トップ画像はリンデスファーンの福音書。7〜8世紀にイングランド北部のノーサンブリア王国の聖域リンデスファーン修道院で製作された装飾写本です。印刷技術以前の、修道士が一文字一文字神を称えながら写したもの。アングロサクソン様式とケルト様式が混ざり合った英国特有の宗教芸術です。

修道院の奥深く、神に身を捧げた修道士たちがひとつひとつの文字に神への畏敬を込めながら書き写していった美しい聖書。中世ヨーロッパの街の中で、親方と職人たちが挿絵を描き、金箔を貼り、美しい彩色を施していった装飾写本。かつて「本」とは、手間も時間もお金もかかる高級品であり、当時の優れた芸術家や職人たちが全霊を傾けてつくる「工芸品」でした。

今日、5月21日に発売された『世界でもっとも美しい装飾写本』は、そうした古代から中世ヨーロッパで生み出された装飾写本の数々を、美しいビジュアルで収録しています。人気の「ケルズの書」「ベリー公のいとも豪華なる時禱書」はもちろん、日本ではめったに見られない海外収蔵の貴重な装飾写本を含む90点あまりを掲載。ヨーロッパ中世の装飾写本をこよなく愛する美術史家の田中久美子氏による、詳細で分かりやすい解説も付されています。

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後半には文章の始まりの1文字を大きく美しく飾った「装飾頭文字(イニシアル)」も多数収録。美術好きや装飾写本好きはもちろん、デザインやイラストのアイデアを求めるクリエイターにも役に立つ1冊です。

《書誌情報》

『世界でもっとも美しい装飾写本』
田中久美子 著
定価 本体2,900円+税
体裁:B5変形版 288ページ オールカラー
版元:MdN
ISBN978-4-8443-6870-0


ハッキリ言って中世の聖書、装飾写本は異様に美しいんです。プロテスタント登場以前ですからローマ・カトリック教会一本槍。ラテン語の福音書しかない時代です。6人の奥方で有名なヘンリー八世の時代に修道院は解散され、ローマから破門されたヘンリー八世が自ら首長となった英国国教会に移行します。が、実質的な信仰内容はほぼローマ・カトリック教会に準じていましたからリンデスファーンの福音書装飾写本は遺棄されることなく大英博物館〜大英図書館に受け継がれました。

この『世界でもっとも美しい装飾写本』、惜しむらくは版型が小さいこと。それでも2,900円ですから大型本で作ったら1万円くらいになっちゃうのかな。ちなみにリンデスファーンの福音書装飾写本は丸善から完全復刻版が出ています。欲しいけど220万円以上するんですよね。