黒部宇奈月キャニオンルートとは?

2024年、日本一のV字谷といわれる黒部峡谷から上流の黒部ダムに至る新たな観光ルート、「黒部宇奈月キャニオンルート」が一般開放(旅行商品化)されます。

一般的に黒部ダム観光といえば、立山黒部アルペンルートを想像される方が多いでしょう。電気バスやケーブルカーなど様々な乗り物を乗り継ぎながら、ダムや湖、立山の自然を楽しむ。長野県側の扇沢駅から向かうルート、富山県側の富山駅から向かうルートがあります。

一方、黒部宇奈月キャニオンルートは、富山県の北東から南下するように黒部ダムへアクセスできるルートです。北陸新幹線に乗って黒部宇奈月温泉駅で下車し、富山地方鉄道、黒部峡谷鉄道と乗り継いで欅平駅へ。これまではこの欅平駅が終点でしたが、黒部宇奈月キャニオンルートはここから黒部ダムまでの約18kmを結びます。

立山黒部アルペンルートとも接続。北陸新幹線や富山地方鉄道、黒部峡谷鉄道など公共交通機関を活用した立山黒部エリアの観光が可能になります(画像:富山県)

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もともとは黒部川第四発電所の建設などを行うために整備された工事用のルートで、現在も発電所の保守や工事に使われているため、基本的には関西電力(関電)の関係者しか通れません。富山県は2018年に関電と協定を締結、安全対策工事を行ったうえで旅行者向けの観光ルートとして開放することに。

そうした経緯から生まれる観光ルートですから、ここから先はディープスポットになります。掘削時は岩盤が160℃にも達したという灼熱のトンネルや急な斜面を昇降するインクラインなど、ちょっと普通じゃ楽しめない乗り物でワクワクする旅路を行くことになります。

たとえるなら、立山黒部アルペンルートが雄大な自然の美しさが楽しめる観光ルートだとすると、黒部宇奈月キャニオンルートは冒険心をくすぐる観光ルートと言えるでしょう。

とはいえ、黒部宇奈月キャニオンルートは一般の鉄道や路線バスのようにきっぷさえ買えば通れるわけではありません。今のところは旅行商品の販売のみの予定。要するに、旅行会社等で事前にツアーへ申し込んで楽しんでくださいね、という観光ルートなのです。

実際、どんな旅になるの?モデルケースをご紹介

黒部宇奈月キャニオンルートの旅行商品は、宇奈月温泉や大町温泉郷などへの前泊・後泊がセットになった1泊2日のコースが予定されています。ツアーには専門知識を習得したガイドが同行し、事前にレクチャーを受けて臨むことになります。

実際のところ、その旅路はどんなものになるのでしょうか?

鉄道チャンネルでは昨年9月、この黒部宇奈月キャニオンルートの体験取材に参加。実際に行われるツアーの内容を先取りしてきました。旅行商品は欅平発、黒部ダム発のルートが用意されるようですが、本稿では関東圏(東京)から欅平発のルートに参加したという想定で、順を追って黒部宇奈月キャニオンルートの魅力を紹介いたします(注:取材当時は雨&夜でしたので、一部素材サイトの写真をお借りしています)。

◆北陸新幹線で富山へ!まずは温泉を楽しんで

北陸新幹線に使用されるE7系・W7系車両(写真:IK / PIXTA)

富山・黒部宇奈月温泉駅へ向かう北陸新幹線は2024年3月16日に金沢~敦賀間の延伸開業を控えており、今最も注目を集めている新幹線といえます。比較的新しい路線ということもあり、E7系・W7系も最近(?)出たばかりの車両ですから、乗り心地や居心地の良さは抜群です。

今回の取材では集合が朝早かったこともあり、宇奈月温泉に前泊することに。東京から北陸新幹線に乗って2時間半ほどで黒部宇奈月温泉駅へ到着し、お次は徒歩で富山地方鉄道の新黒部駅へ。ここから今度は宇奈月温泉行の普通列車に乗り、およそ25分ほどで宇奈月温泉駅に到着。地元の食堂で腹を満たし、温泉に浸かってゆっくりと旅の疲れを癒します。

富山地方鉄道の車両。富山地方鉄道といえば鉄道ファンの間では有名ですが、元西武の特急列車なども走っています(写真:村上暁彦 / PIXTA)
宇奈月温泉の街並み(写真:aki / PIXTA)

◆黒部峡谷鉄道で絶景を楽しんで

翌朝から取材を再開、ここからは黒部宇奈月キャニオンルートの前哨戦です。宇奈月温泉から乗るのは黒部峡谷鉄道!もともとは電源開発の資材運搬に使われていましたが、1953年から一般旅客営業が始まりました。

乗り物ファンなら長大な編成に興奮してしまうかもしれませんが、美しい峡谷の景色もお忘れなく。取材当日は雨だったのであまりいい写真も撮れませんでしたが、けぶる峡谷の合間に姿を見せる橋梁や宇奈月湖、ダムなどの美しいこと。一生に一度と言わず、何度でも見ておきたい景色です。

◆蓄電池機関車で高熱隧道を抜ける

欅平からはいよいよ「黒部宇奈月キャニオンルート」に入ります。ここでは一度トロッコを降り、人荷用の竪坑エレベーターに乗り換えます。これは「仙人谷ダム」の建設のために作られた輸送ルート。かつてはこの標高600mの欅平下部からエレベーターで一気に200mほど上昇し、工事用資材を輸送していたそうです。

欅平上部へ到着すると、そこには見慣れない車両が待ち受けていました。蓄電池機関車と耐熱式の客車です。この客車に乗り、上部専用軌道と呼ばれるトンネル区間を抜けていきます。

乗車してしばらく経つと、うっすらと硫黄の匂いが漂ってきました。いよいよ高熱隧道です。この辺りは二つの火山脈がクロスするポイントで、トンネルを掘っている最中には岩盤の温度がなんと160℃に達したこともあったのだとか。現在はトンネルが貫通して空気が通ったこともあり、40℃ほどに落ち着いていますが、それでも車外に出られるような温度ではありません。

車内ではガイドさんによる解説も。当時の新聞記事なども交えながら歴史を学びます

◆絶景の仙人谷、電源開発の歴史が分かる「黒部川第四発電所」

高熱隧道を抜けると、今度は仙人谷へと到着します。灼熱のトンネルから開けた場所に出ることもあり、開放感は抜群!ここでは絶景を存分に楽しみましょう。仙人谷からさらに先に向かうと黒部川第四発電所があり、今度は電源開発の歴史に触れることができます。

先ほどの高熱隧道に限らず、黒部ダム/黒部川第四発電所の建設工事は「世紀の大工事」と呼ばれるほどの難工事でした。日本経済を支えた先人の足跡をぜひ辿ってみてください。

◆真夏でも18℃以下?急峻なケーブルカー「インクライン」に乗る

黒部宇奈月キャニオンルート、前半の見所が高熱隧道だとしたら、後半の見所は「インクライン」でしょう。これは言ってしまえば「ケーブルカー」なのですが、旅客ではなく荷物を運ぶ乗り物です。ただしこのインクラインは従業員や作業者の昇降用にも使われるため、一般的なケーブルカーと同じように台車にもブレーキが備わっているそうです。

傾斜はなんと34度。インクライン下部の標高が869m、上部が1,325m、インクラインの延長は815mです。運転速度は約40m/分で、所要時間は20分ほど。インクラインは長い長い斜坑をゆっくりと進んでいくのですが、途中には一般的なケーブルカーと同じようにすれ違いのできる場所もあり、退屈とは無縁です。なお気温は真夏でも18℃以下になるそうで、上着は必須です。

インクライン車内の様子

インクライン上部に到着したら、今度は黒部トンネル内をバスで移動し、黒部ダムへと向かいます。ここも随所に明かりがあるとはいえ暗いトンネルの中ですから、まるで洞窟探検のような趣があります。

高熱隧道、仙人谷、インクライン、そして黒部トンネル……大人になると「ここで働くのは大変だろうな……」としみじみと感じ入る部分もありますが、一方で冒頭で述べたように、冒険心をくすぐられる観光ルートであることは間違いありません。お子さまはひょっとしたら怖くて泣いてしまうかもしれませんが、そそられる子も多いでしょう。

黒部宇奈月キャニオンルートの終点である黒部ダムからは、そのまま長野方面へ行くこともできますし、立山黒部アルペンルートで富山へ抜けていくこともできます(この辺りは旅行商品の内容によるでしょう)。

記者は時間的な都合もあり長野方面(扇沢)へ戻り、そのまま北陸新幹線で帰りましたが、立山黒部アルペンルートで様々な乗り物を満喫するのも面白そうです。

一般開放の時期は?旅行商品の販売はいつから?

※2024年1月20日時点の情報です。

もともと一般開放のスケジュールは2024年6月30日(日)、旅行商品の販売は2024年1月29日(月)の予定でした。しかし1月1日に発生した令和6年能登半島地震の影響とみられる落石で黒部峡谷鉄道の鐘釣橋が損傷し、黒部峡谷鉄道の全線開通時期が不明となったため、旅行商品の販売は延期となりました。

富山県は全線開通時期が発表されたのちに速やかに販売開始と発表済みですので、告知され次第こちらにも追記いたします。一般開放は今のところ6月30日(日)のままですが、黒部峡谷鉄道の全線開通時期に応じて、開始日の延期の有無を判断するとのことです。

記事:一橋正浩