今年の7月末にJR北海道は『持続可能な交通体系のあり方について』というドキュメントを発表した。

『持続可能な交通体系のあり方について』

以下、全ての画像はJR北海道発表の『持続可能な交通体系のあり方について』より引用する。右下にはページ番号がそのまま付いている。

このドキュメントを丁寧に読むと、残念ながらJR北海道がいかに努力しても人口動態などの要因から不可避的経営危機に直面することが理解できる。

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問題は北海道の人口が全国平均を上回るスピードで減少していることに尽きる。そもそも鉄道は大量輸送が前提のシステムなのだ。

以下、内容を概観してみる。

第1章「持続可能な交通体系のあり方」に関する地域への相談について

鉄道を維持するために必要な費用の確保の方法について述べられている。

第2章 地域特性に応じた持続可能な交通体系について

該当エリアにおいて鉄道の他の公共交通との比較におけるメリット・デメリットが述べられる。バスとの比較で、鐵道は約6倍の輸送力があり、所要時間は約半分であることが書かれている.しかし、鉄道は大量輸送が前提であることも強調される。

特にこの「鉄道とバスのコスト構造比較」がポイントだ。

『持続可能な交通体系のあり方について』

収入を100とした場合の費用内訳を見ると、道内乗合バス16社計のデータでは輸送に直接必要な費用(燃料費、人件費など)車両の維持・修繕費用は収入に収まっている。

鉄道の場合は輸送密度が500人級では、輸送に直接必要な費用も賄えない。2000人級でも車両の維持・修繕費用の半分程度しか賄えない。一般的には輸送密度1500人程度で維持出来ると読んだことがあるのでJR北海道の場合は厳寒地・雪かきその他温暖な土地では不要なコストが多いのだろう。

しかし、平成27年度のJR北海道の路線を見てみると、

『持続可能な交通体系のあり方について』

輸送密度500人以下の路線が「宗谷本線の名寄以北」「留萌本線」「札沼線の北海道医療大学以北」「日高本線」「根室本線の滝川〜新得間」「根室本線の釧路〜根室間」「夕張支線」と7本もある。

500〜2000人の路線も「函館本線の長万部〜小樽間」「室蘭本線の東室蘭〜室蘭間」「室蘭本線の沼ノ端〜岩見沢間」「宗谷本線の旭川〜名寄間」「石北本線の旭川〜網走間」「釧網本線の網走〜東釧路間」と長大な路線が列ぶ。

図の左側が昭和62年にJR北海道発足時の状況だが、500人以下が少ない。札幌周辺エリアで札沼線の桑園〜北海道医療大学間の様に輸送密度が1万人を越える線区も出現しているが、全体的には輸送密度が下がっている。

これがリアルな現状だ。

第3章 JR北海道発足30年の経過について

JR北海道発足の前後に、昭和55年成立の「日本国有鉄道経営再建特別措置法」によって輸送密度が4000人未満の路線は廃止されている。

しかし(2)経営を取り巻く環境変化について

①高規格幹線道路の整備が進み、無料供用区間を含め約6.5倍に増えた。自動車保有台数も約1.8倍、保有率で29%から54%になっている。

『持続可能な交通体系のあり方について』

実際に、筆者は今年9月初旬に上川〜遠軽間を台風などの災害による不通区間の代替代行バスで往復したが、殆どの部分で無料の高規格道路を使っていたのが印象的だった。それでも鉄道の方が要する時間は短いのだが。

②北海道全体の人口が石狩エリアを除いて減少している。

これが最大の問題だ。四半世紀、25年間で人口が増加しているエリアが札幌周辺の石狩エリアだけなのだ。

『持続可能な交通体系のあり方について』

10~20%という驚く様なスピードで人口が減ったエリアが5つ、20〜30%という異常なスピードのエリアが4つ、さらに30%を越えるという末期的なエリアが3つもあるのだ。要は大半のエリアで凄まじい人口減少が続いている。

かつて終端駅「夕張」のコラムでも書いたが、石炭採掘とニシン漁という機械化以前の労働集約的産業が明治以降北海道に多くの人口を流入させ、その経済を支えてきたのだ。しかし、もはやサービス産業以外に労働集約的な業態が無くなってしまった。

人口減少が顕著なエリアではサービス産業そのものが成り立たない。例外は老人をケアする施設くらいだろう。しかし半径2kmの範囲内に3桁の人口しか存在しないエリアではそれすらも難しい。

この図もショッキングだ。JR北海道とJR九州の人口密度はこんなに違う!

『持続可能な交通体系のあり方について』

ハッキリ言ってこんな人口希薄エリアだけでJR北海道の経営が本気で成り立つとJR分割民営化の際に当事者がキチンと考えたのか、疑問だ。

経営安定基金運用益の減少も、同様の「予想外の事態」が年金制度などでも起こっていることから推察して、当時の官僚たちの予測の甘さは明らかだ。

(3)経営状況について

①鉄道輸送密度の推移

人口の増加してきた札幌圏では輸送密度は増加しているが、人口が減少しているほとんどのエリアでは輸送密度は減少している。これは先ほど引用した27ページを参照してほしい。

②鉄道運輸収入、経常損益の推移

『持続可能な交通体系のあり方について』

鉄道運輸収入は運賃改定した平成8年をピークに減少している。逆に旧国鉄から引き継いだ設備の老朽化が進み、修繕費、設備投資が増えている。

③今後の収支見通しについて

安全の確保を最優先とした上で全体の収支計画を策定するが、経営安定基金運用益の減少などもあって今後180億円規模の経常損失になるという予想だ。

(4)土木構造物の維持更新等

①老朽化した設備の維持更新費用

誰が考えても毎日列車を運行していれば設備は傷む。さらに今年の夏に北海道を襲った台風や豪雨の被害を復旧する少なくない費用が発生した。

『持続可能な交通体系のあり方について』

しかしショッキングなのは運行管理システムに、今は見たこともない人が多いだろうフロッピーディスクが使われていることだ。1996年、つまり20年間更新されていないのだ。

『持続可能な交通体系のあり方について』

②過大な設備のスリム化

ここで、昨今ニュースで取り上げられる「乗降客1人以下の駅51駅を廃止する」と繋がる。実際には留萌本線の留萌〜増毛間の廃止が決まっているので、実際に俎上に上がる駅は46となる。

『持続可能な交通体系のあり方について』

以上『持続可能な交通体系のあり方について』に沿ってJR北海道の苦境を読んできた。

批判的な視点が無く、JR北海道の提灯持ちじゃないか?と思われるかもしれないが、データ的な根拠を欠き、感情的にJR北海道を批判する意見をネット上で散見するので敢えてこの記事をまとめた次第である。

筆者は冬季のJR北海道で輸送密度の低い石北本線に乗った際、1日に数本しか停車のない駅でも丁寧にホームの雪が(最低限乗り降りに必要な部分だけにせよ)雪かきしてあるのを見た。そしてその人件費を想像して溜息をついた。それは日常なのだ。

では次回以降は、この46駅についてデータを中心に分析したい。

(写真・記事/住田至朗)