触れましょう。ベテラン鉄道ファンの皆さんには、かつてTXが「常磐新線」と呼ばれていたことを、ご記憶の方がいらっしゃるかもしれません。

常磐新線が、国の運輸審議会(前々章で触れた交通政策審議会の前身の機関です)で、「緊急に整備すべき路線」として取り上げられたのは1985年ですが、その7年前、1978年に茨城県の県南県西地域交通体系調査委員会は、「第二常磐線構想」を発表しました。

当時の様子……。常磐線は首都圏の鉄道線区でも混雑が激しく、時に窓ガラスが割れる事態が発生していました。これは茨城県と鉄道路線網の関係に、主な理由があります。

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同じ首都圏でも、神奈川ならJR(国鉄)と東急、京急、小田急、埼玉ならJRと東武、西武、千葉ならJRと京成と複数の路線がありますが、茨城は基本的に常磐線一本。しかも常磐線は東京から直行で茨城に入るのでなく、東京側から松戸、柏、我孫子と千葉県の中核市を通るので、ラッシュのピーク時間帯には激しく混雑します。

つくば発金町、新小岩経由東京行き!?

本コラム執筆のため、TXの歴史を調べたら、面白い話が見つかりました。『つくばエクスプレスがやってくる』(2005年, 日本経済新聞社刊)によれば、財政事情が厳しかった当時の国鉄が考えたのは、つくば発の列車が常磐線、総武快速線経由で東京駅に乗り入れる案。常磐線から総武快速線に入る際に走行するのは、金町―新小岩間の貨物線・新金線。同線は現在も、次世代路面電車のLRT路線化が取りざたされたりします。

他にも、つくば発の列車が武蔵野・京葉線を経由して東京駅にいたるルートも考えられました。いずれも東京都心部への直結性に問題があって採用されませんでしたが、つくば発金町、新小岩経由東京行きや、つくば発新松戸、西船橋経由東京行きといった列車が実現していれば、首都圏の鉄道地図は現在とは違ったものになっていたはずです。

延伸4案の比較検討は本コラムの役目でないため、これ以上の言及は避けますが、各案には延伸線の性格が反映されるように思えます。

水戸、土浦延伸案は、いずれも新たな都市間鉄道の誕生を意味します。水戸市は人口27万人、土浦市は14万人。水戸や土浦からはJR常磐線が上野東京ラインで品川に直行しますが、ルートの異なるTXは沿線都市の活力アップにつながるでしょう。

一方の筑波山延伸案はTXの観光鉄道、茨城空港延伸案は同じく空港アクセス鉄道の可能性を広げます。特に筑波山は年間300万人以上が訪れ、「日本有数の登山客が多い山」です。筑波山案、空港案は、TXに新しい可能性を広げます。

筑波鉄道、鹿島鉄道が復活する?

ラストは鉄道ファンの皆さんに、肩の力を抜いてお読みいただける話題。延伸4案のルート図を眺めているうち、かつて同じような地方鉄道があったような記憶がよみがえり、資料を調べてみました。

一つは常磐線土浦と水戸線岩瀬の国鉄2線を結び、国鉄民営化と同日の1987年4月1日に廃止された筑波鉄道です。路線は、土浦―岩瀬間の40.1キロ。筑波鉄道には筑波駅があり(現在のTXつくば駅とは大きく離れた位置ですが)、土浦、つくばの両市を結びました。

もう一つは常磐線石岡を起点に、鹿島灘に近い鉾田に延びていた鹿島鉄道(26.9キロ)。比較的最近まで営業していましたが、2007年4月1日に廃止されました。鹿島鉄道の廃線跡は一部バス専用道に転用され、石岡駅付近では、同駅と茨城空港をつなぐアクセスバスが走行しています。

TXの延伸が簡単にいかないことは、本サイトをご覧の皆さんには説明不要でしょう。それでも日本が人口減少に向かう現代に、鉄道の延伸構想が表面化したことは鉄道の可能性を示すような気もします。今後も動きがあれば、続報の形で紹介させていただきたいと思います。

高架上と地下区間がある茨城県内のTX。終点のつくば駅は同県内唯一の地下駅です(写真:Sunrising / PIXTA)
2007年4月に廃止された鹿島鉄道。現在、一部の車両は茨城県小美玉市の私設・鹿島鉄道記念館(通常は非公開)で保存されます(写真:Tri Star / PIXTA)
バス専用道として再利用される鹿島鉄道の線路跡。地元・茨城県石岡市などは「地方型BRT(バス高速輸送システム)」と位置づけます(写真:mitu03 / PIXTA)

記事:上里夏生