大井川鐵道

大井川鐵道は6月28日(火)株主総会で2016年3月期決算を発表した。

営業収益は前年同期比5.5%増11億6482万円。金融機関から23億円の債権放棄を受け 税引き後利益は24億9009万円と2期連続黒字になった。

大井川鐵道も新たな経営陣を迎え、ようやく一息ついたか、という感じだ。

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しかし「鉄道とは多くの人間(物資)を運ぶことで成り立つ」という基本原則がある以上、ベースになるエリアの人口が減少していて、観光の乗車人員に頼るビジネス・モデルに経営を委ねているという体質の脆弱性に変化はない。

先日訪問したひたちなか海浜鉄道の様に沿線に100万人単位の観光資源を複数抱える路線とは根本的な初期条件が異なっているのだ。

そもそも、大井川鐵道の経営を支えてきたのはSL急行だった。

40年前の1976年(昭和51年)国鉄の「動力近代化計画=無煙化」という方針によって全国から一斉に蒸気機関車の姿が消えるという時代の大きな変化があった。

そこに目を付けた名鉄出身の白井昭氏(後に大井川鐵道副社長)が蒸気機関車の動態保存・観光運行を大井川鐵道に導入した。当時、北海道釧路機関区標茶支所から大井川鐵道にやってきたC11形227号機は今年も6月11日(土)から「きかんしゃトーマス」に変身して子供達の歓声を集めている。

1976年に始まったSL急行は90年代を通じて年間利用者が20万人を超えた。

2009年(平成21年)には最高の28万人超を記録。

しかし、2011年(平成23年)東日本大震災で観光需要が一気に冷え込んだ。2009年度28.2万人のSL急行乗車人員が2012年度は22.5万人と20%減。SL急行の利益で支えられていた経営は急速に悪化する。

2012年度決算、7711万円の最終赤字。

2013年(平成25年)高速バス規制強化でSL急行日帰りツアーが46%も減った。同年本線乗車人員前年比10%減 収入も6%減。

2013年度、1810万円の最終赤字。

2014年度3月期純損失8543万円。

2014年3月ダイヤ改正で普通列車運転本数を4割減らし年間2300万円のコストを削減。

一方で新たなビジネスが始まった。2014年「きかんしゃトーマス」号を100本運行、乗車人員6万人。

2015年 C56 形44号機を装飾したジェームス号も加わり運行本数を188本に増加。本線(金谷~千頭)の定期外運賃収入は前年比10%増6億9704万円。

2015年3月期、税引き後200万円の黒字。しかし問題は「きかんしゃトーマス」の人気で人は集まったが、本来のSL急行の乗車人員が増加していないことだ。

2015年5月地域経済活性化支援機構が支援に乗り出す。8月名古屋鉄道グループを離れ、新スポンサー北海道新ひだか町エクリプス日高の支援で経営再建をスタートした。

その結果が今回の2016年3月期決算である。

しかしそのドル箱「きかんしゃトーマス」のキャラクター使用契約も今年まで、来年以降の交渉はまだ決着していない。もちろん「きかんしゃトーマス」を子供達が熱心に追いかける時代が永遠に続く訳ではない上に国として少子化も進行している。頼みの綱は外人観光客だろうか。

1976年(昭和51年)に始まったSL急行も40年が経過し、全国的にSL復活運転が実施されている現状では必ずしも魅力的なツールとは言えなくなっている。

そもそも蒸気機関車の動態保存・観光運転を導入した白井昭氏が最も心配していたのは「機械には寿命がある」ということだった。今は元気なC11形227号機(トーマス号に使われている)だって昭和17(1942年)年9月に作られた機関車だ。大井川鐵道を走るSLで一番若いとは言え誕生から75年近くも経っている。

大井川鐵道

大井川鐵道が動態保存するその他のSLを見ると、最も古い昭和5年(1930年)製のC10形8号機は製造から86年、昭和11年(1936年)製のC56 形44号機は80年、昭和15年(1940年)製のC11形190号機でも76年使われてきた車両なのだ。

水蒸気を使い複雑なメカを駆動するSL、その心臓部であるボイラーの寿命が来たらどうするのか?

国鉄が最後に蒸気機関車(E10形)を作ったのは1948年(昭和23年)なのである。

つまり70年近く蒸気機関車は新造されていない。仮にボイラー部分だけを新造するとしてもその製造技術自体が残存している可能性が問題だ。しかもそのコストが何億円になるのか見当もつかないのである。

全国でSL運行は人気が高いがこういった根本的な「時限爆弾」を抱えていることを忘れてはならない。

大井川鐵道の魅力はSLだけではない。沿線に広がる茶畑の緑。南アルプスあぷとラインも大井川に沿って絶景が続く。

大井川鐵道

しかし「鉄道とは多くの人間(物資)を運ぶことで成り立つ」という基本原則がある以上、大井川鐵道は乗客を誘致し続けなければならない。新しい施策が希求されている。

(写真・記事/住田至朗)