【鉄の本棚 03】『北の保線 線路を守れ、氷点下40度のしばれに挑む』太田幸夫著/交通新聞社新書/2011年8月発行

2016.07.01

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数年前、3月の北海道を青春18きっぷで旅していた時に驚いた。北海道でも有数の人口希薄地帯を走る石北本線に乗っていた時のことだ。

06:16に上川をでる普通列車に乗客は筆者一人だった。
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しかし上川を発車する直前にヘルメットと防寒具に身を包んだ保線作業員らしき人たちが5人乗ってきた。

石北本線で上川の次に停車する駅は上白滝だった。(当時)※ 駅間が34.0kmあって48分もかかる。

※上白滝駅は平成28年3月26日に旅客営業を廃止、信号所になった。

上川から白滝に向かって列車に乗ると、かつてはまず天幕駅があった。天幕駅は2001年に廃止された。天幕駅中心半径1kmの住民2人。半径2kmでも20人。

次の中越駅も2001年に廃止され現在は中越信号場。中越駅中心半径1kmの住民は0人。半径2kmでも0人。

そして上越駅(現・上越信号場)。こちらは人口のデータすらない。

奥白滝駅(現・奥白滝信号場)。奥白滝駅中心半径1kmの住民は0人。半径2kmでも0人。

要は駅の周囲にほとんど人が住んでいないのである。住民人口データは不動産系のデータサイトで調べたものなのであくまでも参考値だが。

そーいう理由(わけ)で上川から白滝までの間の駅が5つも廃止されてしまったのである。結果的に37.3kmという長い駅間距離になってしまった。

もちろんこの駅間はJR在来線で日本最長である。

現在は上川6時23分発の網走行1本しか石北本線の下り普通列車は存在しない。これでは日常的に利用できないのも無理はない。

で、その時は延々と続く車窓を見ていた。普通列車で48分も停まらないことはないのだ。

すると予定よりも早く、いきなり駅のない場所で列車が停車したので驚いてたのだ。列車はドアを開けず(旅客扱いをしていないということだ)作業員の人たちは運転席横の扉からハシゴをかけて雪の中に降りて行った。

そこは上越信号所だった。北海道で最も古い木造駅舎だという。
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古い看板があって、「石狩北見国境 標高634m 上越駅」とある。
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ここは、1932年(昭和7年)に上越駅として開業したが1975年(昭和50年)に駅周囲に住民がいなくなったために駅業務を廃止して信号所となった。

停車中なので運転士さんに尋ねてみた。彼らは保線と駅の雪かきのための交代要員だという。しかし周囲は北海道でも有数の人口希薄地帯である。もちろんコンビニどころか住宅も商店も何もない。

運転士さんは冗談半分に「この辺りは人間よりも熊の方が多い」と笑っていた。

確かに、JR東日本の東北エリアとJR西日本を含めた北陸エリアでも、ここまで人口が少なく雪の多い地域はあまりないだろう。

保線や雪かきにかかる膨大なコスト(主に人件費)を思うとJR北海道の経営の苦しさにはついつい同情してしまう。

そのことを思い出しながら『北の保線 線路を守れ、氷点下40度のしばれに挑む』(太田幸夫著 鉄道新聞社新書)を読んだ。

著者の太田氏は北海道新十津川生まれ。新十津川駅も札沼線の北海道医療大学駅以北の非電化区間が廃止されそうで心配なのだが。氏は生粋の道産子だ。

この本自体は保線に必要な軌道の基礎知識や北海道の特殊な保線技術に多くのページがさかれている。(第1~3章)第4章「雪や”しばれ”と闘う保線員」が厳寒の北海道を走る鉄道の保守がいかに困難であるかを記述している。

実は保線に必要な知識が前提となったエピソードが主なものなのでここで紹介しても説明が多くなってしまう。

興味のある方には一読をお奨めしたい。180ページ程の手軽な新書版だが中身は濃い。

巻末に「北海道鉄道唱歌(第一集)」が掲載されているが、これは明治33年に作られたもので有名な大和田建樹氏の作品に先立つこと6年という。この歌が50番まであって、下段に著者による解説も付いている。北海道を各駅停車で旅行する時には持参したらいいかな、と思う。実に長閑で広々とした気分になる。

その後、乗客は筆者一人に戻って上越信号所を出た。そして平成28年3月26日信号所になった上白滝に着いた。

一日に上下1本ずつしか停車しない駅だが安全のためにホームと駅舎部分はきっちりと雪かきがしてあった。時間が経っているのかうっすらと雪に被われている。
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この駅名標ももう見る事はできない。上白滝駅中心半径1kmの住民は38人。半径2kmなら80人。
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白滝は現在も駅である。白滝駅中心半径1kmの住民は538人。半径2kmなら694人。ビックリするほど多いというわけでもない。
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次の旧白滝駅も平成28年3月26日に廃止された。

JRでは唯一「旧」で始まる駅名だった。最初に入植者の入った地域だったが土地が悪く入植者が移転してしまったために「旧白滝」となったらしい。旧白滝駅中心半径1kmの住民は12人。半径2kmでも23人。
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下白滝駅も平成28年3月26日に旅客営業を廃止して信号所になった。旧白滝よりも人家は少ない。下白滝駅を中心に半径1km圏内の住民は5人。半径2kmでも変わらず5人。

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ちなみに石北本線でも最も難所であった常紋トンネルとスイッチバックを過ぎた場所にある金華駅も平成28年3月26日に旅客営業を廃止して信号所になった。

常紋トンネルの犠牲者を悼む”常紋トンネル工事殉職者追悼碑”を訪れる方法は金華駅が無くなると冬季は不可能だと思う。金華駅中心半径1kmの住民は10人。半径2kmでも12人。
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この駅名標ももうない。
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夏の北海道は爽やかに暑い。しかし冬の北海道は”しばれる”のだ。

使った駅住民人口データ、参考までに筆者の住むJR中央線武蔵小金井駅中心半径1kmの住民は43、472人だ。2kmになると129、034人が住んでいる。

※写真は全て筆者が2014年3月に撮影したもの。


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